第31話 たぶん、これが一番早いと思う。

本日は久しぶりの1日2話の更新です。

朝に第30話を投稿しています。

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⚫︎マヨイ


「バルス、ちょっといいか」


 ノウアングラウスさんからの連絡を受けて僕は迷っていた。

 バルスとの決闘の結果、バルスは僕の用件を先に済ますことを望んだ。しかし、バルスの用件から済ませようと提案したのは他でもない僕だ。その僕がフレンドからのヘルプを理由にワガママを言っていいのか。


「今、フレンドから連絡が来たんだ」


「なんだ、面倒になったのか?」


 MMOでは面倒事を断る時によく使われるのが「フレンドから~」や「リアルで~」から始まる言い回しだ。バルスもMMO初心者というわけではないようで、どうやら少し勘違いをさせてしまった。


「ソプラの街って知ってる?」


「この森を抜けた先にあるって街だろ?」


「その街の北西にある村がワイバーンに襲われているみたいなんだ。たぶんソプラの街も襲われているか、防衛戦力が不足してる」


「な、なんだと!」


「そこで提案というかお願いなんだけど、今から一緒にソプラの街に行って欲しい。僕の仲間の性格だと1人は間違いなくワイバーンに襲われている村に向かってる。他2人は……ちょっと待ってね」


 藍香はNPCを見捨てられない。

 それは彼女の優しさだし愛すべき甘さだ。

 僕には持てなかったものを持っている。


『クレアちゃん、ちょっといいかな』


 暁なら藍香に同行している可能性はあるが、ほぼ間違いなく藍香はクレアちゃんをソプラの街に配置したはずだ。


『今、ソプラの街はどうなってる?』


『ノウキンさんの話だとワイバーンに追い立てられた北の山の魔物がソプラの街に向かっているそうです!藍香さんはワイバーンを倒しに行きました』


 ノウキンさん?

 ノウアングラウスさんのことかな?


『暁は?』


『あたしと一緒にいます』


『分かった。フレンドチャットは繋げたままでソプラの街の状況を中継してくれないかな?』


 暁は前線に立つプレイヤーだから戦場を俯瞰できない。

 しかし、後衛のクレアちゃんなら可能なはずだ。

 頼まれたら断れなさそうなとこを利用するようで心苦しいけどね。


『任せてください!』


「他の2人はソプラの街にいるみたい。ただソプラの街にも魔物の群れが向かっているってさ」


「ソプラの街ってどっちだ?」


 そりゃアルテラの西の森の更に西なんだから西だよ。

 西がゲシュタルト崩壊しそうだな。

 とはいえ言いたいことはわかる。

 方向感覚が狂っちゃって西がどっちか分からないんだろう。


「あっちだね」


「行くぞ!」


 僕が西を指差すとバルスは我先にと指差した方向へ走り出そうとした。


「待った」


「何だよ、急ぐんだろ?」


「うん、だから────」


 僕もバルスも恥ずかしい思いをするけれど、今は間違いなく僕の提案した方法が最善だ。


「ば、ばかやろぅ!?んな恥ずかしいことできるか!」


 バルスには赤面され罵倒までされてしまった。

 仕方ないので僕が覚醒を獲得していること、そして敏捷のステータスを(だいぶ低く見積って)教えることにした。


「な、なら、その間はマリモちゃんを抱かせろ!」


「え、まぁ……マリモが嫌がらないなら構わないけど」


「みゅ?」


 装備を全てアイテム欄に仕舞ったバルスを僕は俗に言うお姫様抱っこして走り出した。こういうのもステータスの暴力って言うのかな。


「はやいはやいいぃぃぃしぬぅぅぅぅ」


 マリモはバルスに抱きつかれて少し苦しそうだが、嫌というほどではなかったようだ。


 15分後、ソプラの街に着いた時にはバルスの眼のハイライトは消えていた。



⚫︎アイ(藍香)


 私はNPCの死を許容できない。

 だから私はNPCを助けようとする。

 それは私の甘さであり弱さだ。


 彼はNPCの死を許容できる。

 その上で彼はNPCを助けようとする。

 それは彼の優しさであり強さだ。


 ワイバーンに襲われたという村に着いた時点で既に手遅れである可能性が高いことを承知の上でソプラの街を飛び出した。


「何が『私はどうすればいいかしら』よ」


 あの時の私はソプラの街にいることを頼まれたら断るつもりでいた。

 ソプラの街なら

 きっと圧倒的な殲滅力で押し寄せるモンスターをなぎ倒してくれるはずよ。


 KING'Sはプロゲーマーチームだ。

 彼らにとってソプラの街を防衛戦する理由は経験値と土地という報酬が目当てだ。勝てないと察したら適当に自死してアルテラに戻るでしょうね。


「見つけた!」


 遠目から分かるほど火の手が上がっている。

 何人の人が亡くなってしまったのか、想像するだけで胸が苦しくなる。


 村の上空にはワイバーンが6いる。

 報告より数は多いけれど問題ない。

 私は覚醒した時に手に入れた"緋神の祭矛"取り出した。この武器は近距離に特化した私の戦闘スタイルを遠距離主体へと変化させることのできる切り札だ。ワイバーンのような空にいることが予想される敵に対しても有効な効果を持っている。


名称:緋神の祭矛

分類:武器 神器 祭具

効果:超長距離投擲

   緋月

   凱旋

制限:譲渡不可

   売却不可


 超長距離投擲は"緋神の祭矛"を敵に向かって投げるという攻撃スキルだ。筋力の数値がそのまま射程(m)となるので、クレアちゃんの弓以上に遠くを狙える。しかし、ステータス任せのかなり強引な攻撃だ。本来なら今回のようにぶっつけ本番で試すようなスキルじゃない。


 緋月は月のある夜にしか使用できない使いどころの難しいスキルだ。その効果は自身のステータスと緋の神威の効果を2倍にするらしい。まだ使ったことはないし、今回は使えない。


 3つ目の凱旋は所有権を持つアイテムや武器を自動で回収するスキルだ。普通のスキルにアイテムや武器をそれぞれ自動回収するスキルはあるが、凱旋の場合は所有権があれば回収対象に制限はない。


「いくわよ……!」


 私は"緋神の祭矛"をワイバーン目掛けて投擲しぶん投げた。


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ワイバーン「セリフないまま殺される!?」

作者「鳴き声どう表現するか迷ったからね」


なんだかんだ初めてのアイ視点でしたね。

やっと祭矛の性能を出せました。

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