第12話 デート?と目的変更
噴水から15分ほど歩いた僕らはアルテラの街の北の外壁にたどり着いた。
──しまった。
西の森に誘導するのを忘れていた。
「やっぱり北はプレイヤー多いね」
「北の草原は出てくる敵が弱いのよ。ここら辺だと西の森、南の海岸、北の草原が基本的な狩場だけど、北の草原が一番初心者向けのフィールドなのよ」
そう話しながら藍香が後方をチラリと見る。
たぶん、噴水から僕らを尾行してるプレイヤーに気がついたんだろう。
「ねぇ、さっきから私たちの後ろを付いてきてるみたいだけど何のつもりかしら?」
藍香がストーカーに話しかけた。
でも僕らは彼らに何らかの被害を受けたわけじゃない。
適当に誤魔化されてたらどうしようもない。
「何のつもりかって聞いてるのよ、暁!」
「え、暁?」
暁といえば僕の妹だ。
藍香が睨みつけた建物の陰から女の子が2人現れた。
「え、えへへ……バレちゃった」
「え、えっと、こんにちは!」
片方は藍香が言った通り妹の暁だ。
現実とは髪型と眼の色が違うだけのようだ。
藍香もそうだが、少しは危機感を持って欲しい。
「まったく、普通に話しかけてくればいいじゃない」
「だって、兄さんとデートしてたんでしょ? 邪魔しちゃ悪いかなって……」
「で、で、デートじゃないわよ!?」
もう1人の女の子も見覚えがある。
「暁の友達の子だったよね?」
「は、はい。クレアって呼んでください」
確か暁の友達の1人で名前は
藍香や暁ほどではないが現実と大差ないアバターのようだ。
リアルバレが怖くないのだろうか。
僕も人のこと言えないのだけど。
「真宵、暁ちゃんたちも一緒に行っていいかしら?」
「兄さん、お願いします!」
「いや、別に構わないけど」
[アイからパーティに誘われています]
[パーティにショウが参加しました]
[パーティにクレアが参加しました]
アイは藍香のプレイヤーネームだ。
ならショウというのは暁のことだろう。
2人のレベルは6、藍香は14だ。
「2人ともよろしくね」
「「「……………………」」」
「どうしたの? 藍香まで」
いきなり無言になられると怖い。
「「「レベル27ってどういうこと(よ/ですか)!?」」」
「いや、見たまんまだぞ?」
初日に高難易度のダンジョンに強制的に転移するクエストを受けさせられたこと、そのクエストのボスと連続接続時間ギリギリまで戦闘したこと、強制ログアウトした翌朝にログインしたらレベルが27になっていたことを説明した。
「あのワールドアナウンスって真宵だったのね」
「さすおに?」
「すごいですね!」
「他には何かやらかしてないでしょうね?」
「あー、うん、西の森のエリアボス倒した」
エリアボスを倒してプラの街に行ったこと、ソプラの街が壊滅状態にあったこと、今朝から組合にソプラの街の救援要請が貼り出されていることを話した。
「それ、ソプラの街は大丈夫なんですか?」
「たぶん、次にワイバーンが襲ってくるのは明日か明後日だね。だから今日はアイとパーティ組んでネームドモンスターを倒し終わったらソプラの街に向かうつもり」
「あ、あの……わたしまだレベル6ですけど、お役に立てますか!?」
クレアちゃんの素質は魔術士と加工、暁は戦士と生産を選んでいた。クレアちゃんの組み合わせの意図は分からないが、暁は間違いなくタンク(敵の攻撃から味方を守る役)志望だろう。
ただ、レベルが低すぎる。掲示板にはレベル10になるまでは簡単にレベルが上がると書いてあった。パワーレベリングするのは主義に反するしどう断ったらいいか。
「クレアちゃ「いいじゃない」……藍香?」
「ショウ、一昨日と昨日あったことを説明して」
「う、うん……あのね──」
サービス開始直後にログインして合流した暁とクレアちゃんは、組合で装備を整えて北の草原で蛇のモンスターを狙ってレベリングをしようとしたらしい。
問題は他プレイヤーからの横殴り(他プレイヤーが攻撃しているモンスターを横取りする迷惑行為)だった。かなりの頻度でやられたようで初日はレベル4まで上げて終わったらしい。
2日目、つまり昨日は夏休みの宿題を午前中に進めて夕方前からログインしたそうだ。初日と同じく蛇狩りでレベリングをしようとした2人はピンク色の髪をした小柄な女性プレイヤーからパーティを組もうと誘われたらしい。
問題はその女性プレイヤーだ。どうやら動画配信者だったようで、目立つのが苦手なクレアちゃんの事を考えてパーティを組むのは断ったらしい。
「そうしたらレベルが低い雑魚のクセにって言われて粘着されたんです」
「うん、ずっと邪魔されて1匹も狩れなかったんだ……」
配信者に跡を付けられて徹底的に邪魔されたらしい。
最初は問題なく狩れていたようだが、すぐに配信者の仲間らしきプレイヤーが5~6人来て一緒に邪魔するようになったのだとか。
その後は現在の2人のレベルを考えれば分かる。
ログアウトするまでずっと粘着されたのだろう。
「その配信者の名前、分かるか?」
「ミライちゃんって呼ばれてました」
ミライ、ミライねぇ……
おそらく掲示板で見た迷惑プロゲーマーのことだろう。
西の森の入り口を封鎖していた奴だ。
「藍香」
「こっちではアイよ。何?」
「今日のとこはネームドモンスター諦めてくれ」
「いいわよ、私もかなり腹立ってるし」
藍香も暁とは仲がいいからな。
僕以上に怒っているようだ。
「なら西の森に行こうか」
「兄さん、パワーレベリングは嫌いだったよね?」
「実力に見合わないパワーレベリングが嫌いなだけだよ」
暁とクレアちゃんは気がついていない。
プロゲーマーに粘着されて『最初は問題なく狩れていた』とは普通言えないんだ。
その後で集団から粘着されて手も足も出なかったと落ち込んでいるようだが、それでもレベルが2も上がっている。
「真宵、西の森はパーティで行くと出現するモンスターの数が……あ、そういうこと?」
「そういうことだよ」
これもパワーレベリングではあるけど、
当人の実力がなければ不可能なレベリングだ。
「兄さん、アイさん、説明してください」
「すいません、パワーレベリングってなんですか?」
「移動しながら説明するよ」
組合に移動するとしよう。
その間に掲示板も確認しないとな……
──────────
という訳で次話は掲示板回です。
ちなみに本話を予約投稿した段階では1文字も書けていません。
近況ノートにも書いた気がしますが、掲示板に登場させるモブプレイヤーの名前がネタ切れしそうです。もし名前を使ってもいいよという方がいらっしゃいましたら感想欄にお願いします。
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