第9話 それも仕様です
「あれ?」
YESを選択したというのに変化がない。
てっきり専用フィールドに転移されるのだと思っていたが違うらしい。
「(広域探索)……!?」
パネルが出現する直前に効果時間が切れていた広域探索を再使用すると真後ろから凄まじい勢いで接近してくる物体があることが分かった。通常のフォレストボアよりも明らかに速い。間違いなくフォレストビックボアだろう。
(魔力弾×3800)
その方角へ向かって放つのは"攻撃威力調整"のスキルによって威力を限界まで高めた魔力弾の嵐だ。これは後で運営に修正されても文句を言えないだろう。
"攻撃威力調整"の効果で威力を増加させた場合、その倍率に比例する形で増加する再使用時間の計算式が(本来の再使用時間-"灰の神威"の効果による"再使用条件緩和")×("攻撃威力調整"の倍率)になっているのだ。つまり"灰の神威"の効果で既に再使用時間が0秒になっている魔力弾の再使用時間は"攻撃威力調整"の影響を受けない。
「う、うわっ」
もちろん消費魔力は影響を受ける。しかし、現在の魔力は既に76099もあるのだ。威力と消費魔力が2倍になっても3800発近く撃つことがでなきる。
では周囲の環境への配慮を忘れて威力を2倍にした魔力弾3800発を撃ち尽くしたらどうなるのか。
それは着弾の衝撃波に煽られてひっくり返った情けない状態から起き上がった直後、目の前に広がる荒野が答えだった。
「い、インスタンスだし……だ、大丈夫だよね?」
目の前に広がる荒野は数秒前まで森だったのだ。しかし今は草木1本すら生えていない。もちろんボスだって影も形も残っていない。どう考えても過剰火力だった。
[The Forest Big Boreを倒した]
[称号:西の森の解放者を獲得しました]
[装備:森暴王の蹄を獲得しました]
[素材:森暴王の大牙を獲得しました]
[称号:大自然の蹂躙者を獲得しました]
[ワールドアナウンス:西の森のエリアボスが初めて討伐されました]
装備として入手した"森暴王の蹄"は靴だった。
かなり大きなサイズの靴だったが、実際に履いてみると自動でサイズを調整してくれた。
名称:森暴王の蹄
分類:装備 靴 王
部位:靴
効果:Soul of Bore
DEX+20
AGI+30
制限:狩人の素質
この装備も十分に強い。
そうるおぶぼあ?というスキルは一定速度以上で移動している間はスーパーアーマーを獲得するというスキルだ。格闘ゲーム用語なので詳しくはないが、行動を阻害されない状態のことをいうらしい。行動を阻害されないだけで、ダメージは普通にあるようなので無敵状態という訳ではないようだ。
ボスを倒したことで西の森を抜けた先にある街へと行けるようになった。アルテラに戻って組合にクエスト完了の報告をしたいが、このまま森の入り口に戻ればプレイヤーに囲まれてしまう。このまま先に進んでしまおう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
西の森を抜けた先にあったのは小さな街だった場所だ。
『街』ではなく『街だった場所』だ。遠目から見ても多くの建物が倒壊、外壁も機能していないように見えるのだ。
外壁の門だったと思われる場所にいる兵士に事情を聞くことにした。
「こんにちは」
「ほう、東の森を抜けてきたのか!」
「……はい。ところで何があったんですか?」
確かにアルテラから見たら西の森でも、この街から見たら東の森だ。固有の名前はないのだろうか。
「ワイバーンさ」
「ワイバーン?」
ワイバーンはファンタジー作品に登場する定番のモンスターだ。作品によって扱いは異なるが基本的にドラゴンの下位互換として扱われることが多い。
「そう。北の山に住んでいるワイバーンが群で襲ってくるのさ」
「襲ってくるということは何回も来ているのですか?」
「昨日の襲撃で4度目さ。だいたい3日か4日に1度のペースでくるもんだから復興どころか人命救助もままならないんだ……」
「周辺の街に救援を求められないのですか?」
「ここら辺で1番大きな街と言えばアルテラだが、あの森を突破して救援を求めに行ける人がいないんだ。君はアルテラから来たんだろう? 頼む、アルテラの組合に事情を説明してくれないか……この通りだ!」
来た道を戻るだけだ。
組合に事情を説明するのは難しくない。
「ワイバーンが来るって分かってるのに何故逃げないんです」
「妻と娘がいるんだ。娘は生まれたばかりでね。とてもじゃないが長旅には耐えられないんだよ」
◼︎ Emergency Quest:ソプラの街を救え①
ソプラ街がワイバーンの群れによる襲撃を受け壊滅状態にある。アルテラの街の組合に事情を説明して救援を求めろ。
残された住民が次の襲撃を耐えられる保証はどこにもない。
残り時間:196:00:00
達成報酬:なし
深呼吸して状況を確認する。
このクエストはナンバリングされている時点で続きがある。そして間違いなくワイバーンなんていう強さが未知数の敵の群れとの戦闘になる。しかも防衛設備がボロボロになっている街を護りながらの戦闘になるはずだ。
目の前に涙を浮かべながら死を覚悟した表情で、それでも助かる可能性を諦め切れてない兵士のオッサンはNPCだ。
失敗しても死ぬのはNPCで本当に人命が掛かっているわけじゃない。
だから────
「あー、負けだ、負け」
「負け?」
「そう、オッサンの熱意に負けたの。アルテラに戻って救援を呼んできてやるよ」
「!」
少しでも感情移入してしまった時点で見捨てるという選択肢は消えていたんだ。
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