第6話 人類卒業おめでとう

※前話のラストに追加描写があります。

編集下手で本当に申し訳ありません。

(2020/7/17/20:46)

────────────────────


 鈍色だった鎧が群青色に変化していく。

 元は群青色の鎧だったのだろうか。

 鎧が纏う青い燐光も少し濃くなった気がする。

 そして最大の変化は──


「──逾槫勣縲∬直縺ョ邏ー蜑」」


 その右手に現れた2本目のレイピアだ。

 こちらの"眼"のような神器なのだろう。

 だとしたら、ここからが本番だ。


「謌ヲ謚縲∬直蠏」


 レイピアの二刀流の攻撃は想像以上に激しかった。

 もし1秒でも足を止めたら次の瞬間には滅多刺しになっているだろう。


「ははっ、マジかよ」


 相手の残り体力と攻撃速度が反比例していることに気がついたのは、相手の残り体力は最後の体力バーが半分を切ったところだった。

 相手の体力を削り切る前に攻撃速度に回避行動が間に合わずに負けてしまうだろう。


「莉贋サ」縺ョ"轣ー"繧医∬ォヲ繧√k縺ョ縺」


 これはゲームだ。

 たとえ死んでもやり直せるんだ。

 しかし、だからといって


「それは諦める理由にはならないよなぁ」


 相手の行動を先読みするだけでは間に合わない。

 なら先読みした行動を魔力弾で潰してしまえ。


「縺昴≧縺縲√◎繧後〒縺薙◎"轣ー"縺」


 相手の身体のバランスを崩せ。

 その隙に僅かでも距離を取れば回避に余裕ができる。


…………………



……………………………



…………………………………



[The Mad Guardianを倒した]

[覚醒:蒼神の使徒を獲得しました]

[スキル:蒼の神威を習得しました]

[神器:蒼神の錫杖を獲得しました]

[称号:狂乱の解放者を獲得しました]

[クエスト:彩神の封印窟をクリアしました。全ての処理が修理後、通常フィールドに戻ります]

[位階が上昇しました]

[位階が上昇しました]

[位階が上昇しました]


「はぁ……はぁ……」


 勝てるとは思わなかった。

 もう一度やれと言われても難しいだろう。

 そのくらい際どい勝利だった。


[位階が上昇しました]

[位階が上昇しました]

[位階が上昇しました]


「うるせぇ!」


[位階が上昇しました]

[位階が上昇しました]



…………………



……………………………



…………………………………


「やっと鳴り終わったか」


 これでようやく通常フィールドに戻ることができると安堵した直後のことだった。


──ビィィィィィィィィ


[警告:連続接続時間が8時間を超過しました。強制ログアウトを実行します]



◆◇◆◇◆◇◆◇



「んっ……リアルか」


 最後に鳴り響いた警告音とアナウンスの内容からして強制ログアウトされたのだろう。連続接続時間に関しては8時間も経っていないはずだが、あれだけの戦闘をした直後だからなのか身体が異様に重く感じる。


「今何時だ……って夜8時半!?」


 ゲームを始めたのが12時半前くらいからなので、本当にゲームを始めて8時間近く経っていた。

 しかし、一番の問題はそこではない。


「もう夕飯の時間じゃんか」


 今日も父さんと母さんは仕事で家にいない。

 そして家事万能な妹の暁も今日は友達の家に泊まりがけで遊びに出掛けている。


「夕飯、何にしようか……」


 こうしてゲームでの激闘の余韻に浸る間もなく放置していた家事と夕飯の支度に奔走することとなった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「これどうします?」


「どうするもなにも……どうしようもないだろう」


 日本某所にある某ゲームの運営チームと開発スタッフはサービス開始日ということもあって厳戒態勢でチートなどの不正行為、ユーザーからの問い合わせの対応に奔走していた。


「ゲーム内の掲示板で既に"信徒の素質"の獲得方法が拡散されてるんだよ。今テコ入れしたら炎上どころじゃ済まないよね」


「その"信徒の素質"どころか"覚醒"まで解放しちゃったプレイヤーが彩神の封印窟もクリアしちゃってマジ?」


「はい、チートやツールの形跡は一切ありませんでした」


 彼ら開発スタッフからすれば"信徒の素質"と"覚醒"がプレイヤーに知られるのは遅かれ早かれ時間の問題だったと認識していた。キーとなる情報を持っているNPCが複数人いるからだ。


「確かに"灰神の使徒"に関しては獲得するのは難しくないです。いずれは誰かが達成したでしょう。でも彩神の封印窟は別でしょうよ」


「強制的にプレイヤーのレベルを1にするソロ専用フィールドも元からレベル1のソロプレイヤーからすれば何の意味もなかったんでしょうけど……」


「だとしても先代使徒に戦闘で勝つのは無理でしょ。しかも蒼だよ?」


 マヨイは気がついてなかったが彩神の封印窟には複数の道が存在していた。それらの先で必ず彩神の先代使徒と出会うようになっているのだが、そもそも戦闘をする必要はないのだ。


「そもそも彼は"灰"なのに"蒼"の先代となんで会うのさ。確かに1度目は自分の先代と会うようになってたはずだよね?」


「それがねぇ……"灰"と"蒼"の先代のデータが入れ替わってて……」


「バグかよ!?」


 バグじゃないよ。


「しかも倒したせいで"蒼"も継いじゃったから1人だけアホみたいにステータス高いよ」


「どうする?」


「どうするも何もバグ絡みだとはいえこちらの不手際だが、バグで手に入れたアイテムやスキルは没収するべきだろう」



──あのさ、何が問題なの?



 この発言で会議に出席しているメンバーの視線が"Continued in Legend"の全体責任者である亘理わたりとおるに集まる。


「彼は不正をしたわけじゃないんだ。6時間以上も人間の限界に迫る反応速度で戦闘を行って勝ち得たものを奪う。それはゲームを愛するべき立場にいる者としてどうなのかな。元プロゲーマーの宍戸くん?」


「ですがゲームバランスが……」


「なら言い方を変えよう。かつてゲームに勝てなくなる度に『ナーフしろ』だの『規制しろ』だの『修正しろ』だの叫ばれてい時代があった。その声に従ってしまったゲームの運営は僅かな称賛と引き換えに信用を失ったんだ。宍戸くんは信用を失ったゲームがどうなるのか知っていて『没収』という言葉を使ったのかな?」


「だとしても不利益を被るのが1人だけの今なら何の問題もないでしょう!」


 この宍戸の発言に溜息をついたのは亘理だけではなかった。たった1人のプレイヤーから信用を失っても問題がないという発言で、彼は会議に出席した彼以外の全員からの信用を失ったのだ。


「わかった。宍戸くん、君は懲戒解雇だ。もちろん"Continued in Legend"のGMアカウントも通信アカウントも凍結させて貰う」


「そんな! 横暴だ!」


「横暴なものか。僕が知らないとでも? 君が意図的に"灰"と"蒼"の先代の部屋を入れ替えたのは分かっているんだよ。彼が"灰真珠の首飾り"を手に入れたタイミングで介入したってことは、よほど彼みたいな"持ってるプレイヤー"に恨みでもあったのかな。本来なら西の森の最奥にしか出現しないように設定されていたフォレストビックボアと西の森の浅い場所で遭遇したという書き込みがゲーム内の掲示板に書かれていたのを見つけた時は焦ったよ。被害者はログを確認できただけで492名だ。よく不利益を被るのが1人だなんて言えたな。監視チームも何故これに気がつかなったのか、あとで詳しく聞かせてもらうよ」


「「「!?」」」


 亘理によって開示された宍戸の不正アクセスの履歴と改竄が明かされたことで、マヨイの手に入れたアイテムやスキルの処遇どころではなくなってしまった。


(今度は林檎ジュースの屋台でもやろうかな)


 亘理融、その容姿はマヨイに林檎を売った屋台のおじちゃんにどことなく似ていた。

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