第5話 人類卒業試験なう
「──ってて……」
何もないところで転んだ原因は何か。
それは新しく習得した【灰の神威】の効果の1つである"移動速度+100%"だろう。
足を踏み出した瞬間に理解した。移動速度を上げるという表現は正確ではない。正確に表現するならば"身体能力+100%"だ。
「思ったとおりに身体が動くと気持ちいいな!」
街の散策中はそこまでではなかった。
しかし、西の森で探索していた頃から身体に違和感を覚え始めたのだ。それはフォレストボアに殺される寸前に確信になっていた。
──身体操作のアシスト機能が搭載されていない
想像した通りに身体が動くのは没入型のVRゲームの1番の特徴だが、その想像と身体の動きにはタイムラグが少なからず存在する。
そのため他のゲームでは身体操作をアシストする機能が搭載されている場合がほとんどだ。しかし"Continued in Legend"にはアシスト機能が搭載されていない。もしくは最低限のアシストしかしていないのだ。
「これならフォレストボアの突進も余裕で回避できるな」
あの意味不明な奇襲以外は。
絶対にリベンジしてやる。
「そろそろ移動するか」
現在地である空洞には微妙に降るように続く道が1本だけ存在している。
クエストの内容も最下層を目指すよう示唆しているが、手に入れた素養やスキルの強さを考えると出現する敵の強さも相当になるはずだ。
思い付きの戦術が通用する相手であることを祈りながら道を進む。
◆◇◆◇◆◇◆◇
──敵、いないんだが
あれから少なくとも100m以上は降ったはずだが敵と一向に遭遇しない。それでも蝙蝠のような的を使って魔力弾の練習ができているので、数値的ではない戦闘力は確実に向上しているはずだ。
「あれは……門か?」
この先には強敵がいます的な空気を感じさせる重厚な門までたどり着いた時、魔力の残りが最大値の2割まで減っていた。
魔力を自然回復させるために門の前で休憩することにした。ありがたいことに最初の空洞と同じく門の前は安全地帯になっているようだ。
「よし、行くか……ん?」
◼︎Danger:The Mad Guardian
かつての彩神の使徒と呼ばれていた存在
彩神の封印窟を護り続けていたが、悠久の時の中で理性と正気を失ってしまった。
全盛期には遠く及ばないものの戦闘技能は健在
挑戦しますか YES/NO
「ようするに大先輩ってこと?」
敵の前情報が与えられるボスは大抵強いか面倒くさい。
特に気になるのは説明にある最後の一文だ。
もし単純にステータスが高ければ"戦闘能力"と書くだろう。それが"戦闘技能"になっているということは通常の敵よりも高度なAIが搭載されている可能性がある。
そう気を引き締めてYESを選択し重い門を押し開けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
門の先は最初の空洞よりも更に大きな空間だった。
気のせいでなければ天井までの高さも倍はありそうだ。
──バタンッ
門から4mくらい進んだところで大きな音を立ててて門がひとりでに閉じた。
この場所で戦闘になったら逃げることはできないということだろう。
更に門から先に進むと鈍色の全身鎧が立っていた。
レイピアのような剣身の細い剣を腰に刺している。
それにしてもあの鎧は女性用の鎧なのだろうか。
男性が着るには肩幅や腰の部分が少し窮屈そうだ。
「── 螳医k縲∝ョ医k繧薙□縲∫ァ√′螳医i縺ュ縺ー縺ェ繧峨↑縺」
その鎧から聴こえてきた音は言葉なのだろうか。
ヘルムの隙間から感じる視線は敵意に溢れていた。
今にも襲いかかってきそうな雰囲気だ。
(魔力弾!魔力弾!魔力弾!)
だが明らかに格上の相手から先制攻撃されるのを黙って待ってやるほど愚鈍じゃないんだ。
言葉に出さずとも発動できるようになった魔力弾を連続して放つ。魔力弾の連続発動は魔力の消費が激しいが、どうせ魔力を全て使っても倒せる敵ではないのだから関係ないだろう。
攻撃が命中したことで鎧の名前と体力バーが表示される。鎧の名前は"狂乱の守護者"というらしい。体力バーは信じたくないが3本もある。
「謨オ縲√≠繧後�謨オ縲∵雰縺ッ谿コ縺呻シ」
「はやっ」
鎧から敵意を叩きつけるかのような音が聴こえた直後、鎧はこちらに想像以上の速さで向かってきた。
いつの間にか左手にはレイピアが握られている。
(魔力弾魔力弾魔力弾魔力弾魔力弾魔力弾魔力弾!)
「逾樊雰繧医∵ュサ縺ャ縺瑚憶縺」
こちらの攻撃は全て命中している。
もうすぐ魔力は既に尽きるというのに"狂乱の守護者"の体力バーは3本ある内の1本を1割削った程度だ。
鎧の攻撃は力強さとは無縁のものだった。
ただひたすらに早い。そして正確無比だ。
攻撃の全てが急所を狙ってくれていたら楽なのだが、この異常な速度域の連続攻撃に当たり前のようにフェイントを混ぜてくる。
こちらの取れる戦術は1つだ。
『相手の攻撃を全て回避しながら魔力の自然回復を待ちチマチマと魔力弾を当て続ける』という言葉にすれば簡単だが集中力の糸が切れたら即敗北の戦術と呼んでいいかも怪しいものしかない。
「菴墓腐縺縲∽ス墓腐蠖薙◆繧峨↑縺�シ�シ」
少しずつ何かが剥がれ落ちていくのが分かる。
「遘√�縲∫ァ√�螳医i縺ュ縺ー縺ェ繧峨〓縺ョ縺�」
「ははは、もっとだ、もっと楽しませろ!」
もっとだ、もっと楽しませてくれよ。
…………………
……………………………
…………………………………
戦闘が始まってから体感で1時間くらいが経ったところで、ようやく鎧の体力バーを1本削り切れた。
「──隗」謾セ縲∬直縺ョ逾槫ィ」
「ここからが本番ってか」
ここまでスキルらしきものは一切使って来なかった鎧が初めてスキルらしきものを使用した。鎧から溢れ出る青い燐光は光源の少ない洞窟ということもあって幻想的だ。ここまできて見掛け倒しということはないだろう。
──さっきより、はやい!?
青い燐光を纏った鎧の攻撃は先程より明らかに早くなっている。
それにレイピアの突き攻撃とフェイントだけだった攻撃パターンにも変化があった。斬撃を放ってくるようになったのだ。
…………………
……………………………
…………………………………
「菴墓腐縺��シ滉ス墓腐蠖薙◆繧峨↑縺�シ�シ」
「もっとだよ、もっと頑張れろ先輩!」
確かに早くなった。攻撃パターンも増えた。
でもそれだけなのだ。思考とアバターの動きにタイムラグが存在しなくなれば、相手の次の行動を予測して予め回避行動を取ることもできる。
慣れてしまえばどうということはなかった。しかし、これは相手が人型の敵だから可能な芸当だろう。もし軟体のスライムのように形状を変化させるような相手だったら、攻撃を予測できずに早々に死んでいた可能性が高い。
結局、行動のパターンが変化してから2本目の体力バーを削り切るまで1本目の焼き回しになってしまった。
「もう一段階あるんだろ? 早くしろよ」
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文字化けしている部分はネタバレになるのでラビは振りません。また今後の展開次第で文字化け部分のセリフは変更される場合があります。
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