気まぐれのーと
多木すと
僕の好きな人
──3月20日 天気:晴れ/降水確率10%
「明日雨だってー今度遊びに行こー」
僕の好きな人は隣で携帯電話を片手にそんなことを話している。そういえば、明日は友達と遊びに行くんだったっけ。行けなくなるのは残念だね。
「えっ! ちょうど行きたかったカフェ、明日休みだったんだ! よかったー」
でもまあ、いいこともあったみたい。液晶画面の向こう側から聞こえる友達らしき人の声も同じことを言っていた。
好きな人の楽しそうな顔は見ていて飽きないよね、惚れた弱味ってやつかな。
── 4月20日 天気:曇り/降水確率30%
「あたし、好きな人に告白しようと思うんだ」
僕の好きな人は友達の横で携帯電話を握り締めて不安な表情だ。
えっ、好きな人がいたんだ……もしかして僕かな?
なんて冗談は置いといて、まったくそんな素振りを見せなかったからびっくりした。
でも僕は何も役に立たないから陰でそっと見守ろう。
告白、上手くいくといいね。
── 7月20日 天気:快晴/降水確率0%
「今年の夏祭りは浴衣で行こうかな」
僕の好きな人はショーウィンドウの前で浴衣を見ている。あっ、もうすぐ夏祭りがあるって友達と話してたもんね。
僕も夏祭り行きたいな、出来れば君と。……なんて。
彼氏に見せるのかなあ……何だかもやもやする。
僕は今年も一人ぼっちで花火を見るのかな。
── 12月20日 天気:雨/降水確率100%
「ぐすっ……うわーん……」
僕の好きな人は僕の下で声を枯らして泣いている。
付き合っていた彼氏が他の女性と付き合うって別れ話を出したらしい。なんてひどいヤツだ!
僕だったら君を笑わせられるのにな。
僕が──人間だったなら。
「バカ……アイツなんか大っ嫌い……!」
あーあ、僕はどうして人間じゃないんだろう。
ずっと君のこと見てきたのに、僕は君のことが好きなのに。
僕は君を雨から守ることしか出来ない。なんてちっぽけな『傘』なんだろう。
「ぐすっ……傘持ってきててよかった……」
……よかった? それはつまり僕が傍にいてよかったってこと?
絶対に意味は違うだろうけど、そんなことを言われたらますます好きになっちゃうよ。
「うわーん……」
空からは音を立てて冷たい雨が落ちてくる。
きっと、一緒に泣いてくれているのかな。
あんなヤツ、可愛くて優しい君には似合わないよ。
たくさん泣いて忘れてしまえばいいさ。その間、僕が君の泣き顔を隠す盾になるから。
だから泣いた後はまた太陽のような笑みを見せてね、僕の好きな人。
【大きな傘は、彼女をすっぽりと隠した】
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