お久しぶりですミーシャさん。
安藤大輔
第1話
まだ薄暗い空、俺が目覚めたのは午前五時頃であった。
季節は冬、寒さに体をストーブに押し付けてパーカーを焦がしがちな今日この頃、林檎印のパソコンとスマホを持って家を出た。
俺の姓は松原、名は花蓮。
学生の頃はよく女みたいな名前だと弄られていたが、俺は気に入っている。
職業は作曲家、今日は特に用事は無いがいつもの喫茶店で作業する為にこの早い時間に家を出た。
喫茶店と言っても、近くにある24時間やっているチェーン店だ。
むしろチェーン店だからこそ作業に没頭しやすいので個人経営のお店にはいかないことにしている。
締め切りはしっかり守っているのでよくTwitterで嘆いている同業者のように切羽詰まっては居ないし作業しに行かなきゃいけないわけではないのだが、曲を作っていないと落ち着かないので最近は毎日通っている。
俺は乗っていた愛車のクリーム色をしたスーパーカブから降り、店に入っていく。
この時間帯はさすがに空いている。
居るとすれば、出勤が朝早いサラリーマンやOL達くらいですごく静かだ。
カウンターに向かいモーニングセットを注文する。
「モーニングセットBをお願いします。ドリンクはカフェラテでお願いします」
商品は席に運んでもらえるので、端の席に座る。
いつも俺の座るその席からは静かな道路が見える。
学生は冬休みだろう、平日の早朝に登校する姿を見かけるのは坊主頭くらい。
交通量は少なく、 まだ暗いので町が寝ているよう。
まだ少し眠い目を擦りながら、カバンに収めていたパソコンを取り出し、スマホからデザリングをしてツイッターを開く。
昨日、趣味でやっているボカロP名義で新曲を上げたのでエゴサをするのだ。
自分の名義で検索をかけると関係ないツイートの中にちらほらと自分の曲の感想が流れてくる。
おおむね好評だったみたいでにっこりとしてしまう。
満足したのでTwitterを閉じてDAW(楽曲製作ソフトの総称)を開く。
ダブルクリックをすると、謎の果物のアイコンが浮かび上がる。
起動すると俺はイヤホンを付けて作曲に集中し始めた。
そんなに時間は経っていない、五、十分ほどだろうか。
俺は肩をトントン、と叩かれたので振り向くとトレーを持った金髪アシンメトリーの女性がいた。
「ご注文のモーニングセットBです。今日も仕事?」
「いや、今日のは仕事じゃない。趣味のやつだ」
「趣味でも仕事でも機械弄って作曲って、よく飽きないね。私だったら三日で辞めてるわ」
「これしか趣味も得意なこともないからな。逆にあっちこっちに手が出せる渚の方がすごいと思うが」
「これといった趣味もないんだから仕方ないでしょ」
軽く会話しながら品を持ってきたこいつは沢城渚、中学からの腐れ縁でここでバイトしてる。
俺とは違って大学に行っている。
確か三回生。
目つきが怖いって引かれてた中一の俺にも容赦なく絡んできてくれるくらいいい奴だ。
今はこいつの方が見た目怖いが(ピアス金髪アシメ小さいけどタトゥー等々)
毎日バイトに入ってる訳ではないが、毎日通ってるのもあってみんなに覚えられてるらしく、入り浸って曲作りしているのも知られている。
見た目女子寄りなのに声はガッツリ男性だからってのもあると思うが。
「いろんなことを経験できるんだし、これってのがそのうち見つかるだろ」
「そうかもねー、まぁ、音楽に手を出す時はあんたに手を借りるね」
「おうよ」
渚はカウンターに戻っていく、俺はモーニングセットをむさぼりながらまた作業に没頭していく。
お久しぶりですミーシャさん。 安藤大輔 @AndohDaisuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。お久しぶりですミーシャさん。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます