プロローグ009
ズシンッ!!
という地響きと共に突如なぎ倒される木々、ソレに反して土煙が巻き上がり空を濁す。
「なんだ?」
異変が起きたのは俺たちの居る場所からさほど遠くはなく、今いる吹き抜けの平原から目先程。その土煙がまった場所をジンさんは見上げ言った。
「なんでしょう?」
「さあな。だが、ロクな事ではなかろう」
そう不思議に二人で思いながらも、ジンさんは俺に飛ばされ地面に真っすぐ突き刺さった剣を抜き煙の方を向き剣を臨戦態勢と取る。
それにつられ、俺も剣を構え。
同時、もう一度。
ドーン!!
地面を拾上げるように土は舞いあがって、地が揺れる。それは明らかにこちらへ近づいていて。
ドシンッ!!ドシンッ!!ドシンッ!!
木々をなぎ倒し、速度を上げリズミカルに地を揺らし近づいてくるそいつは森を抜け姿を現してジンさんがその姿を見て驚愕する。。
「クレイゴーレムだと……なぜここに」
全身灰色の岩で覆われた岩の大男。
巨体な体は数十メートル。およそビル3階分ほどあろうかという巨体は背の高い木々よりも少し高いぐらいで、俺たちなんか軽く踏み潰せるということを、総身の重量が地を踏みしめ凹ます巨大な足が物語っている。
ゴツゴツとしたごつい岩石の肉体は見るからに硬質で剛に磨きがかかっていて、剣なんかかでは斬ることなど不可能だと言わんばかりに硬そうだ。
丸く血のように赤い光った双方の瞳が、俺たちを見据えていて。
こんな魔物。知らない。
そう直感的に俺は思った。
そもそもだ、ここにはクレイゴーレムなどという魔物は存在しない。
もちろん居ることは師匠であるユグドラシルに訊いている。だが――この山にはそいつらは生息しない。いるはずがないのだ。
なのに何故。
咆哮を上げない代わりに、雄たけびと言わんばかりに足を踏みしめ地を鳴らし揺らしめ、明らかに見下す俺たちを標的にして威嚇を向けた。
その強さは見るからに圧倒的で、見るからにマズいと思った。
それはジンさんも同じで。
「逃げろボウズ!!」
途端叫び上げたと同時、クレイゴーレムは走り出した。
そう――走り。
それは在りかよというぐらいの速さで。
高速とは言わない。だが、その速さは超重量級のでかブツが出せばあらゆるものを踏みつぶし跳ね飛ばす勢いで。さながら10トントラックのように。
ドンドンドンドンッ!!
「っ――!?」
間一髪で横に飛び避けた何の変哲もない真っすぐの突進。
それは地面をえぐり、クレイゴーレムが突き進んだ後を刻んでいた。
「まともに受けていたらひとたまりないな」
俺と逆方向へ同じく飛び避けていたジンは、そんな強大なクレイゴーレムに臆することもなく剣を再び構え向き合う。
そうして、振り返ったクレイゴーレムは再び飛び出して――。
「ジンさん!?」
今度は直撃。
だがソレはジンさんが敗北した訳ではない。
キンッ!!
「ぐぬぬ……。何をしているっ!!早く逃げろ!!」
受け止めている、受け止めたのだ。
ボディーブローを決めるように突撃した総身ソレを、たった一本の鈍らで受け止め、突き進むクレイゴーレムを押され地を滑るも押しとどめたのだ。
そうして俺へと放つ言葉。
俺を逃がそうと時間稼ぎをしようとしていると理解できる。
いや、だとしても、逃げ出すなど。
クレイゴーレムは話に訊けば剣士と魔法使いが数十名で連携を組んで一体をようやく相手をする敵だ。
剣士は魔法使いとして壁となり、その動きを止めて後衛の数十人の魔法使いが強力な魔法を同時に撃ち放ち浴びせようやく討伐できる魔物だ。
それだけ万全に連携を取っても、一人か二人は平然と死人を出す相手。
いくら、一個小隊レベルの剣士であるジンさんであってもそれまでだ。
あんな練習用のなまくらの剣ではクレイゴーレムの岩石の硬質な肉体に傷などつけられない。
攻撃を受け止められたとしてもそれだけ。反撃はありえない。いやむしろ。
「ぐっ!!」
受け止められていたクレイゴーレムは力を増し、拮抗し止まっていたジンさんの足はジリジリと後ろへと押し出されていく。
そうして――
「ぬおっ!?」
振り払われた腕によりついには剣ごと弾き飛ばされ、弾丸のようになって真っすぐ直球にジンは森の木へと激突した。
打ち付けられ血塊を吐き出すジンさん、それでも負けじと剣士としてけして離さない剣を杖がわりに生まれたての小鹿のように立ち上がり剣を構える。
ダメだ、あんな状態で狙われたならばジンさんでもひとたまりもない。
だから、
「炎よ集え集えよ。我が願うは大地焼き払う延焼の道」
ジンさんへ注意が向いているスキをつき、クレイゴーレムを滅するべく魔力を解き放ち、練り大量の精霊を集め唱え始める。
「それは怒りに燃えし王が突き進み覇道が残した残滓の道」
唱える呪文は今の俺が教えられているものの最上位。それでも、周囲の森を半径数十キロメートルは容易く灰へと変える火力は持っている。
それぐらいの威力は無いとあの硬さは破れない。
そう感じたからこそつむぎあげる。
「それは動乱の世に示した地獄への花道。
燃えろ燃えろ、全て無に帰せ。我が行く先は煉獄のカルマなり。
燃えろ!!ニブルヘイム・フレアロード!!」
瞬間――、
死そのものが紅蓮の炎となり、俺の周りをうねりあがり天へと上がり下がって、地を滑り道を作るように真っすぐクレイゴーレムへと説く激した。
赤黒い熱の大往生、燃える煉獄の道を作りながら激突したそれは目標を飲み込み周囲一帯の大気ごと延焼させ炎上せしめた。
沸騰する気圧、燃えがる芝生は焼け野原となり、迸しり塵ばむ火の粉は塵程度であれど宙を歪ませる。
圧倒的。圧倒的な火力。
最大火力の大炎上の魔法。
それは撃ち放ち標的を飲み込んだ今でも天へと高く赤黒い柱を伸ばし続けている。
だが、
「なっ!?」
巻き上がるの炎の核となる源地、包まれそこにいる筈のクレイゴーレムの拳が炎から突き出ると思うと、よこから振り払われ同時、巻き上、渦巻き続ける炎は振り払われたマントの如く消え去った。
そうして出てきたクレイゴーレムを無傷で、岩肌がはすすけて焦げた程度でしかダメージは入っていない。否――そんなものがダメージなどと言えるか?
いいや言えない。
だから、そんな結果など明白で、クレイゴーレムはなんの消費も見せず魔法を放った俺へと標的を変えた。
だが、それでいい。それでいいんだ。
「バカやろう!!いくら火力を上げてもそいつにその手の魔法は利かない!!」
叫ぶジンさん。
誰がバカだと。
これでも放射系の魔法では最上位クラスの魔法なんだと、それでダメージは入らないコイツがおかしいんだと言ってやりたい。
だとしても、今はそんなことを言い返している場合ではない。
ダメージが入らないなら入らないで結構。
形状から放射系の魔法は効果が薄いのは計算のうちだ。
今ので倒せたならばよかったがその後のことを考えていないほどバカではない。
クレイゴーレムはこちらを向いた。
それでいい。そうやってジンさんから注意を逸らせることができるのならば。
「こっちだ!!」
俺の声と共に巻き上がる土煙と大地震わす歩行。
クレイゴーレムは俺へと標的を変えて進撃を始める。
するとその瞬間。
「とっ――」
突撃してきたクレイゴーレムを横に飛び引いて避け、落ちていた小石を拾う。
「こっちだ」
その小石をクレイゴーレムの巨体へと投げこちらに注意を引かせ、森へと向かって走っていく。
「タクミ!!何やってんだ!!」
「ジンさんはそこに居て下さい!!そのケガじゃなにもできないでしょう!!」
「バカやろう!!生意気言ってんんじゃねえ!!」
そんな恫喝が聞こえようとも、俺はジンさんを助ける為にクレイゴーレムの注意を引き森へと走り去っていく。
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