プロローグ006
俺は置いてある炉に魔法で火を灯し、横に立てかけて置いた打ちかけの鉄の剣身を玉箸で挟み火であぶる。
そうして剣が熱される前にソレを放し精霊が集まるように少し離れ、流石に8才の子供の筋力で硬い鉄を打つなどいくらなんでも無理なので、自身に筋力強化の魔法をかけ強化する。
これで大体筋力は10キロの米俵を両手で難なく持てるぐらいにはなる。
正直、それでも足りるかどうかと訊かれたら心もとないが、ソレが今の俺の限界なので仕方ない。こればっかりは基礎筋力を鍛えるか魔法の練習を積むしかない。
まあ、それはいずれ解決するとして。
熱された鉄を取り、金床に乗せ槌で叩く。
カンッカンッカンッ――!!
響きの良い金属と金属がぶつかり、感の高い音が微量の火花を散らし森へ響き渡る。
それを何度も、繰り返し温度が下がってきたら再び熱して撃ち続ける。
繰り返し何度も何度も。
平たくなった鉄を折り返し鍛え続ける。そうすることで鋼は強く強靭なものになる。そういう転生前の知識を見様見真似で実践して、そして、そこから一工夫加える。
これがここ数日やって来た実って来た成果。
普通に討てばおそらくは普通の剣が出来上がるだろう。まあ、その剣自体、この世界の剣と比べるとそれなりに強靭な物であるのは確かが……。
なにせ、そもそもの打ち方異なるのだから。
この世界の剣は言ってしまえばただの金属の板に過ぎない。
ただ鉄を変形させて磨き剣という真っすぐな形へと変えただけ。
だから――脆い。
俺がしているようにわざわざ何度も打ってきたえなどしないし、何より。
剣自体消耗品として認識されているからなのか、そんな時間がかかることなど誰もしようとなど考えない。ゆえにこの世界では異質でセオリーに反しているが、魔剣を作るにはそうすることが絶対不可欠だと俺は思った。
そうでなければならない理由。
折り返した金属に、一工夫。それは――。
玉箸(たまばし)で鋼を固定する手に魔力を流し、鍛え途中の刀身に魔力を送る。
無論その送る魔力は普通のモノではない。いくつもの属性を混ぜ合わせた、常人には到底不可能な全属性の魔法が使用可能な俺だけができる芸当だ。
その目的はもちろん精霊を効率よく集めるため。それともう一つ。そもそもの鍛え途中の鋼の人口物というニオイを消すため。
魔力で刃を覆い、まるでまんじゅうの案のように包み込んで密閉する。
そうして、ソレに騙され群がる精霊たち。
そこで更に折り返して
カンッ――、
槌を打ち鍛え。ソレを繰り返す。
こうすることで、鋼に群がった精霊は逃げ場を失い織り込みに取り込まれ、まるで丸太の木目のように精霊が何層にも分かれて刀身に強制的に入り込み逃げ道を失うという訳だ。
これで精霊が集まらないという問題点は回避される。
なにせ、刀身にその肝心な精霊が閉じ込められているのだから、逃げるもてったくれもない。
精霊は生物のようなモノではあるが、生物ではないあくまで現象にしか過ぎない死滅する心配もいならい為、もちろんこうして密閉しても鋼の中に取り包んでいしまっても問題はない。
まあ、先のようにそもそも剣を魔力で包んでしまえば精霊を集めることができるのではないか。という話だが。
そもそもそれは魔法をただ打つ時と同じように魔力を練っているだけにすぎず、そもそもの剣自体が何か特殊性――つまるところ魔剣見たいな特別な力を持っているか?というとそうではない。
それはあくまで、俺自身の特殊性。全属性の魔力が扱える俺の芸当に過ぎない訳で、それではただの剣は剣に過ぎない。
俺が求めているモノはそうではない。
あくまでも魔剣――剣そのものが特殊な力を宿すというものを求めている。
ゆえにこうして精霊を取り込む。
と、するとどうだろうか?
剣に取り込まれた精霊は逃げることもできず、使用者から供給された魔力と呪文に反応して魔法を放つしかない。
それも、作成時にインプットされた魔法を。
それは――どういう事かというと。
俺は魔力を流しながら鋼を打ち続け、小さく呟き呪文を唱え始める。
その呪文は、母に教えてもらったモノのような魔法を放つためのモノではなく、自分で独自に考えた呪文。精霊へのどんな魔法を使うかの命令信号。
それを精霊に記憶させて、魔力が流れると同時その能力を発動するようにする。
つまり魔法の暗記。
これによってどんなに大掛かりな魔法であっても、長い呪文が必要な魔法であっても、ただ魔力を流しただけで扱えるようになる。 つまるところ、剣は魔法を呪文をシュートカットして扱る媒介となる訳だ。
これでようやく、俺が思う魔剣。
『使用者に関わらず剣が特殊で魔法を扱う』それが魔剣という定義にハマる。
というのも、なにせ精霊は逃げれないのだから、使用者の魔力の属性は関係ない。ただ流れた魔力を動力に覚え去られた魔法を放つ。という仕組みになっているのだから。
これが俺が数年に渡って研究を続けてきた結果。
それがようやく形になって魔剣が出来上がって来たという訳だが――。
実はこうまで試行錯誤していろいろしてきて、あと少しのところではあるがこれで魔剣が作れるかと訊かれたらそうではない。
いまだ実験中で試行錯誤している。
俺は剣をそうして打ち続けて、気づけば日も傾いてきていた。
そこでようやく。
「できた」
打ち終えた刀身を魔法で出した水の入った水槽に入れ一気に冷却して、水槽から立ち上がる蒸発するゆけむりが赤く染まりゆく夕暮れ時の森に四散する。
「これで」
むき出しの剣身、打ち終えたばかりの剣は鍔も鞘もつけてないただの鋼の刃。
何層にも打ち鍛えた鋼が磨がいても居ないのに夕日をきらびやかに反射させている。
それを片手で持ち、俺は自分の前に立てて見、それが魔剣かどうかを試す。
無論、これが初めてではない。
おそよ回数にして3回目程というところか。
そのいずれも結果として失敗しているが、今回は――。
魔力を流しその能力を発動させる。
精霊に覚えさせた能力は炎上。
刀身を燃やし、炎の剣を作りだす。
効果も結果も分かりやすいもの。
もちろん炎上という能力を選んだにも意図がある。
というのも、まず今は実験中。これまで幾度となく色んな方法を試してきたが今だ魔剣はできていていない。
そうした中で、完成とい結果を見るにあたり分かりやすい。炎上という物を選んだ。
まずは結果を出すこと。魔剣というものの完成。
自分が思うさらなる能力などその後でいい。まずはその基準を作る為に。
期待して魔力を流す。
その魔力の量はさほど多いものではない、ごく少量。確認して見るだけしか限らないので剣が炎を放てばいいのだから。
して――その結果は。
瞬間、
「――っ!?」
パキンッ!?
流した魔力に反応した精霊は膨張し、教え込んだ魔力を放つと同時、剣は芯から弾けガラスのようにバラバラに砕け刃を散らばせて、おおよそ刀身の半分から上が消えった。
その、ほぼゼロ距離で弾けた刃の欠片は俺の頬をかすり、赤い血線を作ってくれる。
危ない危ない。
「………」
失敗か……。
「はあ……」
俺は残った折れた剣をその場に置き、ツリーハウスから地へと飛び降り着地する。
結果は失敗。
現象として認識するに、おそらくは活動を止め眠っていた精霊が魔力に反応し目覚め、一斉に活性化し嫌いな人口物から逃げ出そうとして磁石が反発するように外側に強い力が働き刀身がそのエネルギーに耐え切れず爆発したんだろう。
これでは魔法の発動どころではない。
問題はやはり剣の鍛えが足りないところだろうか?
打って作り出す鋼の強度が引くのが原因か、それともそもそもの理論が間違っているのか。分からないが。3度目であれど、実際こうして長い時間といくつもの工程を経て作り上げた物が、粉みじんになり失敗を目の前にするとやるせない気持ちになってくる。
「片づけは明日でいいだろう」
ユリアが来た際に、ケガをする可能性があるので危険だが、それはまあ明日の朝一に片付ければいい。
正直今はそんな気になれない。
「帰るか……」
失敗したショックを抱えながら、俺は日も暮れそうなことから帰ることにした。
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