プロローグ005

 その、とある場所というのは此処だ。

 

 山の中木々が生い茂る森。赤ん坊の頃からそこで育ってきたためこの山のことなら大抵のことは知っている。安全な場所や危険な場所、転生する前、都会で育った自分とは真逆な自然に溶け込むように日々生活していた。その山で見つけた小さなツリーハウス。

 あまりに大きく木の根は歪に曲がり地からむき出しになり、まるで足として地中から這い出ているような形をして、俺が両手一杯広げても届かない横幅の真っすぐ天へと向けて伸びる大木をずっしりと支えている。

 そしてその大木を主柱とするように、ツリーハウスというのは名ばかりな床板と屋根だけの建物が、大木から分かれる枝を支えに作られている。

 

 元々は、母が修業時代に立てたというものらしいが、それを俺が修理して今は秘密基地としてたまにユリアと共に使っている。

 とはいえ、此処へ来ると大体俺がすることは一つだ。

 

 俺はその大樹の根元へゆき、ツリーハウスから伸びる木の梯子を伝い上へと上がる。

 

 高さはおよそマンションの二階程度の高さだろうか。高すぎず低すぎず8才の子供の俺にはまだ高く感じられるが、思うほどそこまで高くはない。

 

 登り切った俺は、真ん中ほどに腰を下ろす。

 そうして乱雑に転がった槌や鉄の玉箸などの所謂、鍛冶の道具を手に取る。

 そう――鍛冶だ。

 俺は此処に鍛冶をしに来ている。

 

 始まりは6才の時に町行った時だった。

 俺は元々この世界に、剣士として魔法の剣を使い冒険をするなどと夢見て転生した訳だが、それが実際転生して見れば剣士には適さないエルフな上に、拾われたのは魔法賢者のユグドラシルだった。

 それは必然的に環境が俺を魔法使いとして育て、今だって先ほどまでのように鬼のような師匠もといユグドラシルの元で修業をしている。

 正直それ自体は悪い訳ではない。

 こうして異世界で魔法を覚え特別な力を手に入れる。それもまた言わば非現実なのだから。

 

 けれど、元をたどれば俺のしたいことは違った。

 俺は、あくまでも剣士として魔剣を扱いたい。それが俺が最もしたいことだった。

 だから――6才ほどまでの俺は割とふて腐れるような感じでは居た。

 そんな時だ。鍛冶と出会ったのは。

 たまたま街に連れて行ってもらい、街中を歩いている時、鍛冶屋を見かけて思ったのは。

 

 巻き上がる熱気に迸り塵舞う火花、そうしてそこから生まれる一本の剣。正直、心も子供にもどったかのように胸が躍り興奮した。そうして――同時に思ったんだ。

 やっぱり自分は剣を握りたい。

 魔法は確かにすごいが、自分が求めているものはその凄さではないと。

 

 気づけば俺はその鍛冶屋に声をかけていた。

 自分もやってみたいと、剣を作ってみたいと。

 

 そうしたら、思いのほかすんなり教えてくれた。まあ――子供の単なる思い付きだとでも思っただろう。

 そもそも魔法適性が高いエルフが鍛冶をすることなどハッキリいってなく、大抵しているのは魔力適性の低いドワーフが多い。その為か、珍しさゆえか、面白がって教えてくれた。

 

 それを、街に行くたびに何度か。

 俺をいっぱしの魔法使いに育てたい母はハッキリ言って毛嫌いされているが、それでもかまわず街に行った時にはその鍛冶屋へ行き、話を聞いて教えてもらった。

 

 それから、今ではこうして秘密基地で母に隠れ内緒で剣を作るようになった。

 おそらくこんな危険なことをと、見つかれば叱られるから。まあそこは、子供を殺す勢いで魔法を放ってきている奴が何を言っているのだろうという話だが。

 正直なところ危険かどうかよりも、鍛冶自体を毛嫌いしているのが問題なんだろう。

 

 まあそれ自体は仕方ない。

 俺だって、その理由を聞けば当たり前だと頷いた

 

 というのも、この世界の剣や鎧。

 つまり鍛冶によって生まれる装備は基本的に、精霊が嫌うモノの一つであるからだ。それはつまり裏を返せば魔法とは相性が悪いというと。

 実際俺も剣を持ちながら試してみたが、ソレは実感している。

 

 精霊は人工物を嫌う。

 精霊は好むのは自然界の自然そのもの、だからそれと真逆の存在である剣は言うまでもない。

 

 例えば、仮に剣を手に持ち魔力を練ったとしよう。そうして場合、魔力つまりエサに精霊は寄り付かない。まるで蚊取り線香でも近くで炊いているかのように。剣というニオイもしくはその存在自体を嫌がって魔力へと精霊は群がらない。

 だから、魔法は発動しない。

 いくら魔力を練ってエサを出そうが、精霊を寄せ付けない剣があるから。剣の存在が邪魔をして魔法は不発と終わる。

 

 ゆえにこの世界の魔法使いは剣や鎧の装備などしない。百歩譲って鎖帷子(くさりかたびら)程度のあまり質量の大きくない装備。

 どうも、質量に関わっているようで、衣服や指輪程度であればさほど問題はないらしいがジャラジャラとつけすぎるのも問題の様だ。

 だから、母はというより魔法使いは基本的に人工物――それも質量の大きい剣や鎧は毛嫌いしている。

 とのように、理屈は分かるが、分かれば分かる程あの自称神は盛大に間違ってくれたなと思う。

 

 なにせ、ここまでの魔法的な理論から一つの答えが浮かび上がるからだ。

 

 それは――俺が最も欲してる魔剣がないのではないかという疑問。

 

 さきの説明のように人工物つまりは剣の魔法相性は最悪。それはつまりこうもいえるのではないか?

 魔剣は作れない。

 いや、実際作れないらしい。

 ゲームのように属性が付与された検名のもってのほか。剣自体は微量な魔法を放つことすら不可能。

 それは、世話になっている鍛冶屋に訊いたことだし。理論的にもまあむりだろう。

 

 とはいえ、存在しないとというわけではない。

 ただし、それはごくまれ。世界に一つか二つあるかないか。

 それ自体は魔王を倒した勇者が持っていたのが魔剣というなの聖剣だった為、母が証言してくれている。しかし、現在それがどこにあるかは行方知れずという。

 

 まあそれはいいのだが。

 そういうわけで、様々な魔剣を手に入れたいという願望は世界的にも打ち破られたというわけだった。

 

 だが――それで諦める俺ではない。

 よく考えれば、理論的には可能ではないかという可能性も見えてくる。

 安直ではあるが――そもそも、人工物が精霊を寄せ付けないのであれば、人工物ではなければいいのではないかということだ。

 それを色々1年程試し研究した訳だが、どうも加工が加わった時点で精霊は嫌がるということまでは分かっている。

 それは度合い的にどれぐらいが人工物とみなされるのだという話だが、実際試したところででは、木折ってして組み合わせて木の剣を作っても人口物とみなされ精霊は嫌うほど。

 ようは、加工した時点でアウトなのだ。

 採取してそのまま使うまではいいが、それでも採取後木の枝はしばらくしたら加工物とみなされ精霊は嫌った。

 

 この辺は精霊たちの声を聴きながら試したため間違いはない。

 

 とはいえ、その逆に精霊が嫌ったモノを好ませる方法もある。

 精霊が嫌うモノはあくまでも人口物とみなしたもの。それを精霊たちに自然界にある自然なものだと認識させればいい。その方法としては実際に実験して――折った木の枝が人工物とみなされどうやったら自然のモノに戻すということだが。

 試しに小枝を土に埋めて数日放置して見た。

 

 そうして掘り出して見たら、精霊たちは嫌っていた枝に目もくれず魔力に群がって来た。

 

 こうこいう結果から予測するに、おそらくは金属の剣も同様な事が可能なのだろう。そう思って試してみた。

 その結果分かったのは質量が大きいもになればなるほど、自然のモノ、つまり――精霊が嫌いではなくなるには時間がかかるということだった。

 

 そこから予測できるのは残念なことに、剣を泉にでも1000ぐらい沈めたらようやく魔剣が出来上がるということ。理論上はそうだがハッキリ言ってソレを実現させる手段はない。というより1000年も生きられない生きられるの話は別としてそんなにも待っていられない。

 だから――別の方法を最近考えた訳だが。

 

 それがようやく実って来たのがここ数日である。

 

 

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