火攻、戦闘、サイバー
春嵐
火攻、戦闘、サイバー
森を抜けて。
開けた場所。
「敵影が見えねえ」
『待て待て。突出しすぎだから。索敵終わるまで待て』
「だめだ。後ろの防衛線がかなりぼろぼろになってる。少しでも前押ししないと」
索敵。敵が、赤く表示されていく。
「下かよ」
自分のいる開けた場所の、真下。真っ赤に染まる。
「砲撃支援は」
『索敵中に無理言うなよ』
「どうすんだ、これ」
手持ちの武器ではどうしようもない。
「遊びじゃねえんだぞ、ここを突破されたらインフラにまでダメージが入る」
実際、防衛線が破られても危ないし、ここから援軍が抜けていっても危ない。
「お得意の戦国策とか古代中国の戦術書には何か書いてないのかよ」
通信先。古代中国の戦術に長けていた。しかし、ここはサイバー空間。現実の戦闘とは、勝手が違う。
『火攻めだな。トンネルや狭い穴を使った突破なら、穴のなかに煙を入れて燻すか炎の壁で守るのが手っ取り早い』
「てことは、火を入れるための入り口が必要なわけだ」
気付く。
「いや待て待て。サイバー空間で火って、再現できんのか?」
システム破壊用のウイルス。砲撃して使う、簡易的なオーバフローを起こす情報の塊。それを使って行われているのが、今の情報戦。
『あるぜ。サイバー空間にも。どうしようもない火が』
「へえ。あんのか。じゃあ送ってくれ」
画面。
一と零の、大量なデータ。
「なんだこれ。情報の塊か?」
『違う。これが個別に発火して、システム全体をゆっくりと重たくしていくんだ。破壊ではなく、負荷のための情報の塊』
「あ、だから細かい情報じゃなくて純粋な数なのか」
さて。これを、どうやって打ち込むか。
『方法は任せるよ、戦闘の達人さん。お手並み拝見』
「まかせとけ」
すぐにデータの打ち込み先を選定し、入り込ませる場所にタグを付けていく。
『いやいや、穴に打ち込めよ。なんで関係ないところにデータ送信すんだよ』
「わかってないなあ。ここは森だぜ」
データが雑多に置かれたストレージから、まず燃やす。負荷が掛かるけど、相手は防衛線から遠いという理由で消火しないだろう。
「はい。まず第一陣。打ち込んで即着火させて」
『おっけ』
ストレージが火を吹き始めた。
「ここは森なんだ。わかるか。森。今回はトンネルを焼くわけだが、その前段階として守りに使って防衛線を維持する。火攻の基本は?」
『風を見て有利な場所に位置取ること、呼応すること、勢いとは別に技術を用いて戦うこと』
「ここはストレージの、いわば森です。焼くための薪はたくさんあります」
『有利な場所』
「全体としての呼応はできないですが、開けた場所つまり唯一燃えないところに私がいます」
『呼応できる』
「あと必要なのは?」
『技術』
「というわけでお前は今から索敵しながらトンネルの穴になりそうなところを予測してこちらに送れ。三十秒やる」
『うええ』
「はい、スタート。もうストレージに着火してるからな。相手がこちらの狙いに気付くまで最短で三十秒だ。複雑な情報送ってるわけじゃねえからな。すぐばれるぞ」
『いや索敵の場所から逆算すんのは無理だよ。バックドアに見せかけた罠がたくさんあるんだよ?』
「ここから見える分は掩護するよ」
『あっ』
「お?」
『あった。うそ。まじで』
「どこよ」
『防衛線の隣。インフラの抜け道がある』
「あっ、そうか。トンネルの入り口じゃなくて、出口か。でかした」
『でもここから火をかけても、撤退する相手を遮れなくないか?』
「そこで俺ですよ。索敵のマーカーを増やせ」
情報を向こうに送り返した。着火するのは向こうで、迎え撃つのがこちら。
「っしゃ、行くぞ。ここらでインフラを守って反転攻勢じゃ」
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