空に走る
いいの すけこ
第1話
スポットライトは、まるで太陽のようだった。
それは舞台に立つ者にのみ投げかけられる光であり、そのまま舞台のエネルギーであり。
私たちにとっての、青春だった。
「先輩、こんにちはあ」
「はいこんにちはー」
階段ですれ違いざま挨拶をしてきた後輩たちは、はしゃいだ声を響かせながら上階へと消えていった。
「相変わらずモテモテですねえ、つかっちゃん」
「
去っていった後輩たちは、『先輩と挨拶しちゃったあ』とか『やっぱりかっこいい!』だとか浮ついた言葉を残していった。
「ういやつらめ」
隣に並ぶ、クラスメイトで部活仲間で友人の、つかっちゃん。
背が高くて、きりっとした顔立ち。ついでにダンスが上手なつかっちゃん。
そりゃあもてるってもんである。
うち、女子高だけど。
つかっちゃんこと
「やっぱり去年の文化祭が効いたかなあ。あの時のつかっちゃん、超かっこよかったもんね」
去年の文化祭のステージ。
つかっちゃんは真実の愛を探す王子様を、私は夢見るお姫様を演じた。
その時のつかっちゃんといったらもう、マジで王子様だったのである。
サテン生地で仕立てたきらびやかな燕尾服を身にまとい、甘い台詞を吐きながら姫に手を差し出すつかっちゃんは、そりゃもうかっこよかった。姫役の私もマジで惚れるかと思った。
「あれねー。葵もお姫様、綺麗だったしねー」
私は私で、ドレスとメイクアップに騙された女生徒たちの一部に好評だったらしいけれど。体育館中の女子生徒をノックアウトしたつかっちゃんは別格だ。
女子高ゆえに男子に飢えている、とは言わない。でもアイドルのいる学校生活というのは華やぐものである。
「コンクールの時の感想用紙もさ、つかっちゃんへのファンレターめいた感想いっぱいあるもんね。他校の生徒まで虜にするとは」
「ファンレターとまではいかないでしょ。まあ、評価してもらえるのはうれしいけどね」
「いいなあ。もてたいとは言わないけど、感想用紙にメッセージまでもらえるの、ちょっとうらやましい」
「ま、なんにせよ。今年の夏のコンクールも、私たちの魅力で他校の生徒をメロメロにしてやろうぜ」
「おうよ!」
顔を見合わせ笑って、私たちは気合を入れる。
演劇部部長、
演劇部副部長、
夏の高校演劇コンクールが、三年生である私たちの青春の集大成だった。
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