6 援軍登場
唖然とする留守守備軍を尻目に、その男は魔族相手に大暴れをしていた。
丁度オオクニ達が猛攻をミシェルビッチらにかけている同じ時。瑞穂が総指揮するオオクニ邸にて一進一退の攻防を繰り広げていた神魔の争いは、ある男の介入によって一気に均衡が崩れた。
漆黒の独特な鎧を身に纏い、手にする大戟で魔族という魔族を屠り、深紅の馬で縦横無尽に走り回るその人物を、劉封らの住まう世界の人間が知らないはずはなかった。
「何で奉先殿がここに?」
史上最強の猛将呂奉先。彼はその圧倒的武力を存分に発揮し、愛馬赤兎を巧みに操り次々に魔族を蹴散らしていった。
この人間の存在に、瑞穂らは息を飲んだ。
「あれが噂に名高い呂奉先殿ですか」
彼女の相棒である澪龍が手をニギニギしていた。身体は正直なようで一勝負した気満々である。
「強いですぅ!」
きゃっきゃきゃっきゃはしゃぐ煉龍を肩車しながら、南雲は隣の龍彦に顔を向ける。
南雲は一足先に屋敷に戻って来ていたのだ。理由としては、ほんの少しこちらの様子が気になったからである。
「これが音に聞く呂布さんの実力・・・・・・・・・」
「当然だな。でなきゃ、後の世までその名を知られることはないだろうよ」
南雲は取り敢えず眼線を別の方向に向ける。
見とれてる劉封らがいたが、それは当然と言えば当然だ。あの人は彼らの世界の人間らしいから(と以前龍二から聞いた)。
「僕らの出番、一気に無くなったねぇ」
もう一人の自分に言うように、南雲はぼそり呟く。
そんなこと露も知らず、呂布は暴れまくる。
「消えろ、雑魚が!!」
振り払った一閃を最後に、呂布はたった一人で全ての魔軍を消し去った。
(これは久々に血が騒ぎ出しそうだなぁ)
普段は冷静な龍彦が珍しく戦りたいという衝動に駆られた。
かつて、この男と真剣勝負した人間は数えるほどしかいない。
古の都・京都を千年以上守護してきた進藤家嫡流の血を引く女傑、日中戦時に渡り合った先祖を同じくする女軍人、軍人時代の上官などである。いずれも彼を満足させる実力者であり、女傑に至っては初めて土をつけられたほどだ。
大戟の血を拭う呂布に、龍彦は軽く手を挙げた。
「やぁ奉先殿、元気そうだな」
「・・・・・・おぉ、誰かと思えばアンタか。アンタこそ元気そうで安心したぞ」
呂布は彼を見つけて嬉しそうに近寄ってきた。
「奉先殿、何故貴方がここに?」
そこに関羽が皆の言葉を代弁してた。そうそうと頷く者もいれば、全く興味を示さず、彼の馬に群がる面子も若干名いた。
「師に頼まれてな。あの男も、ここが危機に晒されているのは芳しくないらしい」
「あの人、ここに知り合いがいるの?」
星彩が怪訝な顔で尋ねるが彼は無愛想に「知らん」と答える。
前々から思っていたのだが、白朱という人物は不思議がありすぎる。奇怪な術は使うし、今の帝の曾祖父の代から仕えているらしいし、彼の部下にも常識外の力を使う。
その為彼についた影の名が『妖怪』。
「雲長。ここの主を紹介してくれるか。挨拶がしたい」
「分かりました。こちらです」
関羽が彼をオオクニヌシのところへ向かう後ろ姿を眺めながら、
「彼らといい、あの子達といい、世の中には不思議なことばかりよね」
「そうねぇ。でもそれが人の世の楽しみと言うものでしょ?」
微笑する清恋。
「確かに。見てて飽きないわ」
そんなしんみりしていた空気をブッ壊してくれやがった奴がいた。
「オレは奴ともっかい勝負するー!!」
張飛だった。戦闘狂の悪い癖が出たらしく、呂布に再戦を申し込む気満々だった。
過去に何度か一騎打ちを申し込んで、その都度完膚なきまでに叩き潰されてきた。だから、彼を見る度にその連敗が頭をよぎり勝負を挑むようになっていた。
そうはさせるかと清恋は彼女の首根っこをわしづかみした。
ぐえっと言う変な声が聞こえたのは気のせいだろう。
「姉さん。恥ずかしいから止めなさい」
「邪魔すんな清恋! はーなーせー!」
ぎゃーぎゃー喚く張飛に向かって、清恋は不気味な笑みを浮かべた。
「あらそう。じゃあ、姉さんが夜な夜な子龍さんの部屋に忍び込んでは『あーんなこと』や『こーんなこと』してたってことを盛りに盛りまくって公衆の面前で声を大にして語って良いのね?」
「すいませんでしたぁ!!」
即土下座をする張飛。悠香は眼が点になった。
「これじゃあどっちが姉なんだか」
「じゃあ姉さん。戻りますよ」
「はいっ」
張飛素直に清恋に従った。やれやれとため息をつく悠香。
別の場所では、魔族の死骸を片付ける公煕と華奈美の姿があった。
公熙は死骸をジィーッと見ていた。
「どうしたの?」
「───自分は今非日常の真っ只中にいるんだなぁってしみじみ感じてね」
「あぁ」
華奈未は彼と同じものを見て瞬時に悟る。
確かに今自分達は日常とは掛け離れた世界に足を踏み入れていた。
神と悪魔が住まう世界。彼らの争いに巻き込まれた自分。そして、人外の力を使うクラスメイト。
とは言っても、彼女はクラスメイトの力に関しては、既にある事件に巻き込まれた時から知っていたわけだが。
だが、まさか自分がこんな非日常に巻き込まれてその人外の力を使うことになろうとは予想だにしていなかった。
「ま、楽しいから良いけどね」
公熙は心底楽しそうだった。
「あらあら。いけない人ですこと」
クスクス笑う華奈美。
「そろそろ戻りましょか親王様?」
いたずらな笑みを浮かべる華奈未に、公煕は苦笑いする。
「華奈美さん、親王様はなしって前々から言ってるでしょう。
───まいっか、戻ろうか」
遠征から帰ってきたオオクニヌシは呂布を賓客として迎え、盛大な宴を開いた。
当然龍二達も引ったくられるようにこれに参加させられるわけで。
「りょ、呂布ぅ!?」
「何で貴方がここに?」
「よう、お前らも息災のようだな」
にかっと笑う呂布の隣にどっかり腰を下ろした龍二と安徳は、戸惑いながらも〝昔話〟で盛り上がっていた。
「奉先や。あのバカは元気にしておるか?」
青龍がやって来て酒を注ぎながら訊く。
「あの男か? あぁ元気だぞ。お前らの為に時々ヤキ入れてやってるから安心しろよ」
「へーそお゛!?」
「りゅ~り~」
いきなり、龍二は達子に抱きつかれた。例によって、べろんべろんの泥酔状態である。
「あ~~達子ちゃんずるいれす~」
「抜け駆けはらめれすよ~」
そしてまたまた例によってカスガと趙香も泥酔していた。
「・・・・・・勘弁してくれぇ」
龍二テンションが奈落の底まで落ちた。
「・・・・・・おい青龍、これは───」
「触れないでやってくれ奉先」
それ以上は何も語らなかった。
「あ、あぁ分かった」
呂布は頷いた。
これを端から見ている者達は酒の肴を得て心底楽しんでいた。
「いやー見てるだけで楽しいねぇ♪」
公煕は隣の華奈未の方を向きながら酒をかっ食らっている。
「公煕君、お酒は二十歳以上じゃなかったかしら?」
「気にしない気にしない。そう言う華奈未さんも飲んでいるじゃないか」
眼線を彼女の右手に移す。猪口には酒が並々と注がれていた。
「あら何のことかしら?」
「白々しいなぁもう」
「そこ! 夫婦漫才はいいからたーすーけーろー!」
「えーめんどい」
「公熙テメェこの野郎!」
龍二は吠えるが五人にがっちり捕まれていて身動きがとれなかった。
「苦労してるねぇ」
それを肴に楽しんでいた南雲は、ふと視線を風紀委員長に移した。
彼は酒を飲み飯を食らい談笑と楽しんでいるようだった。
「───はぁ、堅物風紀委員長には困ったものだね」
「それ、今に始まったことじゃないから」
間髪入れずに奈良沢が返した。
たかが数ヶ月の付き合いながら、彼らにも佐々木安徳という人物がどんな男なのか理解できた。
簡単にいえば、彼は精神的な子供である。あの時の説得には一苦労だった。
それはさておき。
つんつん、つんつん
「どしたの呉禁君?」
彼女の膝の上にちょこんと座っていた呉禁は彼らに何かを必死に訴えた。
「奈良沢さん。どうやら彼は『お兄ちゃん』が構ってくれないから不満らしいよ」
「でしょうね。そんな余裕ないわよね進藤君」
彼らの眼の前では文字通り『龍二争奪戦』が繰り広げられていた。
「あっ、皆ズルイ!! 私も混ざるっ!」
『私の弟君二号をいじめるなぁ!!』
更にそこに瑞穂と沙奈江が加わり、大乱戦となった。
状況は悪化の一途を辿っていた。
「どうしよっか?」
「アタシ達にどうにかできると思って?」
うんにゃ全然と南雲は頭を振った。
「誰かコイツら止めやがれそして助けろぉ―――っっ!!」
龍二は必死に助けを求めている。
助けようとする者は当然誰もいない。
「でも早く何とかしないと進藤君そのうち大暴れしそうだよ?」
「・・・・・・しょーがないわね。助けてあげるとしますか」
首を回して肩をブンブン回して拳を鳴らしながらゆっくり近づく奈良沢。
「一つ貸しってことで」
そして───
「いい加減にしなさい!」
彼女達の脳天に全力のゲンコツを喰らわせた。
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