8 進藤家VS黒淵家———異世界2———


『暇だね~』

 龍爪の中に隠れていた沙奈江は、背伸びしてあくびをしながら相棒である龍に言う。なんとも締まりのない光景だ。


『俺は良いんだぜ、外出ても。アイツらにバレていいんならな』

 そっけない態度で彼は座って両手を組んで頭にやる。


『ん~弟君二号には今すぐにでも会いたいけど、それは嫌だなぁ』

 沙奈江はぼやきつつ何をしようか考えようとしていたところだった。

『最も、もうバレちまったがなぁ』

 ほぇ? と彼女には何を言っているのか理解できなかった。

 確かに、青龍らには知られてびっくりしてしまったが、他には誰も自分達の存在は知らないはずである。


『お邪魔してますわ』

 不意に声がかかり、ぎょっとして振り向くと、十二単を纏った顔の整った女性が正座していた。見た目は自分と同じくらいで


『・・・・・・えーっと・・・・・・どちら様?』

 当然の反応をして見せる沙奈江に、女性は丁寧に自己紹介した。

『ご無礼を。私は藤原京子ふじわらのきょうこと申しまして、後藤家で式神をやらせてもらってる者ですわ』

 後藤の式神と聞いて沙奈江はポンと手を打った。あの家しかない。

『ひょっとして嘉美ちゃんの式神?』

『ご明察ですわ』


 彼女の言う嘉美とは、泰平の姉である。彼らの家は、大陰陽師安倍晴明の血を色濃く伝える陰陽師一族だ。

 彼らの従える式神は実に多種多様で下は農民から上は世界に名の知れた超有名人までいると言われている。


『それで、京子さんは何でここでいるの?』


『実は私、生前から時間を見つけては散歩をするのが好みでして、よく夜などに人目を盗んで出歩いたものでした。式神となってもこれは治らないようで、こうして夜な夜なふらりとしているのです。ここに来たのも、全くの偶然なんですよ』


 彼女は出歩き癖があり、たまたまやって来た部屋に立て掛けてあった龍爪を見つけた。生前から伝え聞いていたようで、試しにやってみたらすんなりと入ることができた。

 そして入ったら彼女達がいたということらしい。


『そうなんだ♪』

 沙奈江はそれだけ言ってそれ以上聞かなかった。彼女にとって京子の行動とかは特に気になることではなかったらしい。


『しかし、お前さんよく誰にも襲われなかったな』


 沙奈江の相棒がジロジロと京子を見た。

 平安期の女性は夜に一人で出歩くなどない。出歩くとしても、牛車に乗ってお伴を連れてである。

 当時は今よりも治安はだいぶ悪く、夜党・追い剥ぎといった社会のあぶれ者共が獲物を求めて徘徊していたのだ。特に女性なんかは彼らにとっては格好の餌食だ。


『裏道とか色々知ってましたから。いやはや、よく見つかって父様や母様に叱られましたわ』

 本人もその辺は自覚があるらしく苦笑していた。それも今や良い思い出なのだろう。


『えっと、すみませんが、貴方がたのお名前を伺っても宜しいかしら?』


 京子に言われ、そう言えば言ってなかったことを思い出した二人は自己紹介をする。


『私は進藤沙奈江だよ』

『俺は龍王だ。こいつの相棒だ』


 彼女は一瞬きょとんとしてしまった。

 長年進藤家と繋がりを持ってきた後藤家に住み、たまに進藤家にお邪魔してきた京子であるが、沙奈江は一度も合っていないし龍王なる名を持つ龍を知らなかった。

 京子が首を傾げていると、沙奈江と龍王なる男は、その反応が当然のように笑んだ。

『知らなくて仕方ないよ。高校の頃から一人暮らししてて家に滅多に帰らなかったから』

『まぁそんなもんだろ。俺の名前なんて、進藤の家の奴らでもそうそう知ってるのは少ねぇしな』

 はぁ、と曖昧は返事をする京子。しかし、進藤の龍ならば、それなりの力を持っているのだろうと簡単に推測できた。

『藤原京子と言ったか。俺と沙奈江のことは他言無用に願いたい。一応〝秘密兵器〟として龍造に送り込まれたからな』

 彼女はこくりと頷いて、夜が明けるまで彼らとの親交を深めていった。
















 話は京子が二人に合うほんの少し前に遡る。


 神界の朝は自分達の世界とさして変わらないなと龍二は思った。朝日もあれば、靄や霧もあるのだから。

 朝早い庭で、劉封らは鍛練に切磋琢磨し、少し離れた場所では、龍二は隔日の日課としている槍の素振りに勤しんでいた。


「ふう」


 龍爪の石突を地面に打ち付けて彼は大きく息を吐いた。今日の課題とした1000回

の素振りを終えた彼の額にはぽつぽつと汗の粒ができていた。


「う~ん・・・・・・・・・」


 龍二は唸りつつ、龍爪の穂先を見上げながら首を傾げた。

 どうもここ最近龍爪が重いというか、な気がしていたのだ。


「どうしたんだ?」


 紅龍がスッと顕現して話し掛けてきた。


「いやな、最近どーも龍爪がいつもより少し重いんだよな~って思ってよ」

「───気のせいじゃないか? 疲れてるんだろ」

「そうかなぁ? おっかしいなぁ」


 すっきりしない龍二は暫く考え込んでいたが、その時食事を知らせる鐘の音が鳴り響いた。


「ほれ、鐘が鳴ったぞ。早くしないと皆に食いもんをぜぇんぶ持ってかれるぞ?」


 食欲旺盛な彼にとって、それは大問題である。「それは困る!」と言って、龍爪を突き刺しっぱなしにしてダッシュで大広間に駆けていった。


「良かったな、お前ら。バレなくて」


 紅龍はまるで誰かと会話しているように龍爪にニヤリと笑った。ふふんと鼻歌を歌いながら彼は龍二の後を追うように行ってしまった。

 龍爪の穂先から透明な雫が滴り落ちた気がした。

















 オオクニヌシは自室で腕を組んでいた。先程から一抹の不安が抜くえなかったのだ。

 ここ数日、魔族が襲撃してこない。


(おかしい・・・・・・・・・)


 兵力や士気は圧倒的にあちらが有利。こちらは質は上だが、コウフラハの存在の為に統率がとれていない。


 無論、コウフラハに罪はない。

 だが、不安粒子がある分、奴らとの戦に集中できないでいた。この状況を、あのゼウスが見逃すはずはない。


(何か、おかしい)


 奴程の者が、である。何かあるとしか思えない。裏に黒淵悶奴がいることは間違いない。

(! まさか───)


 その時、最悪のシナリオが彼の思考によぎった。そんなことはないという一心で排除していたそれは、ある意味でこちらの士気を急降下させ、かつ、自分の指導力や人望に傷をつけることができる。


「スサノオ! スサノオはいるか!」


 己が失態に、彼は叫ばずにはいられなかった。


「父上。どうしました?」


 やってきたスサノオに、彼は言った。


「すぐ全員に戦闘体制をとらせろ! 奴らが来るぞ! アタカノミコトらを率いてな!!」


 間髪なく言われた発言に息を呑むスサノオに、オオクニヌシは声を荒らげた。


「急げ!」
















 オオクニヌシの予感は的中した。

 戦える者を家の隅々に配置して間も無く、魔族が来襲した。だが、いつもと違ったのはその部隊ほとんどが同じ神族の者だったことだ。


 率いていたのはアタカノミコトだ。オオクニヌシの片腕と言われ彼の信頼を置いていたものだった。


 同族同士で戦うことはオオクニヌシ側に動揺をもたらす結果となった。友や仲間だった者と戦うことに躊躇いを感じたことで彼らは後手に回ってしまった。オオクニヌシ側が問いかけたり説得を試みるも、アタカノミコト側は問答無用といわんばかりに次々に手をかけていった。


「やってくれる!」


 フツヌシノミコトが苦々しく吐き捨てた。彼も戸惑っている一人だが、自分達を裏切って敵についた彼らのことが許せず、怒りに任せて裏切者たちを葬っていった。


魔炎龍やつの炎を感じる。ぐずぐずしているヒマはないぞ?」


 青龍がフツヌシにそれとなく告げるや、彼は大きく目を見開いて唖然とする。自分の命を狙ってきた者がいたので、彼を押さえつけてその眼を見た。

 彼の眼は焦点があっておらず光がなかった。

 

「くそっ!」


 彼は感情をむき出しにして押さえつけていた者を葬った。彼らを助けることのできないやるせなさを突き付けられ、悔しさに顔を歪ませた。


「フツヌシ様。前線部隊が指示を仰いでおります!」


 駆け込んできた神族が尋ねれば、暫しの沈黙の後、意を決したフツヌシが自身に言い聞かせるように命令を下した。


「アタカノミコト一族を討て!」


 命令を伝えにいこうとする者に、フツヌシは付け加えた。


「彼らを助ける為だ」と。













「ふざけやがって!」


 庭のど真ん中で、イザナギを始めとするオオクニヌシ軍は激しく憤っていた。


「そこまでして勝ちたいか! ゼウス!!」


 オオクニヌシが眼の前にいる男に怒りをぶつけた。

 その男は、漆黒の翼に白き衣を纏っていて、さながら堕天使のように見えた。


「クックック。愚問だぞオオクニヌシ」


 不敵な笑みでゼウスは告げた。彼こそ、魔族の王であるゼウスである。わざわざ自ら出向いてきたのだ。


「我が野望はこの世界を手中に治めること! 邪魔するものは容赦しない!」


 放たれた黒き雷をオオクニヌシは手で払い除けた。


「貴様の野望、俺が砕いてやる!」


 槍を引っ提げ突っ込むオオクニヌシに、ゼウスは剣で応対した。


「どうした? こんなものか我が友の実力は」

「黙れ! 闇に堕ちた貴様は最早友ではないっ!」

「つれないなぁ」


 激高しているオオクニヌシにゼウスの言葉など耳に入っていない。オオクニヌシの槍をゼウスはなんなくいなしていった。


「父上ぇ!」


 父を助けるべくスサノオは駆けつけようとするが、ゼウスの手下によって行く手を塞がれてしまった。


「こんな時に!」


 憤る彼であったが、すぐに冷静になり戦場を見回した。最初こそ激昂してなりふり構っていなかった父であったが徐々に冷静さを取り戻したようで今はゼウスの力量を把握しているかのように一進一退の攻防を繰り広げている。

 これなら大丈夫であろうと安堵したスサノオは眼前の敵に集中することにした。


 別の場所では、カスガノミコトやイザナミといった女性達が一所懸命に戦っていた。

 女性であっても、彼女達はなかなかの実力者であって、その辺の男共とはわけが違う。


 アマテラスは彼女達ほどの力はないが、後方支援能力は郡を抜いて長けているので、彼女達の援護と言う形で敵とかつての同胞を冥界へと送っていた。


「こっから先は一歩も通さないよ!」


 意気込む女神に、意思を無くした神達は特攻していった。














 その頃、龍二は黒淵師径と相対していた。

 本当はもう一人、黒淵時成という若者がいたのだが、烈火の如く怒った龍二の前に一瞬のうちに屠られてしまった。


『俺のおもてなしは口に合ったか?』

「・・・・・・合うわけねぇだろがクソ野郎」


 灼熱の紅色に染まった瞳は、真っ直ぐ人の形をした悪魔を見据えている。

 同じく灼熱の紅色の髪は逆立ち、その怒りを鮮明に表現していた。

 そこに、黒淵一族の重為が加勢に来た。


「二人相手に敵うと思ってんのか? あぁ??」

「・・・・・・・・・」


 龍二は何も言わず槍を繰り出した。師径と重為は易々と避けて見せる。構わずそのまま突進し、龍爪をしごいたり振り回して様々な攻撃を繰り出す。


「・・・・・・・・・」


 龍二の怒りに染まった瞳は徐々にその濃さを増していった。

(おい龍二。怒りで我を───)

 そんな彼を心配して、紅龍が止めようとした。

(大丈夫だ紅龍。これでも、相当抑えてる)

 間をとった龍二が再び突きかかろうとしたその時、師径に操られた者達が立ち塞がった。

 それを見た龍二の怒りのボルテージが更に上昇した。


「テメェ・・・・・・・・・ッ!!」


 龍爪を握った手が小刻みに震える。

 立ち塞がったのは、何の能力を持たないただの一般人。自分の世界の人間だった。

 〝ただの人間〟を、師径は平気で自分の盾にしようとしたのだ。


「どこまで腐ってやがる!!」


 その中には自分達と変わらないか年下の者、女性も含まれていた。

 憤激した龍二は龍爪を地に突き刺し、腰の愛刀『龍雲』を抜刀した。

 彼は駆け出し、峰で操られた人々の腹部を強打、気絶させながら師径と重為に詰め寄っていく。


「師径ッ!!!」


 まだ先にいる憎くて堪らない人間の名前を怨み口調でぶつけ、一撃を与えるべく突っ込む。


「テメェだけは絶対に許さねぇ!」


 怒り心頭の龍二の眼は血走っており、その憤怒の顔を見た師径は下品な笑いでさらに挑発していく。


(おい、龍二───)

 こうなると、紅龍の言葉は龍二の脳内から抹殺された。彼の怒りに触発されたように、龍雲の刀身から紅炎が噴き出る。


「進藤流六式之五・阿修羅!」


 龍二の斬撃を楽々に避ける師径。怒りに支配された人間の行動程、冷静な人間には御しやすいことを彼は知っていた。


「力はあっても身体がついてこないんじゃ何の意味もないな!」

「ほざけッ!!」

「余所見してんじゃねぇよ」


 重為が二人の間に割り込むように邪悪は炎を纏った拳を繰り出すが寸前のところで龍二は避けて間を取った。師径と重為は黒淵でも上位に位置する実力者。紅龍と融合した龍二であっても苦戦を強いられる。


 怒りで我を忘れた龍二は青龍との訓練で習得した蒼炎と紅炎の二種を混ぜ合わせた炎撃と斬撃を繰り出す。これにはさしもの二人も少し驚いた。


『小癪な真似を!!』

 魔炎龍がたまらず主を助けるべく『操人魔炎』を放つ。龍二は祖父譲りの剣撃でそれをたたっ斬る。


「オラァッ!!」


 気合いの一撃を打ち込むが仰け反るように避けた師径の顔が少し苦悶に歪んだ。


「なめんな!」


 避け様に師径が懐に忍ばせていた短剣に邪炎を纏わせ彼目掛けて放った。龍二は避けることができず、右脇腹に喰らってしまった。


「しまっ・・・・・・・・・」


 咄嗟に離れて手をそこにやれば、ねっちょりとした生温い感覚とそして痛みを感じた。

 そこで彼はようやく正気に戻った。


「(あーあ)」


 龍二は自分の馬鹿さ加減に心底呆れた。

 脇腹に刺さった短剣を引き抜くと鮮血が噴き出す。同時に疲労が彼を襲い、龍雲を杖代わりにしてようやく立っていられるほど体力を消耗していた。

───後先考えようぜ俺。

 そう心で呟いた。


「死ねぇ!」

「させるか!」


 主人のピンチに紅龍が顕現し、止めを刺さんと迫ってきていた師径と重為の攻撃を防いだ。


「失せろ!!」


 彼は咄嗟に高密度に圧縮した炎の球を形成し彼らに投げつけた。引き際と判断したのだろう、二人はその攻撃を回避すると邪炎を地面に放ち、そのまま消えた。


「龍二っ!!」


 紅龍は力なく崩れそうになる主の脇を支える。体温が下がっているらしく少し冷たく感じた彼はゆっくりと横にした。


「わりぃ紅龍。やっちゃった」


 力の無い笑いを浮かべる龍二の声は少し震えていた。寒くなっていると自身でも感じ取っているかのようだった。



「分かったから、今は喋んな」


 ため息をつきながら、紅龍は自身の服を適当な長さに破り、傷口の周りにある血をふき取ると『少し我慢しろ』と告げてから力を調整した炎でその傷口を焼いて塞いだ。龍二は呻いたが言われた通り我慢した。


「ったく。お前、分かってたんじゃねぇのかよ」

「だからごめんって」

「喋んなバカ」

「どっちだよ~」


 ぶぅたれる龍二を背負うと、ゆっくりとオオクニヌシの家に歩いて行った。













 頭の下の柔らかな感触に龍二は眼を醒ました。いつのまにか寝てしまったようだ。

 覗き込む二つの光に一瞬驚くが、すぐに安堵の息を漏らす。


「なんだ、達子か」


 周りを見渡せば、カスガノミコトや瑞穂もいた。


「わりぃ。またやっちまった」


 包帯の巻かれた右脇腹を擦りながら龍二がちろりと舌を出すと、達子はゆっくり首

を横に振る。


「龍二、ちゃんと生きてるでしょ? アタシはそれだけでいいの」

「そっか」


 微笑する龍二に、暫く安静するようにという伝言を瑞穂より受けると、彼は素直に頷いた。

 ブラコンの瑞穂も、今回は自分の欲を抑えているらしい。


「あ────膝枕って気持ち良いなぁ」


 あれ・・・・・・・・・?


「でしょ? 今ならもれなく耳掻き付きよ♪」


 いやいや待て待て。


「お────それはいいなー」


 何故だろう。あそこだけピンクのお花が一杯の空間が広がる新婚さんの部屋に見える。とカスガノミコトと瑞穂は意味も分からず嫉妬した。

 一瞬でシリアスな雰囲気がブッ壊れてしまった。


『おーっす龍二。具合はどないや~・・・・・・って、何でそこだけピンク色やねん!?』

「あら? これはお邪魔だったかしら?」

「おやおや。これは携帯を持ってくるべきだったねぃ」


 九条為憲やちゃかしにきた華奈未、公煕といった仲間が続々と見舞いに来た。そし

て皆一様にツッコミを入れていた。


「この万年ピンク野郎」

「おいおい。それが怪我人にかける言葉かよ~」

「あらあら。見事に説得力に欠けるわね」

「そんなことねぇ~よ~」

「おおぅ。まさに携帯動画に録りたいぜこれ」


 明らかに今の龍二は幸福感に包まれている。

 とにかく覇気がないし、何かへらーっというかでれーっというかふにゃーっとしていた。達子も達子でニヘラ~ッとしていた。

 このバカップルがと一喝してやろうかと思ったが止めた。

───もういいや。

───コイツらは自由にさせよう。

 皆の意見が一致した瞬間だった。理由は言わなくても良いだろう。


「んで、こちらの戦力は大幅ダウンしたってことだな」

「そうですね。背水に等しい状況ですよ」


 そんな新婚夫婦の空間を強制遮断して泰平達は今後の相談を始めた。


「私と貴方、それと龍二の戦線離脱。これほどの痛手はないでしょうね」

「だな。僕と明美は力じゃ君達に劣るからね」

「そんなことはないさ」


 劉封からすればそれでも十分過ぎるほどの戦力になってるけどねと敢えてツッこまなかった。


「師径が退いた後にゼウスも撤退したようだけど、正直厳しいね。龍二君は僕達の要だしねぃ」


 そこに、和美が見舞にやってきた。


「さっき伏龍さんが出てきてね。龍二君、完治するまで二週間ちょいだってさ」

「ちなみに、私は後十日前後だそうですよ」


 聞いてねぇし笑えねぇよ、と泰平が代表してツッコミを入れた。


「つか、話し合いになってねぇよ!」

「ですよね~」

「ヤス兄・・・・・・。もうちょい真面目に───」

「ちょっと待て和美。僕はいたって真面目だ。会議だ話し合いだになると何故かこうなるんだよ」


 もう一種の才能だねと慈しみの眼差しで兄を見た。そんな眼で見るな、と泰平。


「こうなったら緑邑達に頑張ってもらわないと」


 そうですねとぼやく安徳は悔しそうに右腕を見つめた。


「取り敢えずマサさん。結界の強化を頼むよ」


 おう、と大内政義はすぅっと消えた。

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