第15話 殺した男の顔
かち割れて脳みそが飛び出た頭部を、色鉛筆を使って描いている。髪の毛一本一本から、血の光沢まで、図書館やインターネットで入手した資料を片手に、細部までリアリスティックに書き込む。
「美華、その男ちゃんと殺した方がいいんじゃない?」
今でも公園で
「本当に殺るんじゃないよ。
「トラウマを絵だとか文だとかに
あきらは別にセラピストでもないし、適当に思いついただけのアイディアだけど、なんとなくやってみようかなと思って始めてみたら、意外と効果的なのである。私を襲った男の、死に顔を絵にするということが。
トラウマが本当に克服されるかどうかはまだ分からないけれど、描いている間は写経でもしているように(写経なんかしたことないけど)心が安らぐのだ。夢にうなされることもだいぶ無くなってきたので、コツコツと続けている。もうすぐ完成しそうだ。
もうすぐ完成しそうな理由はもう一つある。あきらと会う回数が減り、あまり他にやることがないからだ。あきらは、
女友達というのは、かのように薄情で現金なものなのだ、と開き直ったあきらから教えてもらった。それでも、週一で家事をしにやってくるのだからありがたく思え、とも言われた。ごもっともである。
「そのうちフラれたら、またこっちに来る頻度も増えるよ。」と不吉なことを言っていたが、今のところうまくいっているようだ。恋をしてなんだか艶っぽくなったあきらが、少し不気味ではあるが、幸せそうでなによりだ。
私の方はというと、バイトをするのも
「柏木さんは、とりあえず量をこなせば芽が出ると思う。」との吉永教授に
描いても描いても、先生たちからの評価は厳しい。可もなく不可もなく。たまに、もう辞めてしまおうかと思うことがなくもないが、かといって他にすることもない。
ふと、この死んだ男の顔の絵を提出してみようかという気になった。
*
死んだ男の絵が完成し、吉永教授に見せてみたら、思いのほか好評だった。
「パワーがあるわね。」と言われ、細部の描写の正確さなども
みんなの注目を集め、しかもそれが死んだ男の顔の絵なので、嬉しくも居たたまれない気持ちで、私は授業を終えた。
家に帰る途中、死んだ男の絵を教室のイーゼルに置いたままにしていたことに気づいた。もうすぐ夕方になる時間帯だ。忘れた絵を取りに教室に戻ると、私の絵を置いたイーゼルの前に誰かが立っていた。一星くんだった。
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