目覚める
目を開けると周りに知った連中がいて、俺を囲んでいた。
「ここは?」
俺がそう聞くと、アンクルが答えた。
「あなたの心の中よ」
「心の中?何でそんなところに……」
俺はそう言っているうちに記憶が蘇ってくる。
南側のダンジョンで闇に囚われて堕ちた事を……。
魔王として何をしていたのかを……。
そして、皆んなが俺を闇の中から引き上げてくれたことを……。
「そうか、俺は闇に堕ちたんだな……」
「ええ、そして皆んなのおかげで助けられたのよ」
アンクルはそう言って、周りで疲れきって座り込んでいるサリエラ達を見る。
その中には笑顔で立っているアレスがいて、俺に軽く手を振ってきた。
「やあ、キール、ずいぶんと見た目が変わったねえ。本当、やさぐれ感が半端ないよ」
「ほっとけよ。お前は相変わらず変わってないな……」
「まあ、僕は死んでるからね。はははっ」
アレスはそう言って笑うが俺は全く笑えなかった。
「……すまなかった、アレス」
「何言ってるんだよ。君のおかげで僕は勇者になれたんだしね。皆んなへの良い土産話になったよ」
「皆んなもまだいるのか?」
「うん、君達が心配だったからね。でも、こんなに良い人達に囲まれてるなら、もう大丈夫だよね?」
「……ああ」
「良かったよ。じゃあ、僕はそろそろ行くね」
アレスはそう言って握り拳を作り俺に向けてくるので、俺も握り拳を作り当てると笑いながらゆっくり消えていった。
「……ありがとう、アレス」
俺はそう言った後、皆んなに頭を下げた。
「ありがとう、皆んな」
すると、サリエラが俺の頬を両手で押さえて持ち上げると微笑みながら言った。
「お帰りなさいキリクさん」
「サリエラ、ただいま」
俺がそう言うと今度は少し頬を赤らめたミナスティリアが腕を組みながら言ってくる。
「やっと帰ってきたわね」
「悪かった。ミリィ」
「……す、凄く心配したんだからね!」
ミナスティリアはそう言って涙目になりながら俺に抱きついてくる。
そんなミナスティリアの頭を撫でてると、ファルネリアが近づいてきた。
「お帰りなさい。気分はどお?」
「なんだか、視界が開けた感じだな」
「良かったわ。旦那が闇堕ちなんてアレだしね」
「旦那?」
「ふふ、今は良いのよ」
ファルネリアはそう言うと、笑みを浮かべながらミナスティリアを引き剥がし後ろに下がる。
すると今度はミランダが満面の笑みを浮かべて抱きついてきた。
「やっぱり、キリクは先生だった!」
「ミランダ……。悪かったな」
「良いよ。先生が生きていてくれただけで良いの!」
ミランダがそう言うと、リリアナも抱きついて来て言ってきた。
「悔しい。気づかなかった……。でも、それを上回る喜び」
「リリアナも悪かったな」
「気にしない。夫がしたことは妻の責任でもある。一緒に頑張りましょう」
「ん、何言ってるんだ?」
俺はよくわからなかったので聞き返すと、リリアナはミランダを叩き落として黙って下がってしまった。
すると、今度はマルーが駆け寄って服を掴んできながら言ってきた。
「キリク……。心配したんだよ……」
「悪かったなマルー」
「もう、何でも一人で背負ったら駄目だよ」
「わかったよ」
「あ、後、ぼく隣りにすぐに立つから待っててね……って、きゃーー!言っちゃった!」
マルーは突然、両手で顔を隠してしゃがみ込んでしまい、そんな姿を見たミナスティリアは何故か悔しそうな表情をする。
そんな二人をなんだかよくわからないが見ていると、アンクルが俺の方に来ると言ってきた。
「さあ、戻りましょう」
「あ、ああ。だが、これからどうするんだ?」
俺は暗闇が広がっている結界の外を見ると、アンクルは微笑んでくる。
「安心して、今、ネクロスの書を使用してあなたの二つの身体を繋いでいるわ。ここは丁度、中間点なのよ」
「ネクロスの書?あれにはそんな用途もあったのか……。だからアレスが来れたのか」
「ええ、ネクロスの書は死後の世界にも繋げる事もできるの。まあ、あの子が来るなんて想像してなかったけど……」
「あいつは俺が死にそうな時はいつも助けてくれるんだ……。それで、俺はどうすればいい?」
「私の領域にある身体にあなたの心を移すわ。それなら闇の力も完全に引き剥がすことができるから」
「なるほど、あれか……。やれやれ、全部、お前達の手のひらの上って感じだな」
「….…ごめんなさい」
「まあ、いい。さっさと終わらせよう。反省会はその後だ」
「わかったわ」
アンクルは頷くと、俺の胸に手を当てそこからネクロスの書を引き出す。
そして、軽く手をかざした瞬間、結界を取り囲んでいた暗闇が勢いよく消え、俺達は光りに包まれたのだった。
◇◇◇◇
気づくと目の前には美しい庭園が広がっていた。
しかも、俺が一番気に入っていた場所である。
俺はゆっくりと上半身を起こし庭園を見つめると、二人の太々しい男が視界に入ってきた。
「おっ、どうやら起きたみたいだよ。オルトス、僕の勝ちみたいだ」
「ちっ、てめえは何で後、三十分寝てられねえんだよ!」
オルトスはそう言いながら、お金をグラドラスに投げつける。
どうやら、俺が起きる時間を賭けていたらしい。
正直、起きてそうそうこいつらを殴ってやりたい気持ちになってしまっていると、アンクルやサリエラ達が駆け寄ってきた。
「どうやら、無事にこっちの身体に来れたみたいね」
「ああ、ウォーミングアップにあの二人を殴っていいか?」
「ふふふ、駄目よ。二人はあなたの為に奔走してくれたんだからね」
「ふっ、この賢聖たる僕に感謝してくれたまえよ」
「そうだぜ、まあ、俺は美味い酒と金で勘弁してやるよ」
二人はそう言うとニヤッと笑うので、俺は盛大に溜め息を吐く。
「はあっ、また、こいつらの相手をしないといけないのか……」
俺は二人の太々しい顔を見てそう思いながらも、口角が上がるのだった。
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