アレスの世界
私達はゆっくりとアレス様に近づいていくと、アレス様は振り向かずに言ってきた。
「アンクルか……」
「私を覚えてるのね……」
「当たり前だ、なんせお前には俺の半分を渡しているんだからな。貴重な体験だったよ」
アレス様はそう言って手をすくめると立ち上がり、大剣を握るとあっという間にその場から消えた。
私は驚いてアンクルを見ると、別の場所を見ていたので思わずそちらに視線を向ける。
すると、アレス様が誰もいない場所で剣を振るっていた。
それも誰かと戦っているようで、しばらくすると剣を振るうのをやめて岩場に戻り腰を下ろす。
私はそんな光景を見てついアレス様に聞いてしまう。
「……あの、アレス様は何をやられてるんですか?」
「見ればわかるだろう?」
「……すみません。私には何も見えないんです」
私がその答えると、アレス様は立ち上がり、振り向くと私を見て聞いてくる。
「……周りに沢山魔物の死体が転がってるだろう?」
「いえ、何も……」
アレス様は私の言葉を聞きアンクルの方を見るとアンクルは首を振りながら言った。
「ここには何もいないわよ……」
「……どういう事だ?」
「あなたは闇に飲まれたの。ここはあなたが無意識に作りだした場所よ」
「闇に……魔王カーズトの呪いか……。それで今、俺はどうなっている?」
「あなたは魔王となり世界を滅ぼそうとしてるわ」
「……そうか。俺が魔王ね……。それで俺を殺しにきたのか?」
アレス様がそう聞くとアンクルは首を横に振る。
「闇に堕ちたあなたの心を救いに来たのよ」
「それでまた戦わせるのか?」
「……ええ、そして全てを終わらせるの」
「終わらせる……」
アレス様はそう呟いた後に腕を組み、しばらくすると私達を見ながら言ってきた。
「なるほど、状況がよくわかった。この世界を創った神を起こして世界と神々全てを滅ぼすか。魔王の考えがやっとわかったぞ」
「……闇の力を辿っていったのね」
「ああ、魔神グレモスはそもそも被害者だったこともな。……この世界を破壊したくもなるよな」
「黙っていてごめんなさい……」
「別に謝ることはないだろう。所詮、神も人と大差がないってことか……やれやれだな」
アレス様はそう言って溜め息を吐くと、私を見てきた。
「まさか、お前がアーリエの娘だったとはな」
「私がわかるのですか?」
「今の俺には、キリクの記憶も精霊妃フェニクスの神殿の記憶もあるからな。だが、俺はキリクではないぞ」
「えっ、どういう事ですか?」
「俺は名を変える度に自分を殺してきたんだ。俺やキールはその残滓に近い」
「魔王の残滓みたいなものということですね……」
「そうだ、本当の俺は闇に沈んで夢を見続けているからな」
「キリクさん……」
「助けたいか?」
「はい!」
「全く、なんでこんな奴に構う?憧れていた勇者だったからか?」
「違います!私は今のキリクさんが好きなんです!ずっと一緒にいたいんです!」
私はアレス様に詰め寄りながらそう言うと、アレス様は若干、状態を後ろに逸らした後、溜め息を吐く。
「はあっ、お前の所為で俺はまた頑張らなきゃいけないのか……。全くとんでもない奴を連れてきたな、アンクル……」
「私ではあなたの心を救うのは無理だったから……」
アンクルはそう言って悲しげに俯くと、アレス様はアンクルを見て言った。
「……そんなことはない。お前の領域にいた時はずいぶん救われたよ。ずっと続けば良いと思っていたぐらいだ」
アレス様は優しそうな声でそう言うと、アンクルは顔を上げアレス様に駆け寄り抱きついた。
「アレス!」
「……悪いが、それは戻った時の俺にしてくれ」
「戻ったら何度もするから大丈夫よ」
「だが、一筋縄じゃないかないぞ……。なんせ、今のキリクは、キールやアレスの痛みも苦しみも受けもってるから闇の力はとても心地良いと感じてる」
「ちゃんと考えているわ……」
「それならいい」
そう言うとアレス様はゆっくりと薄れていく。
そして私達を見ると手をすくめた。
「待ってる」
そう言って消えていくと、辺りが徐々に切り替わり真っ暗闇の空間に移動したので、アンクルが光る蝶を出してきて辺りを照らした。
「どうやら、着いたみたいね」
アンクルはそう言って辺りを見回すが首を振る。
「駄目ね、私ではどこにいるかわからない。サリエラならきっとわかるはずよ」
「私ですか?」
「ええ、あなたとあの人の繋がりを見つけて」
私はそう言われて薬指に嵌めた指輪を見ると、薄らと線が見えてきた。
これが繋がり?
私はその線を辿って歩きだす。
そして、しばらくすると私が会いたかった人の背中が見えてきた。
私は思わず叫びながら走りだしてしまう。
「キリクさーーん!」
やっと、会えた。
早く顔が見たい。
触れたいよ。
私は泣きながら走り続ける。
しかし、いつまで経っても距離が近づかないことに気づいてしまう。
するとアンクルが私に声をかけてきた。
「闇の力が邪魔してるわ。このままだとキリクには何も届かないわ……」
「じゃあ、どうしたらいいんですか⁉︎」
「私が力を使って道を切り開くから、あなたは彼を掴んで声をかけるの」
「わかりました」
私は力強く頷くとアンクルは光る蝶を更に増やし、ゆっくりとキリクさんに近づいていく。
すると、闇の力が抵抗しているのか光る蝶が次々と光りを失い落ちていってしまう。
しかも、アンクルもとても苦しそうだった。
私はアンクルが心配になり声をかけようとすると、こちらを向き首を振る。
「大丈夫よ。だから、もう少し待ってね……」
そして、更に光る蝶が落ちていき、遂には残り数匹になってしまった時、アンクルが私の方を向き頷く。
その瞬間、私は駆け出しキリクさんの腕を掴み叫んだ。
「キリクさん!」
すると、キリクさんはゆっくりと悲しげな表情をこちらに向けてきたのだった。
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