キールの世界2
私達はあれから、王都にある城に向かったがやはり、道中、誰にも会わなかった。
しかし、相変わらずキール君は気にする様子もなく、城の方に歩いていていたのだが城の前に到着すると何故か俯いて動かなくなった。
私は心配になってしまい、声をかけようとしたらキール君はゆっくりと城を見上げながら呟いた。
「俺はここにいて良いんだろうか……」
「ど、どういう事ですか?」
「……わからない。けれど、本来、いるべきなのは俺じゃなくて……ああ、そうか」
キール君は腑に落ちたような表情になると、城の中に入っていってしまう。
そんな姿を見てアンクルが呟く。
「私達が来た事で記憶が蘇ってきているのよ」
私はその言葉を聞き胸が痛んだ。
それは過去にあったことを思いだすということだからだ。
けれど、それをしなければキリクさんは助けられないのだ。
私は唇を噛み締めながらキール君の後についていく。
すると、キール君は書庫に入っていった。
「よく、ここで稽古をサボって本を読んでいたな……」
キール君はそう言いながら、窓の方に歩いていき外を見る。
私達も後ろから窓の外を見るとそこは広い中庭になっていて、壁の近くには藁の人形や、木剣が立て掛けてあった。
キール君はそこを悲しげに見た後、本棚に向かい一冊の本を出してきた。
「これが全てを狂わせた……」
それは勇者の加護についてという題名が書かれた本だった。
キール君はその本をアンクルの方に投げると質問してきた。
「何故、他の奴じゃなく俺だった?」
私はその瞬間、キール君を見るとキリクさんが重なって見えてしまう。
そしてアンクルもキリクさんが見えたのか、思わず顔を背けてしまい、しばらくして震える声で答えた。
「あなたしかいなかった。あなた以外はいなかったの……」
「俺の所為でこの国は滅んだ。民も全てだ」
「世界の半分を救う為の犠牲よ……いえ、これは言い訳ね。私達、神々が助かりたかったからよ……」
アンクルは閉じていた瞳から涙を流す。
そんなアンクルをキリクさんはしばらく見つめた後、ゆっくりと薄れていきキール君にだけになると言った。
「神々が死ねば世界中の人々も死ぬんだろう?」
「……そうね。守る力が消えてしまうから」
「なら、仕方ないことだったのだろう。結局は今のこの世界は神々に守られているんだからな」
「……けど、あなたの大切な者達の命を奪ったわ。恨んでもいいのよ」
「俺はこれでも王族だ。今の話を聞いてお前達がした事に関しては誰よりも理解したつもりだ」
アンクルはそう言われた瞬間、キール君の方を向く。
「どうして、あなたと言う人は……」
「ずっと苦しんでる奴を責める趣味はないからな。だが、悪いと思うなら世界の為に死んだ者達に祈りを捧げてくれ……」
「約束するわ、私達全員で必ずね」
「なら、キールとしてお前達に何か言うことはもうない」
「ありがとう……」
「やれやれ、こうなると俺も夢から醒めないとな……」
キール君はそう言うと書庫を名残惜しそうに見つめた後に出ていってしまったので、私達も頷き合うと後を追った。
それから私達は城の中をしばらく進んだが、通路のある場所に来るとキール君は立ち止まり呟いた。
「……何もないか」
そして、寂しそうな顔をしながら再び歩き出し、ある扉の前に来ると扉を見つめながら言ってきた。
「この世界は本当の世界じゃない。だけど……それでも、この先を見る勇気が俺にはない」
キール君はそう言って、微かに震える手で頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。
そんなキール君を見て私は思わず抱きしめてしまう。
「大丈夫ですよ。私が付いてますから」
「……サリエラ」
「キリクさん、これからは私や他の人を頼って下さい」
「だが、そんな事をしたら迷惑をかけてしまうだろう。俺はそんな事をさせる勇気も資格もないよ」
「いいえ、あなたは私や沢山の人々を救ったんです。だから、今度は私達があなたを救う番です。だから、沢山迷惑をかけてくれたって良いんですよ」
「……迷惑をかけてもいい?」
「はい」
私はそう言って微笑むと、キール君はゆっくりと目を瞑った後に頷き扉を開けた。
そして中を見たキール君は一筋の涙を流しながら言った。
「やっぱり、夢は夢か……。ここはあの場所ではなかったんだな」
そう言ったキール君は徐々に薄れていく。
そして私達を見ると微笑みながら消えていった。
私は誰もいない謁見の間を見つめながらアンクルに聞く。
「これで、キリクさんの心は戻ったのですか?」
「キールという心はね……」
「えっ、それじゃあ……」
私は思わずアンクルの方を振り向くと、周りの景色が薄らいでいく。
そして気づくと辺りの景色は変わり私達は岩場と草原が広がる場所にいた。
そしてアンクルはある方向を指差したので、そちらを見ると岩場に座りこちらに背を向けてむいる人物がいた。
私はそう人物を見て呟く。
「勇者アレス様……」
その後ろ姿は血塗れのフルプレートを着た人物、アレス様だったのだ。
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