魔導兵団の戦い

「おやおや、アリシア様はまた問題を起こしに来られましたか?」


 そう嫌味たらしく言って来たのはローグ王国騎士団の第四大隊、副団長のリンデルである。

 このおかっぱ男は若干、人族主義的な考えがあり、何かにつけて私に突っかかってくるのだ。

 そんなリンデル達、ローグ王国騎士団は私を侮蔑を含んだ目で見つめてくるが、私はそれどころではなかった。


 なんで城内を守るローグ王国騎士団がここに?

 まさか、城の守りよりこっちを優先してるの……。


 私は今回の件が相当重い事だという事が理解できてきた。


「……安心しなさい。あなた達の邪魔はするつもりはないわ」


 私はそう言ってリンデルが何か言う前に踵を返して、この場を離れようとする。

 しかし、すぐに地面が激しく揺れだし、離れるどころか動く事もままならなくなったのだった。


「な、何が起きてるの⁉︎」


 私が膝をつきながら周りを見ていると、リンデルが焦った表情で通信型の魔導具を取り出した。


「こちら第四大隊、北区画に侵入されたようです!」


 リンデルがそう叫ぶように報告したと同時に地面に亀裂が入っていく。

 その亀裂は一気に広がっていき私達の方まで伸びてきた。

 その瞬間、私はすぐに魔法を唱えた。


「第六神層領域より我に風の力を与えたまえ……フロート!」


 私は騎士団ごと身体を浮かして亀裂がない方に投げるように飛ばす。

 私はなんとか上手く着地できたが、魔法が使えないローグ王国騎士団第四大隊は身体を打ちつけてしまう。

 それを見て、文句を言われるかと思ったが、すぐに起き上がったリンデルは私に駆け寄ると敬礼してきた。


「助かりましたアリシア様!」


 私は一瞬驚いたが、手を軽く振る。


「き、気にしないで。それより、これは何が起きてるの?」


「ヨルムンガルトが下に埋まってる結界を張る魔導具を破壊する為に暴れているんです」


「ヨルムンガルト⁉︎」


 私がギョッとした顔になり下を見ていると、軽装に身をつつんだ魔法兵団が慌ただしくやってきて、一斉に地面に手を当てると魔法を唱えた。


「「「「「「第五神層領域より我に氷の力を与えたまえ……フリーズ!」」」」」」


 魔導兵団が唱えた魔法は一瞬で地面の広範囲を凍らせ、その冷気は辺りの空気を冷やして私の吐く息を真っ白にしてしまう。

 そんな中、地面の下でヨルムンガルトが叫んだ。


「ギギャアアアアアアアァァーーーー‼︎」


 そして、叫び声が終わると同時に地面の揺れは完全に止まった。


 やったの?


 私は魔導兵団を見ると、睨む様に壁の方を見ていたので、私も彼らの視線を追い驚く。

 一番目の壁の上に被さる様にあった結界が消えていたのだ。


「ヨルムンガルトが破壊してしまった……」


 私がそう呟くと同時に魔導兵団がすぐに魔導具を使用して、真上に光りの玉を打ち上げ高い位置で爆発させた。

 その爆発した光りの色は血の様に真っ赤であり、それを見た私はローグ王国始まって以来の緊急事態が起きたのだと理解したのだった。



◇◇◇◇



 私はあれからローグ王国騎士団と別れ、魔導兵団の後を追いながら一番目の壁を通り抜けた。

 そして二番目の壁を覆う結界があることを確認しホッとしていると、その結界の上に誰かが浮かんでいるのが見えた。


 あれは人?


 私は走りながら、空中に浮かぶ黒いフルプレートを着た人物を見る。

 すると、その人物は持っていた赤い大剣を打ちつける様に結界に当て始めた。

 その瞬間、悲鳴の様ななんともいえない音がこだました。


キーーーーン!

キーーーーン!

キーーーーン!


「くっ、なんなのこの音は……」


 私は顔を歪ませながら思わず声を出すと、側にいた魔導兵団の第二部隊隊長エルザが言ってきた。


「あれは結界師の張ってる結界が壊れ始めてる音です。くそっ、あんな強固な結界を破壊できる武器があるなんて……」


「あれが壊れたら後はどうするの?」


「鉄鋼騎士団が出てくる以外は知らされていません。それよりアリシア様、あなたは非難して下さい」


「あれが異界の門に辿り着いたら非難する場所なんてあるの?」


「それは……」


 私の質問にエリザを筆頭に魔導兵団は誰も答えられない。

 彼ら魔導兵団は異界の門から出てくる生き物と戦った事があるのだ。

 だから、わかるのだろう。

 あれが大量に出てきたら、この世界は終わる可能性があることを。


「今は使える人がいたら誰でも使いなさい。それが貴族だろうが王族だろうがね」


 私がそう言うと魔導兵団は困った表情をしながらも頷く。


「わかりました。ただし私達から離れないで下さいよ」


「もちろん。身の丈は弁えてるわよ」


「では、このまま鉄鋼騎士団と合流といきたいところですが……どうやら、難しそうですね」


 エリザは先の方の地面から大量に出てくる虫の魔物を見て顔を顰める。

 そして武器を抜くと号令をかけた。


「魔導兵団攻撃用意‼︎︎」


 すると魔導兵団は全員隊列を組み、それぞれを武器を抜く。

 それが終わるとエリザは再び号令をかけた。


「陣形!三の型始め‼︎」


 エリザの号令に反応して魔導兵団は三列に並び、一列目から魔法を撃つと、続けて二列目、そして三列目と連続で魔法を撃つ。

 そして、それが終わると再び一列目から魔法を撃つという事を合計三セット繰り返した。

 そして全てが終わった後は先程いた大量の虫は肉片になって一匹も生き残っていなかった。


「凄い……」


 これじゃあ、何もする暇がないじゃない……。


 私はそう思って感動していると、エリザが険しい顔を浮かべながら言ってきた。


「アリシア様、まずいかもしれません……」


「えっ、まずいって何が?」


「……どうやら、私達が倒したのは前座だったみたいです」


 エリザがそう言うと同時に、穴から巨大な蠅の魔物が飛び出してきたのだ。

 それを見た私は額に冷や汗を垂らす。

 何故なら、私達の前に現れたのは飛行する虫系の魔物の中で、最強種と呼ばれるベレゼブだったからである。


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