疑う拳聖

 アンクルはそんなタナクスを咎めるような目で見る。


「タナクス、あなたの作った魔物の所為でサリエラ達のいる世界が被害にあってるのよ」


「あれは我の所為ではない。契約はしてるが呼び出しているのはその世界に住んでる連中だろう。それに魔物は魔神グレモスの配下であって我の配下はアンデットだ。間違えるなアンクル」


「その魔物を自分の領域に引き込んで死霊化させて勝手にアンデットなんて呼んでるのでしょ?」


「好きで引き込んでるわけじゃない。死の領域に一番近い我の領域にたまたま紛れ込んで来たのを使ってるだけだ。それより我にやらせたい事があるのだろう。さっさと言うがいい」


 タナクスはそう言うと黙り込んでしまったので、アンクルは溜め息を吐く。


「ふう、あなたにして欲しいのはまず死の領域から神殺しの槍を取ってきて欲しいの」


「ほお、面白い事を考えているな……」


「最終手段よ。それと、アステリアの門が開いた時に出てくるあれをネルガンの兵と共に受けもって欲しいの」


「ふむ、終焉の時か。考えただけで死が漂ってきた。良かろう我がアンデット軍団の力をアステリアに見せてやろうではないか」


 タナクスはそう言うと何か話し込んでいるアルファレスタとネルガンの元へと歩いていった。


「お願いだから先走らないでね」


 アンクルは疲れた表情でタナクスの背中に声を掛けてると私の方に向き直る。


「ふう、久しぶりに皆んなを集めたから疲れたわ……。少し、休憩しましょう。お茶を入れるわ」


 アンクルはそう言うと指を鳴らして目の前に細かい装飾が施された白い木製の扉を出した。


「ここからお気に入りの庭園に行けるの。エルフのサリエラならきっと気にいるわよ」


 そう言うと扉を開けて入るように促す為、私は一歩踏み出したのだが、後ろからものすごい勢いでオルトスさんが私を追い抜き先に入っていってしまった。

 それを見たアンクルは溜め息を吐き、私の横にいつの間にか来ていたハイダラを見た。


「いたずらしては駄目よ、ハイダラ」


「ちょっとこの大きさで噛んだらどうなるかと思っただけだ。てか、あいつ、俺の首を五本も折りやがったぞ。ぎゃははははっ!」


 既に折れた首は治っているようで八本の首を揺らしながら、楽しそうにハイダラは笑う。

 そんなハイダラをあしらう様にアンクルは手で払うと、ハイダラは笑いながら神殿中をまた駆け回り始めた。


「さあ、今のうちに」


「はい」


 私達は半神達の誰かに絡まれないよう扉を急いで通る。

 すると目の前には、沢山の光る蝶が舞い、花々が咲き誇る美しい庭園が広がっていた。


「幻想的で綺麗……」


 私は自然と声が出てしまう。

 それ程、目の前の光景は素敵なものだった。


「ここは彼もお気に入りだったのよ」


「えっ、キリクさんがここに来てたんですか⁉︎」


 私は驚いてアンクルを見つめてしまうと、アンクルは上品に笑いながら軽く手を叩く。


「ああ、あなたはまだ知らなかったわね。なら、もうちょっと秘密にしておきましょう。いずれわかるしね」


 アンクルはそう言って笑うと奥の方に進み始める。

 それを私は黙って少し後ろを付いていくが頭の中は、疑問だらけでいっぱいになっていた。


 気になる……。

 キリクさんがどうしてここにいたのか。

 でも、絶対アンクルは教えてくれないだろうなあ。

 でも、いつここに来たんだろう。

 キリクさんはハーフエルフでオルトスさん達と同じくらいの年齢なのは、あの時聞いたから四十年程生きてるのよね。

 

 私は要塞都市での事を思い出しながら考え、段々と顔が赤くなってしまった。

 思い出すと良くあんなに大胆な事ができたものだと思う。


 でも、またああしたいなあ……。

 て、違うわ。

 キリクさんよ!

 間違いなくオルトスさんやグラドラスさんと長年一緒に戦った冒険者だったはず。

 じゃなきゃ、あんなに英雄と呼ばれる人達と気さくに話せないわ。

 そうなると、やっぱりそうなのかな……。


 私は街中を探せば必ず何処かには飾られていたりする姿を想像する。

 しかし、すぐに迷宮都市のダンジョンでの出来事を思い出した。


 アレスではなくキール・オルフェリア・H・セイラムって言ったわ。

 あの名前がキリクさんの本当の名前なのかしら?

 それに黒かったけどあの鎧は間違いわよね。

 そうなると、キリクさんはアレス様の側で戦ってたのかしら?

 それともアレス様なの?


 私は考えた結果、結局答えは出せなかった。

 けれど、一つだけわかっている事がある。

 それさえわかっていれば私は良いのだ。


 キリクさん……。

 必ず助け出します。

 そして、今度こそ覚悟を決めて……。


「……やっぱり本人の前では無理!」


 私は勝手に一人で身悶えしてしまっていると、奥の方からオルトスさんがこっちに走ってきた。


「おう、ちっと走り過ぎちまったぜ。エルフの嬢ちゃんイカれた連中全員に会わされて大変だったろ?」


「アンクルがいたので大丈夫でした」


 私がそう答えるとオルトスさんは、少し私に近づき小声で言ってきた。


「……あんまり信用し過ぎるなよ」


「えっ?」


「騙されて利用されんなって事だよ」


 オルトスさんはそう言うと前を歩くアンクルさんの背中を目を細め、推し量る様に見つめたのだった。


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