不死の領域へ
アンクルさんは私に黒い空間を指差し言ってくる。
「あなたにはこちらの世界に来てもらい、彼を探してもらうわ」
「わかりました」
私がそう答えと、グラドラスさんが顎に手を当てて神妙な面持ちで喋りだした。
「戻ってくる事はできるんだよね?ちなみに僕も不死の領域に行けるのかな?」
「戻って来れるしあなたが来ても大丈夫よ」
「なら、僕も行こう」
グラドラスさんは眼鏡を指で軽く持ち上げ、楽しそうな顔をしだす。
おそらく、何か考えての行動だろう。
グラドラスさんの行動は無駄に見えて、全て意味があるのが最近、よくわかる様になった。
グラドラスさんは早速、準備しようとアリスさん呼び出したが、先に部屋に入ってきたのはオルトスさんだった。
しかも露店で何かを購入したのか、良い匂いがする大きな袋を持っていた。
「なんだあ、この部屋を向こう好みの形に変えるつもりか?」
「冗談はその髭だけにして欲しいね。僕達はこれから向こう側に行ってくるのさ」
「おっ、面白そうじゃねえか。混ぜろよ」
オルトスさんがそう言うとアンクルさんは笑顔で頷く。
「大丈夫よ」
アンクルさんはそう言って微笑むが、それを見たグラドラスさんはがっかりした顔をして呟いた。
「面倒な奴が付いてきたな……」
「何言ってんだよ。俺がいれば、どんな困難でも成功率が跳ね上がるだろうが」
「逆だろ……。まあ、いい」
グラドラスさんは部屋に入ってきたアリスさんに留守を頼むと、近くにあった鞄と杖を持ち私を見てきた。
「一応、いつでも戦える様にはしておくといいよ。後、危険な時はあのドワーフを盾に使うといい。三回ぐらいは禁呪でも防げるはずだ」
グラドラスさんはそう言うと、オルトスさんを一瞥した後、さっさと真っ黒い空間に入っていった。
するとオルトスさんは袋から肉を挟んだパンを取り出し、私に渡してくる。
「食っとけ。あの眼鏡みたいに病的な奴が増えたら困るからな」
「ありがとうございます!」
オルトスさんはその後、アリスさんとアンクルさんにも押し付ける様にパンを渡すと真っ黒い空間に入っていった。
「見た目とは違って優しい方ですね」
アリスさんがそう呟きながらパンを食べると、アンクルさんも一口齧り驚いた顔をする。
「この世界の食べ物も美味しいわね。皆んなにも教えてあげなきゃ」
「皆んなってアンクルさんの領域に住んでる人達ですか?」
「いいえ、私の領域にはいないわ。いえ、一人だけ客人ならいたわね……」
アンクルさんはそう言った後、一瞬悲しそうな表情になるが、すぐに私を見つめて微笑む。
「サリエラ、あなたには期待してるわ。きっと彼を連れ戻せるって」
「頑張ります!」
私はそう言って真っ黒い空間へと足を踏み込んでいくと、遠くに明るい光りが見えてきたのでそっちへ歩いて行く。
しばらくすると、巨人が住めそうな宮殿の中に出てしまった。
「……ここは?」
「私の領域よ。それとサリエラ、私達にさんは意味がないから付けなくていいわよ」
「わ、わかりました、アンクル」
「ふふ、それじゃあ、皆んなを紹介するわ」
後ろを付いてきていたアンクルがそう言うと、柱の影から何人かが現れたのだが私は驚いてしまった。
何故なら、そのうちの一人はレクタルにいた不死の住人、クトゥンだったからだ。
その為、私はすぐに理解してしまう。
「……もしかして、ここにいる皆さんって不死の領域を治めてる領主ですか?」
「ええ、正式には各結界領域を守る半神ね。今回は全員に参加してもらうわ。言葉もこの領域なら統一されるしね。それとあの二人は何処にやったのかしら」
アンクルさんは本を重ねて人の姿をした執事の格好をした半神の方を向き声を掛ける。
すると、その半神は一冊の本を取り出し開くと、開いたページから声が出てきた。
「一人は本に興味を持って私の領域にいる。もう一人は興味深い構造をしていたから見ていた」
「オルトスの方は早く返してね。サリエラ、彼は不死の領域全体を管理するアルファレスタよ。良識はあるけどたまに暴走するの。グラドラスと同じような感じだと思って」
「はい、アルファレスタ、私はサリエラです。よろしくお願いします」
「ふむ、君もなかなか興味深いものを持っているが、これ以上はアンクルを怒らせてしまうからやめておこう……」
アルファレスタはそう言ってまた一冊の本を出して開くと、そこからオルトスさんが飛び出してきた。
「くそが!燃やすぞこの本野郎!」
「ふむ、脳の構造が不思議だな……」
怒り狂うオルトスさんを興味深そうに観察するアルファレスタを見て、私はグラドラスさんが重なって見えてしまい、苦笑する。
すると、今度は鳥の頭にステンドグラス模様の服を着た半神がオルトスさんに近寄っていった。
「やあ、オルトス、昨日ぶりかい?それとも一年振りかな?」
「ちっ、鳥野郎か……。なんでこいつもいるんだよ?」
オルトスさんはそう言ってアンクルを睨むと、アンクルは微笑みながら私を見る。
「ネルガンは彼を助ける為に必要なの。本当は私だって不本意よ」
「酷い嫌われようだな。くっくっく」
ネルガンと呼ばれた、歴史書にも書かれた悪名高き半神は笑いながら私に貴族がするような挨拶をしてきた。
「これはこれは、美しき姫君。私はネルガンと申します。良ければダンスを一曲いかがかな」
「結構です」
「くっくっく、即答か。面白い」
「ネルガン、あなたは下がってなさい」
アンクルが、私の前に立ちネルガンを手で払う仕草をすると、ネルガンは笑いながら下がっていった。
「ごめんなさいね。ネルガンは問題を起こすのを生きがいにしてるのよ。それを彼が監視してるのよ」
そう言うとアンクルは黒いモヤの塊にに目が沢山付いた半神を呼び寄せる。
その時、私は突然、目に違和感を感じたのだった。
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