不死の住人

「じゃあ、この世界は見捨てられたという事なのですか?」


 不安そうな表情をしたフランチェスカがそう聞くと、アンクルは首振った。


「いいえ、見捨てたわけじゃないわ。むしろ安定させる様に神々は奔走したわ。それこそ神々の歴史に書いてある以上の事をしたのよ。でも、中々、この世界を安定させることはできなかったの。けれど、あのカーミラの行動によってチャンスができたのよ」


「それは神アステリアを殺すという事ですの?」


「違うわ。アステリアを殺してしまったらこの世界がなくなるし、他の領域にも影響が出るかもしれない。だから、やるべき事はアステリアとの対話、もしくは封印よ……」


 アンクルはそう言うと、ソファの近くに立てかけてあるロメリア文明文字が刻まれた剣を引き寄せる。


「文字に力を与えるなんて面白いわね。でも、これのおかげで活路が見出せたのよ。グラドラス、あなたのおかげね」


「ふっ、この賢聖たる僕にかかればこんなものたいした事ないさ、と言いたいところだが、あの時に話しを聞いてなかったらここまでは考えてなかったよ」


「あなたには色々と曖昧な注文してしまって悪かったわね。もっと私に先をはっきりと視る力があれば良かったのだけれど……」


「十分だろう。おかげで僕はダンジョン内でも冷静でいられたんだからね。それで、これから僕達はどうすれば良いのかな?」


「皆んなが動く為にはまず、あの異質な加護を持つ者カーミラがアステリアのいる場所まで辿り着いてもらわないといけないの」


「そうすると魔女殿の邪魔をしちゃいけないって事になるね。まあ、今は彼が側にいるからおそらく邪魔するのは難しいだろうけど」


「大丈夫よ。あるタイミングで彼を元に戻すからね」


 アンクルがそう答えると、サリエラ達はあきらかにホッとした表情をするが、そんな中サジが難しい顔をした。


「……キリクさんを元に戻したとしても彼の身体はボロボロです。おそらく今回の事で更に悪化してますよ……」


「そこは考えがあるわ。……ただ、それには手伝ってもらいたい人がいるの」


 アンクルはそう言うとサリエラを真っ直ぐに見つめる。

 するとサリエラは勢いよく立ち上がりアンクルの側に駆け寄った。


「私に出来ることなら何でもします!だから、キリクさんを助けて下さい」


「……たとえ自分が死ぬかもしれないとしても?」


「はい!」


 サリエラが即座に答えると、アンクルは苦笑する。


「即答ね。でも、思う強さは繋がりを太くするわ。だから、その思う気持ちを忘れないで。それから……」


 アンクルはミナスティリア、ファルネリア、ミランダ、リリアナを見る。


「あなた達も手伝って欲しいわ。彼を思う気持ちは強いみたいだから」


「いいわ、ただサリエラよりも私の思う気持ちの方が強いんだから!」


 ミナスティリアは頬を膨らましアンクルを睨むと、ファルネリアが苦笑する。


「正妻には勝てないわよ」


「黙りなさい女狐!あなたは悔しくないの⁉︎」


「サリエラの気持ちの強さに気づいた私には側室で十分よ」


「じゃあ、私は愛人。ある意味正妻より上」


「リリアナが何言ってるかわからないけど、あたしはキリクの番だよ!」


「くっ、なら、私は最後まで戦うわ!」


 ミナスティリアは拳を掲げながら叫ぶと三人は拍手をするが、それを見ていたブリジットが呆れた顔で呟く。


「いつの間にかキリクはこんなにモテてんのよ。あいつ魅力の魔法でも使ってんのかしら?」


 ブリジットのそんな呟きを聞いていたサジは苦笑する。

 そんな騒いでる四人の方を目を閉じながら見ていたアンクルは急に首を傾げた。


「あら?もう一人強く、彼を思う者がいるみたいね……。誰か角が生えた子を知らないかしら?」


 アンクルがそう皆んなに聞くと、ミナスティリアがすぐに答える。


「マルーって子ね。その子も必要なの?」


「ええ、思いが強ければ強いほど、彼をこちら側に戻せる可能性が増えるわ」


「わかったわ。私がそれはなんとかする」


「ありがとう。お願いするわ」


 アンクルはそう言って微笑むと、グラドラスとオルトスを見る。


「さて、二人にもお願いしたい事があるわ」


「構わないけど僕から質問があるんだ」


「何かしら?」


「アンクル、君は不死の住人だよね。好き勝手生きてる不死の住人が何でここまでするの?この世界に何かあると君らの領域にも影響がでるのかな?」


「ええ、影響も何も、私達の領域が外の神々の領域とこの領域を切り離す結界の役割をしてるのよ」


「……それだと君達は結界の役割をする為に生まれてきたみたいじゃないか」


「ええ、あなたの言う通り、私達はその為に生まれてきたのよ」


 アンクルは淡々とした口調でそう言うとグラドラスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに納得した表情になった。


「なるほど、君達は神々の眷属みたいなものなのか」


「ちょっと違うけど、まあ半分正解ってとこね。私達は神々の負とされる部分で作られた存在なの」


「神々の負とされる部分……」


「ええ、人で言うところの欲望かしら」


「……欲望。それが神々にとっては負になるか」


「これはアステリアの所為でもあるのよ。彼女が暴走したのは欲望が原因だと言われているの。だから、今回の件に参加した何神かはその部分を取り除き、結界にしながらこの領域の内側に封じ込めたの。まあ、だから私達が好き勝手生きてるのはそういう理由があるのよ」


「なるほど、不死の住人の正体が神々の欲望とはね。それじゃあ、ああいう風に動くのはしょうがないか」


「それでも、皆んな仕事はちゃんとしてるのよ。まあ、ネルガンの所為で太古の神ヨトスを逃がしてしまったのだけれど……」


 そう言うとアンクルは少し怒った表情で膝の上に載せた両手を握りしめるのだった。


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