オリハルコン級の化け物

「相変わらず凄いわね」


 ミナスティリアはミランダの持っている宝具リヴィアスを見つめる。

 今回、修行をしに行く際に宝具回収も平行して行った為、何人かが宝具を持つ事ができたのだ。


「何言ってるのですか。ミナスティリア様が守って頂けなければわたくし達は水底の底に引きずりこまれて今頃、魔物達と一緒に神獣リヴィアスの餌ですわよ」


 フランチェスカがタワーシールドを軽々と背中に背負いながら言ってくると、リリアナも頷く。


「それに持たせちゃいけない奴に持たせた。毎日不安」


「酷いよーー!あたしこれでも勇者だよ⁉︎」


「前に変態が付く。変態勇者は危険な槍で全てを水に流す」


「本のタイトルみたいに言わないでよ!それより、皆んな大丈夫?」


 ミランダが周りを見ると、不滅の牙のリーダー、ガラットが手を振って歩いてきた。


「風の乙女とサリエラ、ノリスが魔族を見たと言って追いかけて行った。後は死者は出てないが怪我人がかなり出たな。だが助かったぜ二人とも」


「そう、良かったわ。しかし、巨人の右腕が裏切っていたなんて。お墨付きだから進軍に加えたのにね……」


「南側の冒険者ギルドはこれで信用を失ったな」


 ガラットの発言に集まってきた進軍メンバーは全員頷くが、そんな中、ファルネリアが難しい顔をしながら皆んなを見る。


「ところで巨人の右腕の連中はミランダの宝具で流されたの?誰か見た人いる?」


 ファルネリアがそう聞くと皆んな首を振ったり否定したりする。


「そういや、戦ってる途中にあいつら魔物に紛れて姿が消えたな……」


 ガラットがそう答えるとサジが手をあげる。


「私の勘違いかもしれないんですがいいですか?」


「サジ、何が見たの?」


「ええと、私の目の錯覚かもしれないですが、あそこの壁に穴が突然あいて彼らが入っていった気がするんですよね……」


 サジはそう言いながらも吸い込まれたとおぼしき壁を指差すと、ブリジットがその壁に向かって両手斧を振り上げる。


ガンッ!


「特に普通のダンジョンの壁だね」


「いや、もしかしたらあの虫野郎が絡んでるかもしれないぞ……」


「虫野郎?ネルガンが言っていた忌々しい神々の様な存在と言われているヨトスってやつかい?」


「ああ、あいつはダンジョンの壁を壊したり、穴を開けたり簡単にできるからな。巨人の右腕を逃がす道を作ったのかもしれないぞ」


「そうなると巨人の右腕が持っている魔核は無事ってことね……。ミランダ、あなたが感じたのは本当に魔核だったの?」


「うん、先輩に見せてもらった奴と全くおんなじだったよ」


「そうなると向こうじゃなくてこちら側が本命だったのね……」


 ミナスティリアは気づけなかった悔しさから唇を噛むが、すぐに辺りから嫌な気配を感じ叫んだ。


「敵が来るわよ!」


 ミナスティリアが叫んだと同時にダンジョンの壁に穴が空き、中から大量の虫系の魔物が飛び出してきた。


「ちっ、当たりみたいだな。だが、来るのは想定済みだ。おい、お前ら!」


 ガラットが叫ぶと不滅の牙の仲間達がポケットから薬品を出し辺りに投げる。

 すると、虫系の魔物は急に動きが鈍くなりだす。

 それを見たガラットは不敵な笑みを浮かべた。


「いいね。効いてる効いてる」


「ガラット、良いもの持ってんじゃない!」


 ブリジットが驚いた顔をガラットに向けるとガラットは自分の頭を軽く小突きニヤッと笑う。


「まあ、勉強したからな」


「これなら、楽にやれそうじゃない。もう皆んな疲弊してるからどっかで休ませないとね」


「……いえ、それはちょっと難しいかもしれないわ」


「えっ、ミナスティリア何言ってんのよ……」


「何かまた来るわ……」


 ミナスティリアはそう言ってダンジョンの奥を睨むと突然、怒声が鳴り響いた。


「グオオオォォォッーーー‼︎」


 その瞬間、進軍メンバーだけじゃなく虫系の魔物もビクッとなり動きが一瞬止まる。

 そんな静寂なダンジョン内をゆっくりと歩いてくるのは身体から生えた十の腕にそれぞれ武器を持った岩の巨人だった。

 その姿を見た瞬間、ガラットは驚愕した表情で呟いた。


「ヘカントケイルだ……」


「オリハルコン級の化け物じゃないか……。なんであの化け物がこの階層にいるんだよ……」


「わからないけど、今の私達の状態では出し惜しみできないわよ」


 ミナスティリアが渋い顔でレバンティンをヘカントケイルに向けると、ミランダも冷や汗を垂らしながらリヴィアスを構えた。


「先輩ばかりに良い格好はさせませんよ……」


「あら、若きディーアみたいに震えてない?」


「そちらこそボアみたいに鼻息荒くしてたら当たる攻撃も当たりませんよ」


「……言うわね」


「先輩こそ。それより、先生ってあれを一人で倒したって本当ですか?」


「ええ、だからあれを倒せば私もあの人に近づけるわ」


「二人でいってもですか?」


「しょうがないわよ。あの人は規格外だもの」


「はあっ、現役時代の先生を見たかったなあ」


「ふふふ、私いっぱい見ちゃったもん」


「なんか腹たちますねえ。じゃあ、先にあれを倒しちゃえば先に先生の隣りに立てたのはあたしって事になるね!」


「あっ、待ちなさい!」


 ミナスティリアはヘカントケイルに向かっていくミランダを慌てて追いかける。

 そんな二人をファルネリアが呆れたように見る。


「あなた達のフォローをするのは私達だって事を忘れないで欲しいわね……」


「……仕方ないよ。ああ言って自分達を鼓舞しないとあれには立ち向かえないからね。それにフォローすんのがあたいらの仕事さ」


 ファルネリアの愚痴にブリジットはそう答えると両手斧を構えて突っ込んでいく。

 そんな姿を見てファルネリアは苦笑しながら頷くと後を追うのだった。


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