禁忌

あれから、再び動き出した穢れた血縁者と魔王信者の後を追って、俺達は二十階層まで来ていた。

 二十階層はどうやらスパイダー系の魔物がいるみたいで、辺り一面に蜘蛛の巣や糸で絡みとった繭状のものがぶら下がっていた。

 すると、そんな光景をオルトスは不思議そうに見ながら聞いてくる。


「なあ、前から疑問に思ってたんだがよ。なんでこういう巣にある死体とかはダンジョンに吸収されねえんだろうな?」


「あっ、それあたしも思ってたわよ。だって絡みとってんのって冒険者や他の魔物の死体でしょ。普通、ダンジョンって一定時間になったら魔物も人も死体は吸収しちゃうでしょ。でも、こういうのはいつ来てもされないしね。どういう事なのかしら?」


 オルトスとメリダは巣にから待ってる繭状のものを見ながら考えるポーズをしていると、グラドラスが陰湿な笑いをしだした。


「くっくっく」


「なんだ、グラドラス……おめえはわかるってのか?」


「ああ、この賢聖たる僕がわからないわけないだろ」


「なら、教えろよ」


「ふう、仕方ないな。これはね、この場所で死んだ死体じゃないってことなのさ」


 グラドラスはドヤ顔でそう言った後に眼鏡をくいっと上げる。

 その行為にオルトスもメリダもイラッとした顔になるが続きを聞きたいが為に震えながらも黙っていた。

 すると、グラドラスは近くの糸に絡まったものを切り落とし、床に落ちた繭状のものを切り出す。


「ラッドだねえ」


「……賢聖様、その鼠の魔物が何なのよ?」


「これで元からあったものから切り離されたラッドは、しばらくするとダンジョンに吸収されるよ」


 グラドラスはそう言うとニヤリと笑って黙ってしまう。

 するとオルトスが遂に我慢できなくなったのかグラドラスに詰め寄った。


「はっ、おい、グラドラス!意味がわかんないから説明しやがれよ!」


 そんなオルトスにグラドラスは呆れた顔でお手上げのポーズをするだけだった。

 するとオルトスは俺の方に矛先を変えてきた。


「ちっ!キリクなら知ってんだろ!教えろよ」


「……やれやれ。オルトス、お前はスパイダー系の魔物が壁に巣を作ったり、獲物を糸で絡めて吊るしてる所を見たことあるか?」


「……そういや見たことねえな」


「大概はその場で食い散らかされてるだろう。要はこの巣も死体もこの壁と同じ扱いって事なんだよ」


 俺はそう言いながら石壁を叩く。

 するとメリダが手を上げて質問してきた。


「じゃあ、死体はどうなのよ」


「ああ、別の場所で死んだ死体を使ってるんだろ」


「でも、憶測よね?」


 メリダがまた質問してきたので俺は仕方なくグラドラスを見ると、ニヤッと笑って口を開いた。


「実際にガリウス調査団が調べたんだよね」


「ガリウス調査団?ああ、あれって本当に実在したの?だって資料も成果も出てないじゃない」


「僕が参加したから間違いない。ちなみに勇者アレスも参加したよ」


「えっ⁉︎」


 グラドラスに言われ、メリダは驚いて俺とグラドラスを交互に見る。

 するとグラドラスがニヤッとしながら説明しだした。


「資料も成果もないのはお願いというなの脅迫をされたからさ」


「脅迫?誰によ」


「聖霊神イシュタリア教会からね」


「はっ?なんで、聖霊神イシュタリア教会って……禁忌に触れるものがあったの?」


「微々たるものだけど辿っていくとそうなってしまう可能性があるからね。今回、話した事だってそうだよ。わざわざ魔王は怖がらせたいのかわからないけど、こんな飾りをしてくるんだからなかなか愛嬌があると思わないかい?魔王は忌むべき皆んなの敵じゃないといけないのにさ」


「……確かに。人によっては魔王ラビリンスなどに良いイメージを持ってる連中もいるわ。そんな連中に聖霊神イシュタリア教会は良しとしてなかった……」


「まあ、それで泣きつかれてしまってね」


 そう言うとグラドラスは眉間に皺を寄せる。

 おそらく、あの時の事を思い出してるんだろう。


 なんせグラドラスにとってはフィールドワークになっていたものを取り上げられたんだからな。

 まあ、俺もあれは少し酷いとは思ってるが。


 俺はあの日の事を思い出す。

 調査もある程度終えて、いったん調べた事をいざ本にしようとしたら、聖霊神イシュタリア教会の連中が血相を変えて駆け込んできたのだ。

 そして俺達が何を調べたかを知っていて本を書くのを中止しろと言ってきた。

 まあ、何で知っていたのかは調査団の中に聖霊神イシュタリア教会の連中が紛れ込んでいただけなんだが……。


 だが、当時はガリウスにグラドラス、そしてノリスは相当怒ったんだったな。


 だが、霊神イシュタリア教会の言い分を聞いているうちに納得せざるえなくなったのだ。


 まあ、おかげで魔王軍と戦っている間に何とか作った貴重な時間と、調べた労力が全て無駄になったんだが……。

 いや、知識や経験になったわけだから全てが無駄ではなかったか。


 俺はそんな事を思いながらグラドラスを見ると、手を叩いて聞いていた火竜の伊吹のメンバーにも聞こえるように喋りだした。


「というわけで、なるべく喋らない方がいいよ。暗い夜道に狙われちゃうからね」


 グラドラスがそう言うと既に話に興味を失って干し肉をかじっていたオルトス以外はしっかりと頷くのだった。


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