メリダの過去

「さすがは賢聖殿だ」


「まあ、たいしたことはないね」


 グラドラスはそう言うが、眼鏡をくいっと上げてドヤ顔をしてくる。

 そんなグラドラスにオルトスが声をかける。


「おい、眼鏡。こいつで飛んだ瞬間、トラップハウスって事はねえよな?」


「安心していいよ。アリスの操っている魔物も一緒に転移してるからね」


「ちっ、早く言えよ。で、今何処にいんだよ?」


「じゅううぅ階層でえす!」


「十階層かよ……。一気にそこまで行けちまうなんて裏道ってやつはクソみたいな仕様だな」


「けれど、十階層じゃまだまだだね。確かここのダンジョンは四十階層ぐらいはあるんだよね?」


「はああぁい!」


「なら三十階層で接触するのが良さそうだと思うんだけど、どうかな?」


 グラドラスがそう聞いてくるとすぐにメリダが答えた。


「あたしもそれに賛成。危ない橋は渡る気ないわよ」


 そう言ってメリダは俺の方を見てきたので俺は頷く。


「俺もその方がいい」


「じゃあ、決まりだね」


 グラドラスはそう言うとアリスを連れてさっさと転移魔法陣の上に乗り、何処かへと転移していった。

 するとそれを見ていたオルトスは舌打ちをして魔法陣を睨む。


「俺だけ別の場所に飛ばされねえだろうな……」


「そういえばお前は転移魔法が苦手だったんだよな」


「……べ、別に苦手じゃねよ。あんなの使わなくても自分の足で行きゃあいいんだ」


「だが、今回はそれじゃあダメなんだよ」


 俺はそう言ってオルトスの背中を叩くと、キッと睨まれた後、渋々、転移魔法陣に乗って転移していった。


 やれやれ。


 俺が次に転移魔法陣に乗ろうとするとメリダが呼びとめてきた。


「ねえ、キリクに聞きたい事があるの」


「……なんだ?」


「あんた、あの伝説の勇者アレス様のパーティーにいた二人と仲良いみたいだけど何者なのよ?」


「……前回の進軍に俺は違う形で関わってたんだ。それで仲良くなっただけだ」


「ふーん……。見た感じ長い付き合いって感じに見えるんだけどねえ」


「見えるだけだろ。俺はしがないただのゴールド級冒険者だ。変に詮索する時間があるならこれからの事を考えろよ」


 俺はそう言うと足早に転移魔法陣の上に乗る。


 やれやれ。

 少しあいつらと距離を離さないとな。


 そう思っていると転移が始まりだしたのだが、転移する瞬間にメリダの呟きが聞こえてしまった。


 絶対そうよ……と。



◇◇◇◇



 あれから俺は不自然に見えないようグラドラスとオルトスとの距離をとっていた。

 ちなみに二人もメリダの視線に気づいているのか俺に必要以上に接触してこなくなった。

 そんな微妙な雰囲気の中、外と変わらない様なダンジョン内を進んでいると、アリスが急に立ち止まり言ってきた。


「向こうがあぁぁ、魔族とおぉ、接触しましたああーー」


「むっ、魔族と?何をしている?」


「おしゃべりでええぇーーす!私ともおぉしまあすうう?」


「今はいいよ。しかし、残念だな。声は聞こえないんだよね?」


 グラドラスがアリスに聞くと大袈裟に何度も頷く。

 するとメリダが喋りだした。


「このダンジョンの魔族が接触したということはやはり通じていたという事?」


「まあ、このダンジョンの裏道を知ってるぐらいだから、通じてる魔族もいたろうね。けれど魔王ラビリンスと通じてるかはまだ決めつけない方がいいよ。アリス、今はどおしてる?」


「喋りいぃこんでますうぅーー」


「では、僕達は終わるまで休んでおこう」


「わかったわ」


 それから俺達は各々休憩を取り始めたのだが、メリダが何故か俺の横に座ってきた。


「隣り良いかしら」


「座ってから言われてもな……」


「ふふふ、そうね」


「で、さっきの続きか?」


「そんなに警戒しないでよ。ちょっと話しを聞いてほしかったのよ」


「話し?」


「あたしね、昔は西側の小さな町に住んでたんだけど、ある日、町に魔族が魔物を引き連れてきてその時に殺されそうになったのよ。けど、殺されそうになる直線アレス様に助けてもらってねえ。それでいつか恩返しをしたいと思ってたのよ。けれど、あの圧倒的な強さでしょ。それで必死に力をつけてやっと横に並べるって思った矢先に亡くなられたってね……。ショックだったわ。けど、ある日見ちゃったのよ。私が間近で見たアレス様の雰囲気に凄く似てる人をね」


 そう言ってメリダは俺を見つめてくるが、その目から間違いなく俺をアレスと確信しているようだった。


 勇者時代はフルプレート姿だったのに雰囲気でわかるものなのか?

 それならミナスティリアや特にミランダなんかがわかりそうな気がするんだが……。

 あの二人といたからそう思ってカマをかけてるのか?


「……あくまで似ているだけじゃないか?」


「いいえ、私には同じに見えるもの。まあ、かなり弱々しいし、なんかやばそうな穴みたいなのがあいてるけど……」


「真理の目か?」


「そこまで凄くはないわよ。少し魔力が見えるのよ。ほら、魔力って一人一人色や形が違うのよ」


「なるほど……。まあ、それでもそいつは違うと思うぞ」


「別に誰にも言わないわよ。その魔力を見ればわかるけど事情があるんでしょ。でも、いつかその事情を聞き出すからね。だって次はあたしの番だから」


 そう言うとメリダは仲間達の元に戻っていった。


 やれやれ。

 まさかルイと同じ力を持っているとはな。

 まあ、黙ってくれるなら問題はないだろう……。

 しかしメリダか。


 俺は昔、強くなって横に並ぶから待っててと泣きながら叫んできた少女を思いだした。


 ふっ、横に並ぶどころか遥か先に立ってるじゃないか。


 俺はかつての少女とメリダの姿を重ねて見つめるのだった。


________________

◆ 次の話が気になるという方は


是非、フォローと広告の下の方にある【★】星マークで評価をお願いします


よろしくお願いします

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る