蜥蜴の尻尾切り
現在、ベラルの村全体には霧がかかっている。
この霧を発生させたのは俺の隣りにいる眼鏡をかけた神経質そうな中年の男、グラドラスである。
グラドラスは南側の冒険者が穢れた血縁者と接触したと精霊から報告があった瞬間に霧が発生するミストの魔法を唱えたのだ。
おかげでサリエラが考えた計画は破綻してしまった。
俺は霧に覆われて何も見えなくなってしまったベラルを少し離れた物陰から見ながら、少し怒りを含ませながらグラドラスに質問する。
「それで、賢聖様はこの後、何をするつもりだ?」
「意味があるんだからそう怒るなよ。ここから更に魔法を使う。第七神層領域より我に水の力を与えたまえ……スリープ・クラウド!」
グラドラスは霧がかかったベラルに向かって魔法を唱えると、霧が濃くなり村全体が完全に見えなくなった。
「なるほど、村にいる連中を全員寝かせたのか」
「この方が手っ取り早く調べれるだろう。なので悪いね」
グラドラスはサリエラにニヤリと笑う。
正直、地面に頭を擦り付けて欲しいがサリエラは笑顔で答える。
「いえいえ、とんでもない。こんな凄い魔法を見せてもらえたんですからお礼を言いたいのはこちらですよ」
「ふっ、キリク、彼女は君と違って人ができてるようだな」
「ああ、だから余計な事は教えないで欲しいな」
「君はもっと頭を柔らかくしたらどうだい?発想の転換ってやつだよ」
「発想の転換ね……」
確かに俺の考えは硬いと自分でも思う。
だが、闇人を捕まえてメイドにするぶっ飛んだ発想をしてる奴に言われても何も響かないのだ。
その後、俺はひたすらグラドラスにああだこうだ言われたが、聞き流し続け南側の冒険者と穢れた血縁者がいる場所に向かった。
「これはどういう事だ?」
薄まった霧の中で横たわる南側の冒険者と穢れた血縁者は首から血を流して死んでいたのだ。
「周りに誰も倒れていないとなると、眠りの魔法を唱える前にやった感じではないね」
「耐性の魔導具を付けていたんじゃないか?」
「ふむ、ありえるね」
「二人共、何も持ってないですね……」
倒れた二人を調べたサリエラは残念そうに首を振る。
俺は気配を探るが全く感じない為、グラドラスを見ると同じく首を振った。
「魔力を使ってどうこうしたわけじゃないみたいだね」
「純粋に斬り殺して去ったのか。穢れた血縁者の中には暗殺者もいたからそいつらがやったのかもな。仕方ないから周りを調べてみよう」
それから俺達はまず近くの丸太小屋の中に入って中を調べることにしたのだが、中には明らかに村人じゃないガラの悪い連中が倒れており、しかも皆んな首を斬られて死んでいたのだ。
「どういう事だ?」
「おかしいですね。グラドラスさんの魔法がかかる前は皆んな生きていましたよ……」
「という事は僕の魔法で誰かが罠と気づいて素早く行動したわけか」
「とりあえず他も見てみよう」
そして他の場所を調べた結果、村にいた連中は全員、首を斬られて死んでいる事がわかった。
「やれやれだな」
「穢れた血縁者とわかるような証拠もありませんでしたね」
「使ってる武器もたいしたものじゃないし魔導具もなかったねえ。これは最初から南側の冒険者は捨て駒だったのかもね」
「なかなか頭を出さないな……」
「キリクさん、繋がりのある貴族の屋敷を調べてみますか?」
サリエラはそう聞いてくるが正直俺はすぐに頷く事ができなかった。
おそらく、ここまで用意周到なら同じはずだからだ。
それに後ろ盾が弱い今の俺達には貴族関係と関わるのはリスクが高い。
「いや、やめておこう。お貴族様と揉めるのは面倒だしな。戻って東側の冒険者ギルドに報告しよう。南側の冒険者ギルドは怪しいってな」
「わかりました。では迷宮都市ラビュントスに戻りましょう」
「全く時間の無駄だったよ……」
グラドラスはそう言って溜め息を吐くが、すぐに前方を睨み俺に声を掛けてきた。
「離れてるけど誰かこっちに向かって来るね。どうする?」
「隠れて様子をみよう」
そう言ってグラドラスは物陰に隠れたので俺達も仕方なく後を追う。
その後、俺達はグラドラスに気配を消す魔法をかけてもらい、物陰に隠れていると二人組のダークエルフが村に入ってきた。
そして、すぐに村に倒れている連中を見つけると警戒しだしたが、気配がないのがわかると舌打ちをして会話をしだした。
「何故、下っ端連中が死んでる?」
「冒険者ギルドに潜入させてる奴が来て死んでいるって事は誰かが尾行したのかもな」
「だが、結局、何も掴めないで帰ったって感じだろうな。ヒヒヒッ、バカな連中だぜ」
そう言ってダークエルフは笑いながら死体を蹴る。
すると、それを見ていたサリエラは怒った表情で飛び出そうとするが、俺はすぐにサリエラの肩を掴み気にするなと首を振る。
その後、しばらく様子を見てこれ以上は情報を得られないと判断した俺達は、捕まえて尋問する事にした。
早速、俺はグラドラスに指示しようと顔を向けるがそこには、奴はおらず、代わりに後ろから誰かに刃先を首筋に突きつけられてしまったのだった。
________________
◆ 次の話が気になるという方は
是非、フォローと広告の下の方にある【★】星マークで評価をお願いします
よろしくお願いします
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます