伝家の宝刀
するとワーグはハッとして焦った様子で音がした方へと走り出してしまう。
その為、俺達も後を付いていくと、廊下で数人の学生が一人の女学生を取り囲んでいる姿が見えたのだ。
「エリーシア‼︎」
ワーグは取り囲まれ頬を押さえている一人の赤毛の女学生の元に向かっていき肩を抱くと、囲んでいた学生の中心にいる人物を睨んだ。
「何をやっているのですか!バリー第二王子‼︎」
ワーグはそう叫びながら人を射殺さんばかりに睨むと、バリーを含む囲んでいた学生達は一瞬怯んだ様子を見せる。
しかし、すぐにバリーは怒りの形相を浮かべてワーグとエリーシアを睨んだ。
「うるさい!ワーグ宰相、あなたの娘がネイアを虐めてるんだ‼︎怒って当然でしょう‼︎」
「何を言ってるのですか!エリーシアがそんな事するわけないでしょう‼︎」
「なら、ネイアが嘘を吐いているというのか‼︎」
バリーはそう叫ぶと、隣りで寄り添うようにいた黒髪の女学生が涙目になりながらバリーの腕にしがみついた。
「バリー様、私が平民だからいけないんです……」
「ネイア、君は何も悪くない!」
「そうだそうだ!悪いのはネイアの私物を隠したりするその女が悪い」
「ああ、それにネイアを突き飛ばしたり水をかけたりってな」
周りにいる連中もネイアを擁護する様に言った後、エリーシアを睨んだ。
そんな光景を見ていた俺はここはチャンスと思い、サリエラに小声である事を伝えた後に輪の中に入る事にした。
「失礼、皆さん熱くなってるようだが、少し落ち着いたらどうです?」
俺は輪の中心に入りながらそう言うと、突然の乱入者にみんな一瞬、驚くがすぐにハッとすると俺を睨んできた。
「誰だお前は⁉︎」
バリーはそう言ってみんなの代表だと主張する様に一歩前に出て睨んできたので、俺は呆れた口調で答えた。
「なってませんね。人の名を聞く前にまず自分から名乗りませんか?ああ、入学したての平民の学生なら仕方ないか……」
俺はそう言って顔中真っ赤になったバリーに背中を向け、エリーシアに丁寧に挨拶をする。
「俺はレオスハルト王国から親善大使として来ましたキリクです。失礼ですが、あなたの名前を聞かせて頂いても?」
俺がそう聞くと、エリーシアは頬を押さえていた手を外し丁寧に挨拶をしてきた。
「丁寧なご挨拶をありがとうございます。私はワーグ公爵家のエリーシアと申します。この度は大変お見苦しいところをお見せ致しました」
「いえいえ、しかし、あなたの挨拶を見てまともな挨拶が出来る国だということはわかりました。要はできない愚か者もいるということですね」
俺がそう言った瞬間、バリーはいきなり後ろから殴りかかってきたが、俺はエリーシアの方を見ながらその手を掴み捻り上げる。
「ぎゃああ!離せ!俺はこの国の第二王子だぞ‼︎」
「なんだ、俺はてっきり挨拶を勉強する為にこの学院に来た馬鹿者だと思っていましたよ」
「ふざけるな!さっさと離せ‼︎」
バリーはそう叫ぶが、俺は無視しながらエリーシアに話しかける。
「ああ、そうそう。エリーシア公爵令嬢。質問ですが、周りにいる連中が言っている様な事をあなたはやったのですか?」
「神々に誓ってやっていません」
「わかりました。ちなみに真実の玉という魔導具はご存知ですか?」
「いいえ。でも、真実というぐらいですから嘘か本当かを調べる魔導具なのでしょうか?」
「仰る通りの機能がありますね」
俺はそう言ってバリーの手を離した後にネイアを見ると、顔がみるみる真っ青になり、他の学生の後ろに隠れながら周りに向かって騒ぎだした。
「みんな、そんなもの使わなくたって信じてくれるよね⁉︎」
「もちろんだよ!」
「ネイアは悪いことする子じゃないよ‼︎」
そして、痛む手を押さえながらも復活したバリーは俺を睨みながら叫んできた。
「ああ、ネイアは悪くない!それに他所者の言うことなんて聞く必要はない!ここは学院だから学院のやり方でやればいいんだ‼︎」
バリーはそう言うと周りにいた連中は拍手をし始め、ネイアは嬉しそうな表情でバリーの腕に抱きつく。
それを見た俺はワーグの方を見ると俯いてしまったので状況を察した。
なるほど、宰相の声もこの学院では他所者の声になるのか。
それに普通はこういう状況は教員や、観察官が隠れて見ているはずなのに周りにはいない。
おそらくこいつらみたいに威張りたい馬鹿達が排除してしまったのだろう。
あいつが言っていた事はこういう事だったんだな……。
まあ、だが俺にとっては好都合だったな。
俺はサリエラの方を向くとモノクルを付けたサリエラは首を振ったので、次の行動に移る事にした。
「やれやれ、学院のやり方でやるとか言って、平等も公平な考えもないんじゃ意味ないだろう。全く馬鹿な連中は何処までいっても馬鹿だな」
俺は口調を元に戻しながらそう言うと、周りにいた連中は驚いた顔をして俺を見てきた。
しかし、バリーだけは舌打ちした後に俺に指をさし睨んできた。
「今回の件は父上に報告するからな。なにせ貴様は他所者だから学院内では手に余る。きっと重い罰がくだるぞ」
バリーはニヤニヤ笑い、周りにいた学生達も同じような表情を浮かべる。
そんな彼らの表情を見た俺はニヤけ面を叩き潰す事にした。
「おいおい、そんな事を言ったらこの国はなくなるぞ」
「はっ、怖くてそんな事言ってるのだろう」
「はあ、聞いてなかったか?俺はレオスハルト王国の親善大使だ。その親善大使にお前は手をあげたんだぞ。外交問題だよ。なあワーグ殿」
「た、確かに……」
「ふざけんな‼︎先に愚弄したのは貴様だろうが‼︎」
「愚弄じゃなく本当の事だろう?それにお前の戯言をレオスハルト王国が聞くとでも?」
「み、みんなだって聞いていたぞ」
「ほお、証人にでもなると?東側最大の力を持つ大国を敵に回してもか?」
俺がそう言って周りを見るとみんな俯いて黙ってしまい、それを見たバリーは呆然とした顔になる。
「みんな嘘だろ?」
「井の中の蛙のお前と違って周りはまだ状況を理解できるらしいな。まあ、馬鹿なお前に教えてやるが、所詮、お前は小さい国の第二王子如きでしかないって事だよ。そして今現在、お前の馬鹿な行動によりロトワール王国は危機に瀕してるんだ。さあ、大国の親善大使に暴力を振るった事に対してお前はどう落とし前をつけるつもりだ?」
俺がそう言うと、バリーはやっと自分がしでかした事を理解したのか、顔がみるみる真っ青になりへたり込んでしまう。
しかもどうやら漏らしてしまったのか辺りには尿臭が漂っていた。
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