聖女の真実


 それを見た周りの学生達は怯え始めたが、俺は続けて喋りだす。


「まあ、どうするかはしばらく滞在しながら考えさせてもらうよ。ああ、ちなみにお前達は何時でもご両親に伝えてもらっていいぞ。まあ、一人でも話せば外交問題に発展するのは間違いないが……」


 俺がそう言った後、周りを見回すと学生達は顔を真っ青にしながら勢いよく首を横に振った。

 するといつの間にかネイアが輪から離れて逃げようとしたので、俺はネイアに聞こえる大きさで喋る。


「そうだ、エリーシアがネイアを虐めてたという話しだが、真実の玉を使う事を勧めるがみんなはどう思う?」


 俺がそう聞くと、先程までエリーシアを責めてた学生が答えた。


「素晴らしい考えだと思います!」


 更に他の学生達もこぞって頷き、それを見たエリーシアは嬉しそうな表情を浮かべ、ネイアは逆に絶望した表情を浮かべて座り込んでしまった。

 それを見た俺は最後に周りを見回す。


「いいか、学院内で解決したとしても最終的には学院外に響くんだぞ。今回の件、場合によってはワーグ宰相殿は決してお前達とお前達の家族を許さないだろう」


 俺がそう言うと学生達はワーグ宰相を見て怯えた表情を浮かべる。

 なんせ、国王の右腕でもある宰相を怒らせたら本来は終わりなのだ。

 それを学院にいて自分達で全て都合良く解決していくうちに自分達の方が偉いと勘違いしてしまったのだろう。

 まあ、普通はありえないが、学生達だけで解決させるやり方とあのネイアという女の所為で考え方が狂ってしまったのかもしれない。

 

 まあ、こんなものか。


 それから、俺は学生に色々と説教臭い話をしてやった後、ワーグ親子と一緒に学院を出たのだが外に出た瞬間、ワーグとエリーシアが勢いよく頭を下げてきた。


「キリク殿、本当にありがとうございます‼︎」


「キリク様、助けて頂きありがとうございました」


「まだ、エリーシア公爵令嬢が助かったわけではないでしょう」


「いえ、明日から観察官と教員を入れて真実の玉を使い、エリーシアの疑いを解いてみせますよ」


 ワーグはそう言うとエリーシアは笑顔を見せるが、すぐに申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「お父様、私はもうバリー様とは……」


「わかっている。今日中に婚約解消してくるから安心しておくれ」


「ありがとうございます、お父様!」


 エリーシアは満面の笑顔をワーグに向ける為、ワーグは顔をしわくちゃになる程、喜んでしまうが、そんなワーグを見た俺はいけるだろうと確信し声を掛けた。


「ワーグ殿、お聞きしたい事があります」


「はい、何でも言って下さい」


「聖女の件を教えてもらえないでしょうか」


 俺がそう言うと、ワーグは驚くが、すぐ腑に落ちた表情になった。


「……ふう、あなた方が来た理由はそれなんですね。わかりました。では、話せる場所へ移動しましょう」


 そう言ってワーグは自分の屋敷に招待してくれ、俺達を応接室に通すとすぐに話しだしてくれた。


「結論から言うとネイアというあの女が聖女と言われてます」


「……あれがですか?」


「はい、二カ月前にお忍びで遊びに出ていたバリー第二王子が足を切断するぐらい大きな事故に巻き込まれたんです。その時にたまたま近くにいたネイアが祈りを捧げ、血の後も傷跡もいっさい残らない状態で足をくっつけて見せたんですよ……」


「それは聖女しか使えない最上位の回復魔法パーフェクト・ヒールってやつですね」


「はい、だからこそみんな信じてしまいまして……」


「ちなみにそれ以降は何かしましたか?」


「いえ、力を酷使していたので当面できないと。そこで、弱っているあの女を守る為に情報を隠して、安全な学院の生徒として紛らわせたんです」


「そうしたら、男の取り巻きを作ってああなったと」


「お恥ずかしい限りです」


「もしかして、最初に会った時にあの説明をしようとしたんですか?」


「はい、それとエリーシアの力になって頂けないかと……。しかし、まさかあっという間に解決してしまって驚いていますよ。流石は親善大使ですね」


「まあ、権力を振りかざしただけで、あまり良いやり方ではないですけどね。ところであの女、ネイアの加護は調べましたか?」


「聖女とは言われました……。ただし、私達がもう一度調べさせて欲しいと言ったら、あの者の後ろについているブルドー男爵が調べさせてくれないのです」


「国王に命令はさせられないのですか?」


「……はい、国王やバリー第二王子は信じてかばわれてしまいましてね……」


「まあ、命の恩人ならそうなりますか」


「はい」


 ワーグは残念そうな表情を浮かべて俯く。

 そこで俺はサリエラに目配せをすると、サリエラが口を開いた。


「宰相様、もし、ネイアの加護を調べれたと言ったら聞きたいですか?」


「なんですと⁉︎」


 ワーグは驚いた顔をしながら立ち上がるが、すぐに咳払いした後、恥ずかしそうに座った。


「失礼ですがそんな事ができたのですか?」


「ええ、あの時にこのモノクル型の魔導具で見ました」


 そう言った後にサリエラはあの時いたネイア以外の学生達の加護を言った。

 するとワーグはすぐにエリーシアを呼び、聞いた結果、全て当たった事で驚愕の表情を浮かべた。


「まさか、レオスハルト王国にはそんな凄い魔導具があるのか……。そ、それでネイアの加護はなんですか⁉︎」


「幻術師です」

 

「幻術師?あの簡単な幻を見せる加護ですか……。まてよ、幻?まさか……」


 ワーグはハッとした表情になった後、考えこんでしまう。

 だから俺はワーグに答えを言うことにした。


「バリー第二王子の怪我も幻を見せたのでは?」


「しかし、幻術師の幻は一人にしか効きませんし、そこまで大きい事はできないはずでは?それに周りの数人の護衛もその状況を見ていたと証言もありますよ」


「まあ、幻術師は廃れ加護扱いですが、幻術にかかりやすい状態にしてしまえば、かなりの事もできるみたいですよ。それに証言した連中が嘘を吐いている可能性もありますからね」


「なるほど……。これはクリストフ第一王子に相談しなければ……」


「そのクリストフ第一王子は信用できるのですか?」


「はい、間違いなく」


 ワーグが自信たっぷりに答えるとエリーシアも頷きながら話す。


「キリク様、大丈夫ですわ。クリストフ第一王子は良識ある方でまともな方ですから」


「それなら、大丈夫ですね」


「よし、こうしてはいられない。私はすぐにクリストフ第一王子に報告してくる。キリク殿、申し訳ない」


「気にしないで下さい」


 俺がそう言うと、ワーグは慌てて屋敷から出ていったので、俺達もエリーシアに挨拶した後、宿へと戻ることにしたのだった。

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