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正直、その姿に多少の罪悪感を感じているとミナスティリアが口を尖らせ睨んできた。
「そうでもしないとまた無茶をする人が現れますからね」
そして口角を上げたのだ。俺は苦笑しながら肩をすくめる。
「安心しろ。当面は補給部隊を襲った賊のアジトを潰す手伝いをするだけだからな」
「ああ、あれね……。本当に腹立つわよね」
「確かに彼らがしたことには腹が立ちますね」
サジも同意するように頷くのでつい尋ねてしまう。
「何かあったのか?」
すると珍しくサジが怒った顔で答えてきたのだ。
「穢れた血縁者は孤児院から子供達を攫って人身売買をしているんですよ。一時期調べて追ったのですが情報を掴んでもすぐに蜥蜴の尻尾切りをされましてね……」
「用意周到な相手か。そうなると今回、冒険者ギルドは相当頑張ったわけだな」
「ええ、各国と冒険者ギルドがお金と人件費をかなり使って得たみたいです」
「……やり過ぎたから各国も本腰を入れて潰しに来たわけか」
「はい、それに最近は何処の国も腐敗を取り除きたいみたいです。何せ今までは大陸の敵は魔王でしたが、次は間違いなく腐敗した人や国になりますからね」
「強大な力を持った冒険者の刃先が自分の国に向いたら堪らないか……」
「前例がありますからね。それもやりすぎて国が滅ぶぐらい……」
サジは視線を向けてくる。正直いって心外だった。俺達はしっかりとフォローしていたからだ。連中の国が滅んだのは自滅である。
しかし、真面目なサジには言い訳にしか聞こえないだろう。説教くさいことを言われて終わるだけである。なのでエールを飲みながら気づかないふりをすることにした。
「……まあ、とにかく俺達はやれる範囲でやるだけだ。なあ……」
サリエラの方を見てすぐに口を閉じた。何故なら座りながら気持ち良さそうに寝ていたからだ。
色々あったし疲れが出たのだろう。俺はゆっくりと席を立つ。
「こいつがこんな感じだから、そろそろ帰るよ」
「その方が良さそうですね。うちも一人寝てしまったみたいですから」
サジは突っ伏したまま気持ち良さそうに寝ているファルネリアを見る。するとミナスティリアが俺に言ってきた。
「キリク、サリエラは私達と同じ部屋に泊まってるから背負って連れてきて」
「わかった」
俺は頷きサリエラを抱える。それからファルネリアを抱えたミナスティリアとサジと一緒に彼らが泊まっている宿に向かった。
向かったのだが着いて驚いてしまった。目の前に建つ宮殿の様な建物……勇者パーティーが泊まっている町一番の最高級宿だったからだ。何せ俺達の時はこんな良い宿は用意してくれなかったから。
まあ、けれどしょうがないかもしれないない。俺達は自由きままにやっていたから。
それにオルトスが宿代をしょっちゅうかすめては酒代に使ってたからな。
昔を思い出し溜め息を吐いているとミナスティリアが宿に入っていく。すぐに従業員が一斉に列を作り出迎えてくれた。さすがは高待遇である。だが、ちょうどいいとミナスティリアに顔を向けた。
「後は従業員にサリエラを頼んでいいか?」
何せ俺は宿泊客でないからだ。しかしミナスティリアは頷くどころか睨んできた。
「何を言ってるのよ。本来ならあなたも泊まる場所だったのよ!」
「そうですよ。なんなら、私は近くにある教会で寝ますからキリクさんが私の部屋を使ったらどうですか?」
「いや、気持ちだけ受け取っておく」
俺は首を横に振ると二人は諦め顔になる。
「わかったわ。まあ、とにかく部屋まではサリエラを運んであげて」
「わかった」
それから途中でサジと別れ、俺達はミナスティリア達が泊まってる部屋へと向かった。
「キリク、ここが私達が泊まってる部屋よ」
部屋の扉を開けて招いてきたので、仕方なくサリエラを抱えながら部屋へと入る。
「……ずいぶんと広いな」
「十人は住めそうだからキリクもこの部屋に泊まっても良いのよ?」
「流石にそれは不味いだろう。それよりサリエラを降ろすのを手伝ってくれないか?」
俺はキングサイズはあるであろう三つのベッドに近寄らずに声をかける。するとミナスティリアが怪訝な表情を浮かべた。
「ベッドに降ろせばいいじゃない」
「甘いな。それをやるとアダマンタイト級……いや、今はダマスカス級の強力な罠が発動するんだ」
「ん? よくわからないわ……」
「まあ、俺を助けると思って頼む」
「はあっ、仕方ないわねえ」
ミナスティリアは寝ているファルネリアをベッドに雑に投げ込むとこっちに来る。
しかし予想通りに剥がそうとすればする程、サリエラはくっついてきたのだ。
「な、なんなのかしらこれは……」
「言ったろう。強力な罠だ」
「強力な罠? もう、ただの酔っ払いがしがみ付いてるだけでしょう」
「剥がせるか?」
「無理矢理やると二人共怪我させそうだし……。くう、こういう手もあるのね……」
「何を言ってる? それより駄目そうか?」
「残念ながら……。で、こういう時はどうしてるのよ?」
「仕方ないから一緒に寝る。悪いがベッドを借りるぞ」
「な、なんですって⁉︎ キリクはそれでいいわけ⁉︎」
「まあ、酔ってるから仕方ないだろう……。それに俺達が何もしてない事をお前が証人になってくれればサリエラの名誉も守れるだろう」
「うう、そうだけどずるいわ……」
「俺だって悪いと思っている。だが、この圧倒的な力に今の俺は抵抗する事ができないんだ」
俺はそう言うとベッドに倒れこみ、さっさと寝ることにした。
しかし、それを見ていたミナスティリアは悔しそうな表情を浮かべる。
「まさか目の前で見せつけられるとは……こうなったら……」
ミナスティリアは不敵な笑みを浮かべる。しかし、眠気に襲われた俺はそのまま目を閉じてしまう。ただし、しばらくして目を開いたが。誰かがベッドに入って来るのがわかったからだ。
誰だ?
俺はゆっくりと視線をずらす。そして眠気が飛ぶほど驚いてしまった。目の前に下着姿のミナスティリアがいたからだった。
「……ミリィ、何をやってるんだ?」
「うーん、私酔っ払ってよくわからないわあ」
「さっきまでしっかり話してただろう……」
「ああ、よくわからないしなんか寒いわあ」
ミナスティリアはそんな事を言って俺に抱きついてくる。だからすぐにベッドから抜け出そうとしたのだが失敗してしまった。もちろんサリエラの所為である。
だから仕方なく会話で何とかすることにした。
「おい、離れろ」
「いやよ。私に風邪をひけというのかしら?」
「……お前酔っ払ってるんじゃないのか」
「ああ、急に酔いが回るう」
ミナスティリアは俺の胸に顔を押しつけてきた。その行動に俺の思考は追いつかない。ただし、この状況がとても不味いことだけはわかっていた。
何せ背中はサリエラ、前はミナスティリアに抱きつかれている。誰かに見られたらおそらく俺は色々と終わるだろう。
まあ、仮に俺はどうなっても構わない。だが、二人は駄目だ。
だからなんとしても抜けださなければ。
俺は決意を固めるとこの状況を抜け出そうと試みる。するとサリエラが後ろから首を甘噛みしてきたのだ。
「はむはむ、美味しいですよーー」
「おい、やめろ」
「んにゃあ」
「くっ、相変わらずなんの夢を見ているんだ……」
何とか身体を動かしサリエラから逃げようと試みる。すると今度はミナスティリアが俺の服をめくり頭を突っ込んできたのだ。
「おい、何やってるんだ!」
「私は酔っ払い、私は酔っ払い。負けられないのよ」
「何をわけのわからない事を言ってるんだ……」
何とかミナスティリアを引き剥がそうと身体に触れる。
「あん、そこはあ!」
「す、すまん!」
つい手を離すとミナスティリアは俺の服の中に身体まで突っ込んできた。
「えへへ、すっぽり」
「ミリィ、何やってんだ……」
「酔っちゃってるだけよ」
「……全く、こいつらは」
「キリクさあん。ぺろぺろ」
「負けないわ。ぺろぺろ」
「おい、舐めるな!」
俺は二人から逃れようと必死に動く。しかしオリハルコン級とダマスカス級に挟まれ、いっさい身動きが取れなかった。
くっ、ここまでか……
俺は遂に動くのを止め半ば諦めかけていると誰かがベッドに飛び乗ってきた。
「こらあ! あなた達は何やってるのよ⁉︎」
その声はファルネリアだった。しかも、こちらを睨んでいたのだ。正直、終わったと溜め息を吐いているとファルネリアが地団駄を踏む。
「くう、人が寝てる間に羨ましい……卑猥なことを! いま、助けるわよキリク!」
「ファルネリア、お前は理解しているんだな……」
「当たり前よ。どうせ、二人がキリクを襲ってるんでしょう」
俺はその言葉に感動しているとファルネリアが自分の胸を叩く。
「安心しなさい。私が二人を引き剥がしてやるわ! そしてその場所は私のもの!」
若干よくわからない事を言っているが最大の味方が出来たことで、この際その部分を気にしないことにし尋ねる。
「二人は力が強くて剥がれない……。どうするつもりだ?」
「力が駄目ならこれね」
ファルネリアはそう言うと俺の服の中に入り込んだミナスティリアの脇腹をくすぐり始めた。
「ひゃあははっ! 止めて、止めて、許してえっ!」
ミナスティリアはくすぐりに弱いらしく服の中で暴れ出しはじめる。そして俺の服を突き破って出てきた。
「ぷははっ! も、もう、駄目ええぇーー!」
直後、ファルネリアはミナスティリアの足を掴み思いっきり床に投げたのだ。
その際、ミナスティリアが付けていた下着が舞って俺の目の前に落ちる。だがすぐにファルネリアが踏みつけた。
「ふっ、まずは一人目……うふふ」
そう言うとファルネリアは今度はサリエラの脇をくすぐり始める。しかしいくらくすぐってもサリエラは反応しなかった。
「……なんて事なの。私のくすぐりが効かないなんて……」
「他に手はないのか?」
「オイルをキリクの身体中に塗りたくって滑らせるなんてどお?」
「却下だ」
「えーー、私が責任持って塗ってあげるのに……」
「それならサリエラの手に塗れば良いだけだろう」
「ちっ、気づかれたか。まあ、その案で行きましょうか」
ファルネリアはそう言うとベッドから飛び降り、床に倒れているミナスティリアを踏みつける。それから自分の荷物が置いてある場所に行きオイルを取ってきた。
「いくわよ」
ファルネリアは早速サリエラの手につけようと試みる。しかし、しばらくして首を横に振った。
「駄目ね。指の間にオイルが入り込む隙間がないわ。しかも何かが邪魔をしてる気がするのよね……」
「そうか、なら朝までこの状態でいるしかないか……」
「くっ、流石は正妻ね」
復活したミナスティリアが手で胸を隠しながら悔しそうに立ち上がる。そんなミナスティリアにファルネリアは声を掛ける。
「ミナスティリア、諦めて違うベッドに寝なさい。私はもう少し何か考えてみるから」
「わかったわ……なんて言うと思った? あなたどうせ私が寝たらキリクのベッドに入り込むんでしょう‼︎」
「ぎくっ、そ、そんなわけないでしょ……」
「やはりそうね。こうなったら正々堂々と勝負よ!」
「ふん、受けて立つわ!」
二人は顔を近づけ睨み合うとじゃんけんしだす。
「……で、なんでこうなるんだ?」
現在、俺の胸にファルネリアが顔を埋め、背中をサリエラが抱きつき、そして何故か足にミナスティリアが抱きついている状態になっていた。
「勝者は何をしても許されるのよ。クンクン」
「次は絶対勝つわ。すりすり」
「美味しい。はむはむ」
「駄目だこれは……」
遂に俺は諦めて考えるのをやめるのだった。
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