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ブリジットside.


 カーミラに飛ばされたあたいら白鷲の翼はあれから状況確認する暇もなく魔物と戦闘になっていた。


「飛んだ先に魔物の群れってなんなんだい!」


 あたいは次々に襲いかかってくるダイア・ウルフを斧で斬り裂いているとファルネリアが魔法でブラッド・ベアーを吹き飛ばした後に言ってくる。


「あの魔女は私達を最初から嵌める気だったのよ」

「何のために?」

「わからないわ。だから早く終わらせて獣人都市ジャルダンに戻らないと」


 ファルネリアがそう言うと側にいたサジが首を横に振った。


「それはちょっと無理そうですね……」


 そしてある方向を眺めたのだ。だから、あたいとファルネリアも同じ方向を見る。すぐに納得してしまった。


「……確かにあれはねえ」


 あたい大きく溜め息を吐いてしまった。遠くにダマスカス級で最強クラスのヘルギガースという鎧を着た巨人の魔物が一体、その他にミスリル級以上の魔物が大量にこちらに向かって来ていたからだ。

 サジが渋い顔をしながらこっちを向いてくる。


「流石にあれはまずいかもしれませんね……」

「まずくてもやらなきゃダメなんだよ」

「しかし、これだとすぐに獣人都市には……」


 サジが弱音を吐いていると偵察に行っていたミナスティリアが空から降りてきた。


「ただいま」

「おかえり。それでここは何処だった?」

「龍の森の近くね。ずいぶん遠くに飛ばされたわ」

「糞魔女め、次に見たら叩き斬ってやる」


 あたいが拳を固めているとファルネリアが頷いてくる。


「私も同意。けれど、まずはあれをやらないと。どうするミナスティリア?」

「……宝具を使うわ」

「良いのかい? まだ、何か来るかもしれないよ?」

「来たらファルネリアの短距離転移魔法で逃げましょう。わざわざ黒き魔女の相手をする必要ないわ」


 そう言いながらミナスティリアは眉間に皺を寄せレバンテインを見つめる。おそらく宝具解放の本来の力を出しきれないのが悔しいのだろう。

 今までは冗談程度にしか聞いていなかった。レバンテインの宝具解放はどの宝具より強力な力を見せていたから。

 けれどミナスティリアの言葉は本当だったのだ。それが理解できたのはスノール王国でのあの出来事だった。

 正直、異常過ぎである。勇者アレスがどれだけ凄かったのかあの日に改めてわからされたのだ。そんな事を思い出していたらミナスティリアが独り言の様に喋りだす。


「ねえ、どうしたらあんな力を引き出すことができるの? お願いだから教えてよ……」


 ミナスティリアはレバンテインを見つめ続けたがしばらくして溜め息を吐く。いつも通りに答えてくれなかったのだろう。

 意思があると言われる宝具が答えない。すなわちミナスティリアは宝具レバンテインに認められていないのだ。だが、ミナスティリアはいつも通りレバンテインを睨んだ。


「絶対に諦めないから」


 そして、向かってくるヘルギガースの方にレバンテインを掲げ叫んだのだ。


「宝具解放レバンテイン! 太陽よりも輝きしその剣先にて我が敵を滅ぼせ!」

 

 ミナスティリアが叫んだ直後レバンテインが輝きだす。だがスノール王国で見た輝きとは比べものにならないくらい暗かった。

 それを見たミナスティリアは苦笑する。

 

「また四つ目しか解除できなかったわ……」


 そう呟きながらレバンテインをヘルギガースに向け振り下ろす。直後、大きな光りの刃が大量にヘルギガースに飛んでいく。そしてヘルギガースや周りにいた魔物の群れを巻き込み斬り裂くと最終的には跡形もなく消し去ってしまったのだ。

 あたいは笑顔でミナスティリアの肩を叩く。


「今はそれで十分だよ。まあ、できれば素材とか魔石は残して欲しかったけどさ」


 あたいがニヤッと笑うとミナスティリアは苦笑する。


「ふふ、こればかりは仕方ないわよ。レバンテインの宝具解放は全ての敵を消す技だから」

「そうですよブリジットさん。命あってのものですからね」

「わかってるわよサジ。冗談が通じない男だねえ……」

「……絶対本気で言ってたでしょう」

「何か言った?」


 あたいはサジに腹パンしてやろうと詰め寄ると、ファルネリアが割って入ってきた。


「ほらほら、二人共じゃれあうのはやめて。それよりミナスティリア、これからどうする? 私の短距離転移魔法を何回かやって近くの町に向かう?」

「そうね、町に着いたら私だけひとまず獣人都市に……」


 話している最中ミナスティリアはレバンテインを構える。近くにカーミラが立っていたからだ。しかも魔物の大群がいた場所を残念そうに見つめていたのだ。


「あらあら、もう倒しちゃったのぉ? 流石は勇者様ねぇ。少しは大陸最強の勇者様の力を拝んでおきたかったのに」


 カーミラはそう言って顔を向けるとミナスティリアがレバンテインを構え直し口角を上げた。


「残念ね。もうちょっと早く来たら一緒に消してあげたのに」


 するとカーミラはしなをつくり怖がるふりをする。


「やーん怖いわぁ! 私争いに来たわけじゃないのよーー」


 そして祈る様な仕草をしたのだ。おかげであたいは頭にきてしまう。


「頭をかち割ってやる」


 しかし、一歩前に出た直後サジに羽交い締めにされてしまったのだ。


「やめて下さい」

「離せサジ! あんたも斬られたいの!」

「嫌ですよ。ただ、何か仕掛けてるかと思ってブリジットさんを止めただけです」

「……だったらさっさと言いな!」

「え、えー……」

「サジ、今のはナイス判断よ。ブリジット、忘れたの? 向こうは結界に転移魔法を使ってくるわ。警戒して」


 ファルネリアがそう言ってきたのであたいは渋々頷く。


「ちっ、わかったよ。しかし腹立つ魔女だよ……」

「うふふ、褒め言葉として受け取っておくわー」

「あの顔面にいつか拳をぶち込んでやる……」

「ブリジット、気持ちはわかるけど少し抑えて」


 ミナスティリアはそう言うと、カーミラに顔を向けた。


「争いにきたわけじゃないとは?」

「あら、私と話しする気になった?」

「……答えなさい」

「はいはい、あなた達って魔王バーランドが今何してるか知りたい?」

「……何が目的?」

「やあねぇ。私は好きな事してるだけよぉ。まあ、話を信じるかはあなた次第だけどぉ」

「……話しなさい」

「うふふ、素直じゃないわね。まあ、教えてあげる。東側の魔王、狡猾のバーランドは死霊術師と組んであいつらにある物を取りに行かせたの。何だと思う? ヒントはレクタルよ」


 カーミラの言葉にあたいらはレクタルの報告書を思い出しているとミナスティリアがすぐに答えた。


「ネクロスの書」

「正解!」

「それでネクロスの書がどうしたと……まさか、持ち帰ったと言うの⁉︎」

「今、魔王バーランドの元にネクロスの書がいってるはずよぉ」

「何ですって⁉︎」

「嘘だろ?」

「ありえないわ……」

「本当に実在したのですか……」


 カーミラの言葉にあたいら全員驚いてしまう。そんなあたいらにカーミラは笑みを浮かべ言ってくる。


「だからあ、早く行かないと東の魔王は門を開いたりー、不死の住人呼んじゃったりー、不死の魔王になっちゃう・か・もぉ……。ということで私ちゃんと伝えたからねぇ」


 そう言うと、あたいらが何か言う前にカーミラはあっという間に何処かへ転移してしまったのだ。



ミナスティリアside.


 カーミラの言葉に驚きのあまり反応できなかった。だが、しばらくして我に返るとお互い見つめ合った。


「……黒き魔女が言ってたこと本当だと思う?」


 ファルネリアがそう尋ねてくるとブリジットが肩をすくめる。


「そんなのあたいらで前線に行って確かめに行けば良いのよ」

「じゃあ、獣人都市ジャルダンの方はどうするのですか?」


 サジにそう言われ私達は悩んでしまった。

 もし、カーミラが言った言葉が本当ならネイダール大陸全体が危険に晒される可能性があるからだ。

 だから私はある提案を皆にしてみた。


「……私だけ獣人都市に向かうわ。だから皆は先にレオスハルト王国に戻って報告して。私は様子を見て大丈夫なら飛んで戻るから」


 するとファルネリアが納得した様子で頷いとくる。


「その方が良いかも。最悪まずい事になってたら魔導具を使って連絡してね」

「わかったわ」


 私が頷くと今度はブリジットが肩を回しながら声をかけてくる。


「じゃあ、あたいらちょっと疲れたから少しだけ休むよ」


 ブリジットはそう言ってファルネリアと一緒に近くの岩に歩き出す。しかし、サジだけは移動せず難しい顔をしていたのだ。

 正直、いつものことだったが私はサジに声をかける。


「サジも早く行った方が良いわよ」

「……ええ、そうします。ただ、少しお願いがあるんですが……」

「何?」

「もし、キリクさんが負傷か傷ついていたらこれを渡してもらえないでしょうか」


 サジはそう言うと上級回復薬を渡してきたのだ。私は思わず驚いてしまう。何せ上級回復薬なんて高価なものは私達でさえ滅多に使わないからだ。


「……ずいぶんとキリクに肩入れするわね」


 するとサジは苦笑しながら私に言ってきたのだ。


「あなたも実際、気になっているんじゃないですか?」


 私は内心ドキっとしてしまうが平静を装い答える。


「何を言ってるのかしら……」

「彼に会った時だけムキになってるじゃないですか。まるであの人と話してるような感じで……」

「は、はあ? な、何言ってるかわからないわね……」


 私は激しく動揺してしまうが努めて平静さを装っていると、サジはなぜか優しく微笑んできた。


「スノール王国で私は彼の治療をしていたのですが懐かしい感じがしたのですよ。まるであの人と話してるようで」

「……気の所為でしょう。彼は違うわ。だってキリクは黒髪に黒い目よ」

「色なんて魔法で変えれますよ。それにキリクさんは加護無しだそうです」

「えっ……」


 私は驚いてしまった。良くてミスリル級がせいぜいといわれる加護無しが、歴戦の猛者達と同じぐらいの雰囲気を出していたことを……

 私は動揺してしまう。するとサジが疑問を投げてきたのだ。


「それに色々とおかしくないですか? 不死の世界の言葉を話せるしブレド国王やオルトス様と知り合いなんですよ……」


 サジの言葉を聞き私はあることを思い出す。謁見の間での出来事とあの宝具解放の光りを。そして、もしもキリクがアレスだったらと。


「辻褄が合う……。でも、どうして? 何故死んだふりなんかを?」

「そればかりは本人に聞かないと……。でも、話してくれますかね……」

「無理よ……。自分の正体をずっと隠してきた人なのよ。それに絶対あの人って確証もないし……」

「オルトス様かブレド国王に聞くとか……」

「あの人達は絶対に言わないでしょう」

「なら、サリエラさんなら知ってるかもしれませんね。あの二人仲が良いですから」


 サジはそう言った後にハッとして口元を押さえようとした。しかし、その前に私はサジの胸ぐらを掴み微笑む。

 

「……そういえばサリエラはキリクとやけに仲が良かったわね。どういう関係なのかしら?」


 するとなぜかサジは震えあがってしまったのだ。そのあまりの怯えように私は首を傾げると、やっとサジは顔を真っ青にしながら答えてきた。


「は、早く獣人都市に行った方が良いです! キリクさんがピンチでミナスティリアさんが助けたら、何でも言う事を聞いてくれるかもしれないですから‼︎」

「……なんでも聞く?」

「はい! なんでもです」

「そう……。それじゃあ早く行かないといけないわね」

「ええ! 超特急で行くと良いですよ!」

「ふ、ふふふふ」


 私は思わず頬が緩んでしまう。しかし、すぐにハッとするとサジを見た。


「サジ、ちょっといい?」

「な、なんですか⁉︎」

「今日の私の格好って変じゃない? ほら、髪型とか?」

「変じゃないです!」

「そう? なら良かったわ。じゃあ、行ってくるわね」


 私は満面の笑みを浮かべ飛び上がる。それから全力で獣人都市ジャルダンに向かって飛んでいくのだった。



「……ふう」


 ミナスティリアが見えなくるとサジは一気に力が抜けてへたり込んでしまう。すると、いつまでも来ないサジを心配した二人が戻ってきた。


「サジ、大丈夫?」

「あんた顔色悪いけどどうしたんだい?」

「……い、いえ、何でもないですよ。ははは……」


 サジはそう答えると震えながら手を合わせる。そしてキリクの無事をひたすら祈るのだった。

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