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 俺は内心溜め息を吐く。情報を得られたとはいえ、厄介な相手と戦わなければいけないからだ。

 そんな厄介な相手……道化師に剣先を向けているとブレドとベアードが隣りに並ぶ。


「よくやったキリク。あの情報があれば対策を練れるぞ」

「ああ。だが、まずは奴を倒さないとな」

「わかっている」


 ブレドはそう言ってクラレンツを軽く叩く。要は宝具を解放する気なのだろう。するとベアードも理解したらしく頷いてきた。


「仕方ない。あの野郎は俺が倒したいが今回は王に譲ろう」

「助かるベアード。それとキリク、頼むぞ」


 ブレドの言葉に俺とベアードは無言で頷く。そして道化師に向かって走り出した。もちろん時間稼ぎと気を惹きつけるためだ。

 そんな俺達を見て道化師は嬉しそうに飛び跳ね、沢山のナイフを取り出す。


「うわーああわあーーい。わざわざ死ににきてくれてありがとおおーーごさいまああすう!」


 そして俺達に向かって投げてきたのだ。ベアードは飛んでくるナイフを剣で叩きつける。俺はその横でナイフを避けると回り込むようにして道化師に斬りかかった。


「どひゃあぁーー‼︎」


 しかし道化師は大袈裟に動き俺の攻撃を避けてしまう。しかも避けながら反撃してきたのだ。正直、その速さはワーロイの比ではなかった。

 だが、それでも俺は安心していた。ベアードがいたからだ。


「俺を忘れんなよ」


 ベアードは突進するように突き攻撃をしていく。すると分が悪くなったと感じたらしく道化師は距離を取る。そしてベアードを指差し叫んだ。


「あなた邪魔でーーす!」

「うっせんだよ! イカれ野郎‼︎」


 ベアードは怒鳴りながら道化師に斬りかかる。俺はその攻撃に合わせはじめると、徐々に攻撃を捌けなくなった道化師は慌てだした。


「ま、間に合わなーーいでえす‼︎」


 するとベアードが更に踏み込んでいく。


「王に任せるって言ったがやっぱり一撃ぶち込ませろやあ!」


 そして隙ができた道化師の脇腹を叩きつける様に斬りつけたのだ。


「いだああーーいいぃ‼︎」


 道化師は脇腹を押さえて苦しむ。そんな道化師の足に俺はナイフを投げて突き刺すと大きく距離をとった。

 ベアードがブレドの方を向く。するとブレドは持っていた剣、宝具クラレンツを掲げて叫んだ。


「クラレンツ宝具解放! 堕ちし者に聖なる救済を、迷いし者に光りの道を示せ‼︎」


 クラレンツの刀身が光り輝く。そしてブレドが振り下ろすと光の刃が動くことのできない道化師に向かって飛んでいく。そして胸に深々と突き刺さると辺り一面を光りが包み込んでいった。


「よし、やったぞ‼︎」

「流石は我が王だ」


 ブレドとベアードはハイタッチする。しかし、すぐに光りの中から声が聞こえてきた。


「ダメですよおおーー。最後のフィナーレがまだではありませんかああ」

「なっ⁉︎」


 ブレドは驚愕の表情を浮かべる。もちろん俺もベアードも驚いていた。まさか宝具の力に耐えるとは思わなかったからだ。

 そんな俺達の目の前で光が掻き消える。そしてボロボロの状態の道化師が現れたのだ。


「クラレンツの宝具開放で倒しきれなかっただと……」


 ブレドの呟きに道化師は満面の笑顔を見せる。


「危なかったですよおお、凄ーーく、痛かったです。指をナイフで斬った時の痛み程ではありませんけどねえぇ」

「いや、そりゃねえだろ……」


 ベアードが警戒しながら突っ込むと道化師は頭をかきながら頷いた。


「はい、嘘です。もうボロボロですよおお。だから、もう裏切り者は追わないです。ただし、私、魔王様直属の配下スペードのクラウン、ピエールわあ。自らの命を使ってえぇ、この城を壊しまあああああーーす! ぎゃはははははははははははは‼︎」


 道化師は大笑いをしながら、謁見の間の壁を破壊して外へと飛び出していってしまった。


「なっ、何処へ行く気だ⁉︎」

「わかんねえが嫌な予感しかしねえ」

「見てみるしかないな」


 俺達は道化師が開けた穴に駆け寄る。そして外を見たのだが顔を顰めてしまった。王都の城下町を破壊してまわる大量のドラゴンゾンビが目に飛び込んできたからだ。


「くそっ、なんてものを放ってるんだ! 呼び出した死霊術師達は絶対許さんぞ‼︎」


 ブレドは拳を握りしめそう呟くとベアードが肩を叩く。


「王よ、今は死霊術師達は冒険者や兵士に任せればいい。それよりも物騒なことを言いやがった道化師を探さないと」


 ベアードの言葉にブレドは頷き辺りを見回す。そんな二人に俺は声をかける。道化師を見つけたからだ。


「おい、いたぞ。二人とも上を見ろ」


 俺が指差す方をブレドとベアードが見る。そして怪訝な顔をする。道化師は城よりも更に高い位置に浮かんでるだけでなく両手を上に掲げていたからだ。


「……あれは何をする気だ?」

「この大きさの城を壊すと言っていた。大魔法しか思いつかない」

「それはまずいだろう……。今日はもうクラレンツの力は使えないのだぞ……」

「それに、あの距離は弓矢は届かねえ」

「通常の魔法もだ……」


 ブレドは悔しげに呟く。しかし、すぐに顔を上げた。強大な魔力を感じたからだ。もちろん道化師から。

 俺は道化師が両手を広げた先を見つめる。今は城を覆うほどの巨大な魔法陣が現れていた。


「……エクスプロージョンを唱えるつもりか」


 俺の言葉にブレドとベアードは目を見開く。


「キリク、こんな時に冗談はやめろよ……」

「いや、あの魔術紋様は間違いない」


 俺が真面目に答えるとブレドは近くの壁を叩く。


「もう、手はないのか⁉︎」

「……あるにはある」


 そう答えるとブレドはハッとして俺の方に顔を向けた。


「まさかお前……」

「ああ。仕方ないから俺がやる」

「だが、またお前の身体への負担が……」

「やるしか手はないだろう」


 俺はそう答えながら溜め息を吐く。まさか、この謁見の間で霊薬を使うとは思わなかったからだ。

 俺は霊薬を取り出し眺める。


 きっとまだ身体はもつだろうが……


 マルーとそしてザンダーを思い出してしまう。もしかしたら副作用で間に合わないかもしれないからだ。

 だから俺はブレドに顔を向けた。


「もし、俺に何かあったら代わりに誰かをマルー救出に向かわせろ」

「もちろん、わかってる」


 ブレドは力強く頷く。そんなブレドを見て俺は呆れてしまう。自分で行く気だと理解したからだ。


「やれやれ。これじゃあ任せられないな」


 そう呟くと俺は早めに目が覚めれるよう祈りながら霊薬を飲むのだった。



ブリジットside.


 あたいは次から次へと出てくる死霊系の魔物にうんざりしていた。


 くそっ、死霊術師がどっかで召喚しまくってやがるな……。これじゃあ、体力が保たないよ!


 そう思いながら側で喋れないほど荒い息をしながら戦っているミナスティリアを見る。この戦いで疲れているわけじゃない。ザンダーから受けたダメージが相当効いているのだ。

 かくいう、あたいもミナスティリアと一緒に後衛をかばうのに何発かもろに喰らっているため本調子じゃない。


 そんな状態で死霊術師供の相手なんて無茶にも程があるよ!


 あたいは心の中でザンダー達を罵倒していると、ミナスティリアがふらつくのが見えた。


「ミナスティリア! サジ、回復をもう一度あの子にかけてやっておくれ!」

「回復はもうしましたよ。おそらく体力じゃなくて魔力切れかと思いますね。何せ丸腰の状態でザンダーや魔族達の攻撃を魔力のみで防いだんですから……」

「ちっ。ファルネリア、死霊術師は後どれくらいいんの?」

「いっぱいね……。しかも、ドラゴンゾンビやタナクスナイトに隠れてるから狙いにくいのよ」

「でも、あいつらからやらないと次から次へと魔物を召喚されちまう……」


 その時、隣りで戦っていたミナスティリアがついに膝をついてしまった。


「ミナスティリア! くそっ、いったん冒険者ギルドまで下がるよ!」


 あたいはミナスティリアを抱え結界が張られているはずの冒険者ギルドの方に向かう。しかし、冒険者ギルドが見えた時に驚いてしまった。

 張られてるはずの結界が張られておらず、冒険者ギルドの中まで魔物が侵入していたから。


「どうして冒険者ギルドに結界が張られてないんだよ⁉︎ まさかザンダーの野郎はここまでするのかよ!」


 あたいは叫びながら、近くにいたタナクスナイトを怒りを込めて殴りつける。これだとミナスティリアを休ませてやれないからだ。

 あたいらは目の前の光景を見て落胆していると、ミナスティリアがまた武器を構えた。


「わ、私ならもう大丈夫よ……。さあ、やりましょう」


 ミナスティリアはそう言うと魔物達と再び戦いはじめた。だが全く回復していないためすぐにふらつき持っていた宝具レバンテインを落としてしまう。


「ミナスティリア!」


 あたいは慌てて駆け寄る。すると落ちていたレバンテインが突然、浮かび上がり周りの魔物を斬り裂いてしまったのだ。

 その光景にあたいらは驚いていると、更にミナスティリアの着ていたアレスタスの鎧が形を変えレバンテインの方に飛んでいく。そして鎧の形をした鞘に変わり二つの宝具は一つになってしまったのだ。


「な、何が起きてるんだい?」


 あたいの呟きにサジが首を傾げながらも答えてくる。


「わかりませんが、あの宝具に助けられた事は確かです。やはり勇者しか装備できない宝具は凄いですね。まるで意志を持ってるように見えますよ」

「サジに同意ね。でも、なんでアレスタスの鎧はミナスティリアから外れたのかしら? 興味深いわね」


 ファルネリアが宝具に近寄ろうとしたのであたいは手で制す。


「ファルネリア、今は悪い癖はひっこめな。それよりも大丈夫なのミナスティリア?」

「……ええ」


 ミナスティリアは心ここにあらずという様子で、浮いている二つの宝具を見る。


「なんで私から離れたの? まさか、私から離れていくつもり? そんなの嫌よ……。二つともあの人が私にくれた大切なものなのよ。お願い、もう私から大切なものを奪わないで‼︎」


 ミナスティリアは最後の方は叫ぶようにして二つの宝具に手を伸ばす。

 しかしミナスティリアの指が触れるか触れないかのところで二つの宝具は城の方へと飛び去っていった。


「だ、駄目よ! 行かないで‼︎」


 泣きそうな顔で追おうとするミナスティリアをあたいは羽交い締めにする。


「ミナスティリア、少し休むよ」

「嫌よ! アレスにもらった大切なものなの‼︎」

「城に飛んでったんだから大丈夫よ。後で一緒に取りにいってあげるから!」

「でも! でも!」

「あんた、勇者だろ! しゃきっとしな!」

「……う、う、うわあーーーん‼︎」


 思わず一喝するとミナスティリアは遂に泣き出してしまう。そんな姿を見たサジはオロオロしだしファルネリアはジト目であたいを見てきた。

 あたいはそんな状況に頭をかきながら苦笑する。


 全く、アレスさん関連になるとこの子はおかしくなんだよね……。しかし、宝具がもし城になかったらどうしよう……

 この子、おかしくなっちゃうんじゃないの?

 はあ、最悪ブレドさんに相談して、アレスさんの持ち物を何か持ってないか聞いてみるか……


 あたいはそう考えながら泣いてるミナスティリアの頭を撫でるのだった。



 やれやれ、西側に行くまで霊薬は飲まないと思っていたんだが。


 俺は空に浮かぶ道化師を見ながら溜め息を吐いていると、身体全体に絡みついていた不快な北の魔王の呪いが抑え込まれていくのを感じた。

 霊薬が効いてきたらしい。俺は道化師を見て頷く。


 これならいけるが大技を使った後の反動が怖いな。はたして俺の身体が耐えられるかどうか……


 そう思いながら俺は身体中に流れこんでくる膨大な力や魔力を確認していると、あるものがこちらに向かってくるのが見えた。

 俺は思わず口を開く。


「レバンテインとアレスタスの鎧……」


 すると、二つの宝具は俺の声に反応するかのように速度が上がる。そして俺の目の前で止まったのだ。

 直後、ブレドは理解した表情で頷く。しかしベアードはただただ驚いた表情を浮かべ俺を見た。


「……キリク、お前はいったい何者なんだ?」


 ベアードは疑問を投げてくる。だから、俺は腕にはめた腕輪を見せた。


「俺はシルバー級冒険者のキリクだ」


 そう言うと、目の前に浮かぶ宝具をなぞるように触れるのだった。

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