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「……キリクさん、今回は色々と活躍されたそうで。私の依頼とも関係があったので助かりました」
サリエラが来るなりそう言って頭を下げてくる。もちろん察している俺は首を横に振った。
「気にするな。レオスハルト王国から依頼を受けなくても死霊術師関連は冒険者としては対応しなければならないからな。で、奴らが本格的に動いてきた理由なんだかもうそちらでは把握しているのか?」
「そ、それは極秘情報なので……」
「ふむ。王国の依頼じゃそうなるか」
考えてみたら当たり前かと俺は素直に諦め他の冒険者達の様子を見ようとその場を離れようとする。茶髪を後ろで結った女騎士がフォンズを伴い「話しても良いわよ」と俺達の側に来るなりそう言ってきたことで足を止めるが。むろん「大丈夫なのか?」と言うため。何せ、今回の件は俺みたいな者に話す内容ではないからだ。
ランクが低くそもそも聞いたところで何もできない、足手纏い、更に信用が薄い低ランク冒険者ならなと思っているとサリエラも当然のごとく「リミア騎士団長、極秘情報ですが大丈夫なのですか?」と。
まあ、「ええ、大丈夫よ。だって彼はアジトを突き止めるきっかけを作った功労者だから」と女騎士団長……リミアに許可を得たサリエラはこちらに向き直り、すぐに説明してきたが。
「わかりました。ではキリクさん。死霊術師がここまで大きく動いた理由を説明します。簡単に言ってしまうと前線にいた冒険者達が東側の魔王バーランドを追い詰めたからなんです。それでバーランドは前線の動きを弱めるため、死霊術師達を使って後ろから崩そうとしているみたいなんですよ」
ただし、おおかた考えていた通りのことを言ってきた為、めぼしい情報は得られなかったが。ある部分を除いてはと俺は口を開く。
「なるほど。最近前線の話がこちらに来なかったのは討伐失敗という情報が広まらないようにするためか」
わかりやすいほどサリエラはバツが悪そうな表情を浮かべる。
「はい……。なので黙っていて下さいね」
もちろん俺は頷いた。内心では前線で戦っている勇者パーティーに心底同情していたが。何せ勇者という称号は称賛されるだけじゃなく妬まれたり叩かれたりもするから。特にやらかした場合は世間や腐った連中がこれでもかというほど。
要は非常にストレスが溜まる立場なのだ。
まあ、俺達の時は憂さ晴らしも含めてやり返していたがな。
ただ、今の勇者は違うだろうと今頃は後ろで踏ん反り返っている連中にネチネチ言われてる姿を想像する。すぐにサリエラに顔を向けたが。少し気になることがあったから。
「それはわかったが死霊術師がただ魔王バーランドの言う事を聞くとは思えないんだが」と言うとサリエラが勢いよく頷いてくる。
「そうなんですよ。だからこそ私が死霊術師の真の目的を調べるためにこのレオスハルト王国から直接依頼を受けていたんです」
「なるほど。それで死霊術師の目的はわかったのか?」
「ネクロノスの書です」
直後、俺は思わず腕を組み眉間に皺を寄せてしまう。
ネクロノスの書。不死の領域にあると言われる死に関しての全てが書き記されたといわれる本。そして俺が聞きたくない言葉の一つだったから。
まあ、すぐに疑問の方が優ってしまったのだが。どうやってネクロノスの書を取ってくるのだろうかと。何せ不死の領域に行くにはこちらと向こうを繋げる門を呼び出さないといけない。それをする方法は知っている者はおそらくこちら側にいないはずだからと、そう思っていたがすぐにあることが思い浮かぶ。
魔王バーランドが知っていて連中に教えたのならと。
もちろん憶測なんだがと思うのだが一番腑に落ちる考えでもあるのだ。何せ奴は魔王の中で一番知識があり、頭が回ると言われている……いや、狡猾だから。
ただそうなると最悪な展開も想定できてしまうんだが。
もし不死の領域に住む住人が門に興味をもち、潜ってこちらの世界に顕現してしまったらと。
そう考えていたらふと俺は勇者時代を思い出してしまう。理由は不明だが不死の領域に住んでいる住人、ネルガンという名の領主が北側にあるフローズ王国領に突然顕現してしまいフローズ王国の王都が異形の地になってしまったことを。そしてネルガンは王都に住んでいた人々を異形の生き物に次々変えていき、同じ領にある町などに進軍しようとしたことを。
あの時は、北側の地にいる戦える者達が全員集結しなんとか勝つことができたんだったな。
おかげで沢山の犠牲者も出てしまったがなんとかネルガンを不死の領域に追い払うことができたのである。
ただ、俺達勇者パーティーも死にかけた挙句一時不死の領域に落とされてしまったが。
いや、そのおかげで知ることもできたか。
異形のものになると不死の領域の住人になり、こちらで殺しても不死の領域ですぐに復活するという事を。それは残念ながらやっとの事で倒したはずの領主であるネルガンも同じく。
まあ、ただし今は奴より死霊術師が崇める領主の方だろう。何せ奴らが馬鹿なことをしてタナクスが顕現なんてしてまったら……。いや、奴じゃなくても領域にいる死霊系の魔物がこちら側に溢れ出したって十分に脅威、つまり今回のレクタルの比じゃないからな。
「やれやれ、厄介だな」
「ええ。なので今回はアジトを潰すだけじゃなく、情報を聞き出すために死霊術師を生きたまま捕まえるのも含まれているんですよ」
「なるほど。ネクロスの書をどうやって入手するか聞き出すつもりと」
「はい。本当は後一歩のところだったのですよ。ただ、レクタルであんな事になってしまって……」
サリエラは俯くとリミアが優しく彼女の肩に手を置く。
「あれは仕方ないわよ。貴女に依頼を出す前から計画されていたのだし」
「リミア騎士団長……」
「それにね、依頼をした冒険者達の誰よりも多く情報を手に入れてくれたのよ。貴女もまた立派な功労者よ。ね、フォンズ」
「もちろんです」
「だからまた期待してるわ。そういうことでフォンズ」
「はっ! よし、出発するぞ!」
フォンズの号令と共に騎士団、冒険者達が動き出す。ただし俺、オルトス、サリエラ、リミア、そして騎士の二人を残して。
「まさか……」
リミアを見ると口角を上げる。
「フォンズ達には下っ端のアジトを一掃してもらい、私達は幹部の死霊術師がいる場所に直行よ」
「この人数でか?」
「ええ、私とサリエラとオルトスだけで問題ないから。ああ、私もアダマンタイト級の実力はあるのよって……そういえば貴方には自己紹介が遅れたわね。私は白狼騎士団の団長リミア。どう呼んでもらって良いから」
「そうか。で、俺は何をする?」
「ランク的に前に出過ぎなければ自由に」
「わかった」
俺は頷くと既にオルトスが乗っていた馬車に飛び乗る。すぐに口を開いたが。
「おい、なぜ俺を呼んだ?」
オルトスはニヤついた表情を向けてくる。
「忘れちまったのか? 酒代をお前にも稼がせてやろうと思ってなと言ったじゃんかよ。まあ、楽にって言葉を付け足すのは忘れちまったが」
「ふん、本当はもっとまともな理由だろう」
しかし、オルトスは肩をすくめるだけで答えてくることはなかった。まあ、俺もそれ以上は追求する気はなかったが。
後、楽に稼げるといっても感謝する気も。
なぜなら腐敗臭と共に古い遺跡と辺りを徘徊している大量のゾンビ……俺達の敵にすらならない相手が見えてきた際、「ゾンビは部下二人に任せて、私達は幹部連中を捕まえにいくわよ!」とリミアが馬から飛び降り、遺跡に一人で突っ走っていってしまったから。やはり不安を感じたのである。サリエラとリミアの実力を。
それとオルトスがどれくらい鈍っているかもか……
そう思っているとオルトスの呆れた声が聞こえてくる。
「おい、あの騎士の嬢ちゃん本当に団長かよ?」
「はは……。一人で突っ走ってしまうらしくて、フォンズさんがいつも困ってるみたいなんです。どうします?」
「愚問だな。エルフの嬢ちゃん行くぜ」
「はい!」
結局、オルトスとサリエラも同じ感じでリミアを追っていく。
まあ、俺はもちろん動かなかったが。騎士二人がこちらに行かないのかという表情を向けてきても。何せあの三人に付いていくのは無理だから。それに自由にやって良いと言われてからだ。
「だからゆっくり行くさ」
俺はそう呟くと馬車から飛び降り、三人が入っていった遺跡を見る。なんだかんだ言っても結局のところは出番なんてないだろうと思いながら。
「そして、その考えは当たっていたと……」
遺跡に入るとゾンビやスケルトンなどの死霊系の魔物が辺り一面、足の踏み場もないほどに散らばっていたから。
「ただしやり過ぎなんだが」と、俺は顔を顰めながら骨や肉片を避けながら通路を進んでいく。しばらくして悪趣味な壁画がある広間に到着すると足を止めたが。もちろん辺りに転がるグールとヘルハウンドという大型で獰猛な犬の魔物の肉片を見てしまったのもあるが気になることもあったから。
部屋の配置が微妙に不自然と。きっと何かあると長年の感が。「まあ、そうは言っても目視ではわからないのではあるんだが」と、俺は収集鞄から持っている物の中で一番高価な魔導具ペンデュラムを取り出す。要は感ではなく確実にこれで違和感を探すことにしたのだ。
これなら目に見えないものを探せるからと早速、魔石を近づける。そして魔石が砕け、ペンデュラムの宝石の部分が淡く光りだすとすぐに頭の中で簡単な質問を。この部屋に隠し通常はあるかと。
するとペンデュラムは肯定をしめす右に回りはじめる。
「そうなると後は」
俺は続けて魔石を使用しながら質問を場所を絞り込んでいく。床下に隠し部屋を発見するとすぐさま武器を構え慎重に降りていったのだ。
ただ、誰もいないことを確認すると武器をしまい辺りを確認したが。いや、さっさと部屋にある沢山の書物や紙束を全てを収納鞄に入れ後にする。何せ死霊術師達の手紙のやり取りも見つかったので早めにリミアに報告した方が良いと感じたから。
ただし肝心のリミア達がどこまで先に行ってしまったのやら。
そう思いながら俺は走り続ける。しばらくして彼女の声が聞こえ安堵したが。やっと追いついたと。
「さあ、あなたが最後の一人よ。何が目的か言いなさい!」
しかも、どうらや一番奥の部屋で死霊術師の最後の一人を追い詰めていたところだったらしい。ただリミアが剣を向けていても死霊術師は不敵に笑っていたが。
「くくく。貴様らに教えることは何もない」
「なら、力ずくで聞かせてもらうわ」
「ふん、絶対に話さんよ。何せもう私はいなくなるのだからな」
「まさか!?」
「そのまさかだよ。不死領域より我に死の力を与えたまえ……サモン・タナクスナイト!」
更に黒く禍々しい短剣を自らの胸に突き刺すとすぐに死霊術師の身体が破裂し、中から六本の腕に剣を持った大型の黒いスケルトン、タナクスナイトが現れたのだ。
ちなみにタナクスナイトはアダマンタイト級の魔物である。まあ、それでも三人の相手ではないだろうがと俺はサポートにまわる。側に行こうとしたらサリエラとリミアに止められてしまったが。
「アイアン級じゃ無理ですよ!」
「そうよ。流石にあれと戦いながら貴方を守るのは無理だから下がってて!」
「……わかった」と俺はオルトスの向けてくる不愉快なニヤニヤ顔に気づかないフリをしながら部屋の隅まで移動する。いや、心の中でオルトスが痛い目をみるように祈りながら。
「これで終わりだぜ」
残念ながら怪我をすることなくタナクスナイトは倒されてしまったが。
「いやあ、連戦して疲れたからかずいぶんと時間がかかっちまったぜ。待たせて悪かったなあキリクさんよ」
「ふん、悪いと思うならもっと死ぬ気で戦えよ。そうすれば……ああ、酒浸り生活でなまってるからだったな。悪かった悪かった」
「うるせえな。本当は手え抜いて本気出してないだけだ」
「ほお、なぜだ?」
「騎士の嬢ちゃんが死霊術師を捕まえるって言ってたからなあ。まあ、魔物になっちまったからあれなんだが。で、騎士の嬢ちゃんどうするよ?」
「うーん、どうしようかしら……」
「この感じだとフォンズのとこも情報を得られねえだろな」
そう言いながらオルトスが視線を向けてくる。むろん、俺は気づかないフリをしながら収納鞄に手を突っ込んだ。
「さっき通った広間の隠し部屋から見つけた。急いで持ってきたから中は確認してないが」
「えっ、それはすごい収穫じゃないの! 早速読んでみましょう……って、これはまずいわね」
リミアの顔色があきらかに悪くなる。まあ、なんとなく予想できていたがと、それでも一応尋ねてみる。
「何が書かれている?」
「死霊術師達はレクタルで不死の領域へ繋がる門を開こうとしてるみたい。しかも、決行は今日で門を開くのに材料が今朝方、東側の魔王軍の駐屯地から運ばれたって」
「それじゃあ、急いだ方がいいな」とオルトスが視線を再び向けてくる。むろん知ってしまった以上、仕方ないと俺は頷く。ただし、懸念していることは口にしたが。「急ぐのは良いがあそこは今、死霊術師にとって楽園だから大変だぞ」と。
すると会話を聞いていたサリエラが首を傾げてきた。
「楽園ってどういう事です?」
「今のレクタルは死霊系の魔物を大量に呼び出せる死体がまだ山程あるってことだ」
「あっ、そうなると魔物の巣窟に……」
俺が頷くとサリエラは絶句した表情に。ただ、側で腕を組み考え事をしていたリミアが何か案を思いついたのか手を打ってきたが。
「それなら、三人は馬車でレクタルにそのまま向かって。私は王都レオスハルトに戻って国王様に報告と強力な助っ人を呼ぶから」
「強力な助っ人をですか?」
サリエラが尋ねるとリミアは不敵な笑みを浮かべ「ええ、だから期待しててね」と、出口に向かって走り出す。俺達を置きざりにし。
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