ただ、「お前ら人の店の前で騒いでんじゃねえよ。商売の邪魔だ!」と鍛冶屋からボリスが出てきてた事でロン達は周りの状況を理解し、睨みつけてくるだけで済んだが。

 いや、いつまでもここにいたらまずいなと俺はすかさずオルトスの背中を押す。


「行くぞ」

「はあ、何処に?」

「酒場だ。俺の奢りで飲ませてやる」


「おい、本当かよ! まじでバッカスの神に感謝だぜ!」とオルトスは背を向け歩き出す。もう先程のことなどなかったかのように。上機嫌な表情で。まあ、ただし俺と同じように一応後ろに意識を向けていたが。

 「中には綺麗な武器があるんだ。見ていくといい」と、ボリスの声かけでロン達が店に入っていったところでやっと……いや、どうやら腹は立っていたようで「ふん、あいつらいつか顔面に一発入れて適当な場所に投げてやる」とぶつくさ呟いていたが。しかも次は絶対にやるという決意した表情で。

 むろん、これ以上は関わりたくないので俺は気づかないふりをしていたが。「そんなことしたら面倒事になるだろうが」と心の中で呟き。

 何せオルトス・D・ドランは拳闘士の最上位の加護、拳聖を持ち、弱い巨獣なら殴り殺せる程の力がある、つまりはロン達程度なら加減して殴るだけであの世にいってしまう可能性もあるからだ。

 文字通りに一発だけで。それは酔っ払いの飲んだくれであってもと意気揚々と少し前を歩くオルトスの背中に視線を向ける。

 まだやれるんじゃないかと。


 頭は酒の飲み過ぎでだいぶイカれてるかもしれないが……


 急に向きを変え別の道に行こうとするオルトスに俺は間違いないと「おい、行き過ぎだ。あの酒場は向こうだろう。戻るぞ」と声をかける。


「はっ、奢りでなんで安い酒を飲まなきゃいけないんだ?」


 オルトスは何わけのわからない事言ってるんだこいつはみたいな顔を向けてきたが。いや、おかけで最初からこいつがイカれていると思い出すことができたのだが。


「くっくく、高い酒がただで飲めるなんて最高だぜ。あっ、約束したんだから絶対、お前には奢ってもらうからな」


 そして何を言っても聞かない奴だということも。

 だから俺は昔のように無駄な労力は使わず、店主に水で思いっきり割ってもらう方法に切り替えたのだ。


 どうせ、こいつに味なんてわからないからな。


 そう思いながらも俺は金を出さずにこの状況から逃げれないかを画策する。いや、すぐに意識を切り替える。なぜなら急に大通りがざわつき人々が道を開け始めたからと、周りと同じ様に一糸乱れぬ動きで城に向かう騎士団の方に視線を向ける。レクタルの問題が解決し戻ってきた白狼騎士団に。

 まあ、たぶんだが……と噂通りならそうなのだろうと、労いとあまり関わりたくないという思いで彼らが通れるよう道を開ける。


「これは、オルトス殿、それに貴公はまた会ったな」


 残念ながらオルトスが動かなかった所為で副騎士団長のフォンズが俺達に気づき声をかけられてしまうが。

 しかも奴はあろうことか髭を弄りながらわざわざこちらに話を。


「なんだ? お前フォンズと知り合いか?」


 だから仕方なく「……レクタルの近くで少し話しただけだ」と答えたのだ。オルトスはニヤニヤしながら俺の顔を指差してきたが。


「少しねえ。本当は悪い面をしていたから捕まりかけたじゃないのか?」

「お前とは違う。ちょっとレクタルの様子を見に行っただけだ」


 するとフォンズが口髭を弄りながら感嘆の声を上げてくる。


「ほお、中には強い魔物もいたのに会わなかったのか?」

「ああ、運良くな……」

「それならギルド前にいたドラゴンゾンビを倒した者も……」

「全くもって知らない」

「ふむ、そうか。では、死霊術師達の情報もわからずじまいか。うーーん……」

「なんだ、納得してない様子だな?」

「それはそうであろう。あんな大がかりな事をしたのに死霊術を失敗するなんて……」

「まあ、時にはそういうこともあるだろう。それに、もし仮りにそれを誰かがやったのなら、おおかた金に余裕のある高ランク冒険者だろうな」

「ああ、なるほど。確かに今回はかなり手間と時間を取らせてしまうか」


 フォンズは納得した表情をする。すぐに手を打ちオルトスをもの珍しそうに見つめたが。


「なんだよフォンズ?」

「貴公の酔いが醒めてる姿を見るのは久々だと……。全く、もっと早くそうなっていたら今回の件に参加して頂きたかったのだがな……」

「んあ? 悪いが、話がわからねえんだが」

「レクタルで死霊術師達が大掛かりな死霊術を行い町が半壊したのだよ」

「はっ、まじか?」

「本当だ」

「知らなかったぜ」

「当たり前だ。貴公は完全に酔っ払っていたからな。全く、これから酒は程々にして欲しいものだ」

「それなら今日飲んだら当分酒は控えるつもりだから安心しろよ」

「えっ、今なんと!?」


 フォンズは驚愕の表情を浮かべる。もちろん俺も内心同じ気持ちですぐに収納鞄に手を伸ばしていた。何か使えそうな薬を出すため。まあ、すぐにオルトスに止められてしまったが。


「キリク、お前が入れた薬のせいじゃないぞ。てか、もう飲まそうとすんじゃねえよ」

「そうなのか? じゃあなぜだ?」


 疑いの目を向けるとフォンズが手を打つ。


「きっとバッカスの神がついに飲んだくれに罰を……」

「それも違う。そろそろスイッチを切り替えようとな」


 そう言うオルトスにもちろん俺は疑いの目を向ける。こいつには前科がある。しかも沢山。

 ただ、そんなことを知らないフォンズは大喜びしてしまうが。


「そうなのか! では貴公に頼みたい事があるのだ。明日にでも城に顔を出してもらえないだろうか?」

「おお、良いぜ」

「ありがたい。では、また明日」


 フォンズは騎士の礼をすると再び城の方に馬を動かし始める。そして後を続くように部下の白狼騎士団も。


「面白くなってきたぜ」


 オルトスはもう興味ないとばかりに歩きだしたが。鼻をほじりながらと、俺は顔を顰めながらオルトスの肩に手を伸す。むろん白狼騎士団に敬意を示せと言いたいわけでなく先ほどの真意を聞くために。

 ただ、すぐに手を止め視線を別の方へと向けるが。何せ彼らの中に見知った顔がいたから。


 サリエラだったか。


 どうやら無事だったらしい。彼女に視線を向けると一瞬目が合う。ただ、もう興味が失せたのだろうかそれだけだったがと俺は内心ホッとしながら白狼騎士団を見送ったが。オルトスがいなければだったが。


「キリク、この先の路地裏に良い酒が飲める酒場があんだよ」

「わかった。だが、あまり注文するなよ」

「ん、あ、ああ、任せろって」

「こいつ……」


 明後日の方向を見ながら答える奴を俺は思わず睨む。絶対聞いてない振りをしたから。まあ、俺にも手はあるんだがなと水増し作戦を心に誓い酒場に向かったが。


「いらっしゃい」

「高い酒をくれ! こいつの奢りだから金は心配するな」

「ああ、それと店主、ちょっといいか」


 そして早速、俺はオルトスにバレないよう色々と工作を。

 「くそ、あいつ」と、結局はオルトスの飲む量が多すぎ、稼いだ額の半分が酒代に消えてしまったのだが。


 だから翌日、失った金を取り戻すため朝早くに冒険者ギルドへと向かったのだ。きっと、レクタルとは比べ物にならないくらい良い条件の依頼があるだろうから。俺みたいな低ランクでもとギルド内を見回す。冒険者は素通りし、ギルド職員は軽く会釈してきた。

 どうやら、ここでは俺の噂はないらしい。もちろんレクタルの様な小さな町とは違い王都レオスハルトの冒険者ギルドだからそこら辺はしっかりとしているだろうが。

 「いや、それでもロン達がここにいる以上、過度な期待はしない方が良いな」と俺は一枚の依頼書を取り受付に向かう。


「アイアン級のキリクだ。薬草採取の依頼を受けたい」

「すみませんがあなたはソロでしょうか?」

「ああ」

「それでしたら、現在、シルバー級以下でのソロ、又は二人での外の依頼活動は禁止していまして」


 そう言って受付は一枚の紙を見せてくる。最近、少数人数で行動している低ランク冒険者が依頼中に行方不明になる事件が多発している。当面の間、外での活動はシルバー級以下は最低でも三人以上とするという内容のギルド長からの通達書を。「すみません」と申し訳なさそうに。

 もちろん俺は気にするなと首を横に振る。


「ギルド長からの通達じゃな……」

「はい。なので、どなたかと臨時でもいいのでパーティーを組んで頂かないと依頼の承認は出せないんですよ」

「ふむ」


 俺は腕を組み考える。いや、正直、悩んでしまう。むろん臨時でもパーティーは組みたくないから。

 それはまともな連中がいてもと本格的に南側への移動が現実味を帯び始めていると「まだ解決してないのか? 一週間だぞ。いつになったら外の依頼が受けれるんだ!」と突然怒鳴り声が。しかも、すぐ近くでと俺は意識を向けると別の受付の声が聞こえてくる。


「申し訳ありません。しかし、お二人のためでもあるんです」

「二人も三人も変わんねえだろう!」

「ラドフ、止めなさい!」

「黙っててくれ姉さん! 毎日、金にもならない雑用ばかりこなしてたら所持金がなくなっちまう。そうなると王都を出てかなきゃ行かないんだぞ!」


 どうやら、隣にいる姉弟冒険者も俺と同じ様に外の依頼を受けれないでいるらしい。


 しかも、一週間も雑用依頼と……やれやれ。


 俺は溜め息を吐く。そしてこれは本格的に移動するしかないかと。

 まあ、すぐにその考えは隅に置き姉弟のうちローブを着た赤髪の姉の方へと意識を向けたが。何せこちらに視線を向けていたから。しかも背が高く同じく赤髪の弟の服を無言で引っ張りだし。


「なんだ?」


 弟は姉の視線を追い納得した表情を浮かべる。そして俺も二人の雰囲気でこれから起こるであろう事も。


 面倒だな。


 だから、すぐに踵を返し冒険者ギルドを出るため歩き出したのだ。残念ながら二人にすぐ道を塞がれてしまったが。


「すまん! 俺達とパーティー組んでくれ!」


 むろん俺は「断る」と即座に首を横に振る。それでも、再び歩く俺の前に姉の方が立ち塞がり両手を広げてきたが。


「お願いします。話だけでも聞いて下さい」

「パーティーは組まない。以上だ」

「臨時パーティーで良いんです! それに報酬も私達とあなたで半分ずつで良いですから! 誓約書も書きますから!」


 姉の必死な言葉に俺は足を止める。正直、必死さに胸を打たれたわけではない。契約書と言う言葉に惹かれたから。

 まあ、本音は騒ぎになって面倒事に巻き込まれたくなかったからなのだがと、俺は周りを一瞥した後に近くの座れるスペースに移動する。


「で?」


 姉の方がすぐに口を開いてくる。


「ありがとうございます。早速、パーティーの臨時契約を……」

「いや、まだやるとは決めてない。話しの内容次第だ」

「はっ? 何言ってんだよ。お前にとっても良い話……」

「ちょっとラドフは黙ってて!」

「くっ……」


 姉の必死な形相に弟は空気を読んだのか静かになる。どうやらパーティーの舵取りは姉がしっかりしてるらしい。


 それでもこの二人は危うそうな気がするが。


 そう思っていると姉が頭を下げてくる。


「ごめんなさい。気を悪くしましたよね」

「いや、大丈夫だ。話を続けてくれ」

「……良かった。では自己紹介します。私は魔法使いの加護を持つダナ、そしてこちらが戦士の加護を持つ弟のラドフです。パーティー名はないですが兄弟で組んでやってます。ランクは二人共シルバー級です」

「俺はキリク。ソロでアイアン級。一応、プラチナ級に上がる寸前のパーティーにも所属していた。ある程度上の依頼もいける」

「そうですか! じゃあ、まずは依頼書を選んできましょう。それで色々話し合いをしてキリクさんが良ければ誓約書を書きますね」とダナは手際良くペンと紙を取り出す。問題行動や加護なども聞いてこずに。

 まあ、すぐに誰でも良いから組みたかったのだろうと納得するが。いや「……わかった、頼む」と、ここまできたらと俺も頷く。契約書があるから何があってもこれ以上は問題にならないだろうと判断したから。

 まあ、二人が死んでしまったらだがと、なるべく簡単で稼げる依頼を探す。そして依頼を吟味し、話し合いをしたすえ俺は赤毛の兄弟と早速、依頼をこなしに行ったのだ。

 王都から少し離れた森へ。ちなみにゴブリンは緑色の体をした背の低い人型の頭の悪い魔物の討伐である。むろん俺にとってはたいした相手ではない。


 二人にとってはわからないが……


 俺はそう思いながら二人に視線を向けるとラドフがお気楽気な声で喋りだした。


「はあっ、久しぶりにまともな依頼だぜ。この際だから一週間分ぐらい稼げねえかなあ」

「そんなの無理に決まってるでしょう。せいぜい良くても二日分ぐらいよ」

「でも、もしかしたら十体ぐらいやれるかもしれないだろう?」

「はあ、お気楽ね。そんなにこの付近にはいるわけないでしょう。ねえ、キリクさん」

「いや、わからないぞ。先の方にいくつかの魔物の気配がするからな」

「えっ! 本当ですか?」

「ああ、だから風下から回ろう」

「わかりました」

「おう」


 俺の言葉に二人は文句も言わずに黙って付いてくる。おそらく、プラチナ級に上がる寸前のパーティーにいたという言葉が効いたのかもしれない。まあ、それでも文句を言う奴もいるだろうがと俺はキリクになってから組んだ三つのパーティーを思い出す。

 そして、そのパーティーにいた二人の冒険者だけは文句など言わず良くしてくれていたことも。

 ただ、最後の方は会話もなく視線さえ合わせてくれなかったが……と俺は先の方、焚き火を囲むゴブリンに意識を向ける。


「七体。狩った大きなネズミを焼いて食べようとしているところか。ダナ、魔法一回で何体倒せる?」

「二体ですがこんなに沢山のゴブリンをいけるんですか? 私達二人でやってましたから基本的に三体までって決めていたので」

「なるほど。ちなみにラドフは何体までなら相手ができる?」

「二体が限界かな」

「それなら大丈夫だろう。俺が合図するから二人共準備しろよ」


 俺は落ちている石を拾うとゴブリン達がいる風上の茂みに投げる。七体のゴブリンはすぐに立ち上がり風上を警戒しだしだ。

 それを確認した後、弓矢に切り替え一匹のゴブリンに狙いを定め後頭部を貫く。更にもう一体のゴブリンに向けて矢を放ち仕留めるとダナに視線を向けたのだ。


「ダナ、魔法を」

「はい。第一神層領域より我に風の力を与えたまえ……ウィンド・カッター!」


 ダナの声にゴブリンはやっと俺達の場所に気づく。だが、既に二体のゴブリンが風の刃で切り裂かれ倒れた後だった。

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