【完結】加護無し冒険者(元勇者)の英雄譚
しげむろ ゆうき
一章
パーティー脱退
1
『加護無し冒険者(元勇者)の英雄譚』
あの日、俺は北の魔王を倒した。加護を失う代償と引き換えに……
だが、後悔はしていない。
なぜなら俺は……
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ネイダール大陸に住む人々は生まれてから十年経つと戦闘能力や生産能力などが上がる加護というものが現れる。
しかも基本的に生まれや環境に適した加護が付くので人々はありがたいものと認識しているのだ。
ちなみに加護は基本一つしか現れない。だが、稀に複数持つ者もいる。
俺もその一人で三つの加護が現れた。
錬金術師、魔導師、そして神々によって作られたばかりの加護、四体の魔王を倒すために作られた勇者だ。
そう勇者である。
まあ俺にとってはハズレ加護だったが……
だが、なった以上やるしかなく俺は長いこと勇者として頑張ったのだ。そして仲間と共に戦い続け四体いるうちの魔王二体を討伐することができたのである。
ただし二体目を倒した際、力を落とされた挙句に加護を全て封じられる呪いを受けてしまったが。
もちろん想定内で心配はしていなかった。何せ後続がいたからだ。勇者の加護を持つ後続が。そしてその仲間達や冒険者達が。
だから心置きなく前線を退くことができたのである。
勇者アレスのパーティーと共に。
そう、あいつらも三十年以上という月日でそれぞれやりたい事ができていたらしい。
だから俺……勇者アレスのパーティーはあっさりと解散となったのである。
じゃあ、その後の俺はどうしていたのかというと後続の勇者パーティーの教育係になっていたのだ。
まあ、残念ながらほとんど優秀なあいつらに教える事はなかったのでタイミングを見てさっさと立ち去ろうと思っていたが。ある事件をきっかけに立ち去るのではなく死んだことになり別人として生きていくことにならなければ。
新人冒険者キリクとして……
◇ ◇ ◇ ◇
聖オルレリウス歴1585年五ノ月
レオスハルト王国領にある小さな町、レクタルの外れにあるダンジョンにて
あの日から俺はフルプレートを脱ぎ新人冒険者らしい格好をしている。もちろん念のため髪型や目の色も変えた。
まあ、本来ならここまですることはないのだが。
何せ勇者時代はパーティー以外にはフルプレート姿しか見せず中身の姿は謎とされていて、ちまたでは勇者アレスは壮年のエルフと噂されているからだ。
だからハイエルフと人間のハーフではあるが耳は尖っておらず見た目は十五才ぐらいの中性的な顔立ちをした若い人族にしか見えない俺を勇者アレスだとは誰も思わないのである。
まあ、だからこそこんなこともされてしまうのだが。いや、違ったか……
俺は小石を投げてきた人物、現在組んでいるパーティーのリーダーであるダントを睨む。
「おい、ふざけるなよ」
「ふざけてねえよ。地図を見るふりしてサボってるお前を注意してやったんだ」
笑みを浮かべダントがそう言ってきたので俺はすかさず地図を見せる。
「お前達が死なないよう安全ルートを確認しているんだ。サボってるわけじゃない」
すると今度はダントの横で同じパーティーのラーニャが冷たい目を向け溜め息を吐いたのだ。
「はあ……。あんたさあ、ダントにそんな態度とっていいわけ?」
「俺は普通に仕事をしてるだけだが」
「全くこれだからさあ……」
ラーニャは呆れた顔すると今度は近くの壁によりかかっていたダントの弟ドクが口を開く。
「仕方ないぜラーニャ。こいつ荷物持ち以外、何もしてない事を理解してないんだからさ」
「ああ、そういうことねえ。全く噂通り使えない加護無し冒険者だわ」
ラーニャは今度は蔑んだ目を向けてきた。対して俺は怒りもせずに表情も変えずにいたが。正直慣れた光景だったからだ。加護無しの扱いについては特に。
まあ、だからといってパーティーをこのまま続けるかと言われるとそれは違うが。
だから肩をすくめながら俺は三人に向かって口を開いたのだ。
「そんなに言うならこのパーティーは抜けさせてもらう。俺は役に立たないみたいだからな」
「ああ、消えろ消えろ」
「せいせいするわ」
「だな」
三人はニヤついた笑いを浮かべる。ただし一瞬でその表情は強張ってしまったが。少し離れた場所から聞こえてきたからだ。魔物の怒りを含んだ雄叫びが。
『グオオオオッーーーー!』
「ひっ」
「な、なんだあのバカでかい声は……」
「今の俺らじゃやばいかも……どうするよ?」
もちろん俺は会話に入らずに地図をしまうと歩きだした。もう関係ないからだ。パーティーを解消したのだから。
ただし俺に頼ってばかりいたから今現在どこにいるのかわからないあいつらは違ったみたいだが。
「ど、どうする兄貴?」
「仕方ない、あいつの後を追うぞ」
ダントの言葉に二人は頷く。
そして気配と愚痴る声でバレバレなのに隠れながら後ろをついてきたのである。俺が何処に向かうかもしれずに。
ちなみ俺は向かう先を出口に変更していた。仕方なくだ。何せ抜けた後に死なれたら目覚めが悪い、それにパーティー脱退届けの手続きもしてもらわないといけないからだ。
「やれやれ……」
俺は小さく溜め息を吐く。それから後ろで早く進めと騒ぐ三人を無視して出口に向かうのだった。
◇
あれからレクタルの冒険者ギルドに無事に戻ることができた。もちろんダント達とのパーティーとは既に脱退手続き済。話もせずに別れることもできていた。
「それでキリクさん、三つのパーティーをクビになったわけですけどーー」
ただし今度は別の奴に絡まれてしまっていたのだが。手続きを担当した受付の猫耳族の女獣人、ナルに。ニヤつきバカにした表情で。本来なら冒険者ギルド職員として失格になる行動で。
「……クビじゃなく脱退だ」
まあ、俺は気づかないふりをしながら訂正をしておいたが。何せいちいちこういう輩に構っていたら時間がいくらあっても足りないからだ。
「同じ様なものですよ。やはり神々から見捨てられた存在、加護無しじゃ誰も相手にしませんって」
残念ながらナルの方は暇な時間があるようだったが。俺の言葉を信じる様子など微塵も見せずにそう言ってきたから。
だから内心うんざりしてしまったのだ。こういう輩には手続きが終わりしだい注意しないといけないから。
しかも差別的な部分は特に。何せそのまま放置するとダント達の前に組んだ二組のパーティーのようにあることないことを吹聴されるからだ。
特に冒険者として支障が出る嘘を。
「ちっ、またあの加護無しが迷惑かけてるぜ」
やれやれ、そうは言っても既に駄目そうではあるのだがな。
俺は腕を組みそっと周りに視線を向ける。それから他の冒険者達が向けてくる視線に溜め息を吐いたのだ。もうここの冒険者ギルドではまともなパーティーを探せないと理解してしまったのだから。
いや、レクタル全てか……
だから壁に貼られた地図を一瞥した後、また別の町で一からやり直しかと項垂れてしまったのである。そもそもパーティーを組む必要があるのだろうかと疑問が頭の中に浮かび上がるまで。
何せ最初はソロでやっていて、そこに声をかけられてそのままパーティーを組んで今に至ったわけで本来なら俺一人でも問題ないしなんならそこら辺にいるベテラン冒険者以上は動けるから。
まあ、ただしそう思っていない奴もいるようだが。バカにした表情のナルの声が聞こえてきたから。
「ねえ、キリクさーん。今後どうしますかって聞いてんですよ。もうパーティーなんか無理でしょう?」
しかも明らかに冒険者ギルドの受付としては度を超えた嫌味な態度を見せ。もちろんそれでも俺は表情を崩さなかったが。
「ソロでやるからそう書いといてくれ」
端的に言えば面倒だしこれで会話は終わると思ったからだ。ただし残念ながらまだナルの方は続けたかったらしいが。
「はあ、まだ冒険者をやるんですか?」
だから俺は仕方なくわかりやすく説明したのである。
「俺一人でやった方が問題ないだろう」
だがナルは俺の意図を無視しているのか理解していないのか再び絡んできたのである。
「はっ、何言ってんですか。冒険者ギルドの役に立ってない人がこれ以上、冒険者をやる意味あるのかってことですよ」
おかげで俺は思わず舌打ちしてしまったのだ。なんとかぐっとこらえそれ以上は色々出ないように我慢したが。俺の言葉は今は信用性がないと話しているうちに気づいたから。特に実際の働きを見ていない以上はなおさら。
だから今の発言は気にしないようにして口を開いたのである。
「……やるかやらないかは俺が決める事だろう。さっさと手続きしてくれればいいんだよ」
するとナルの表情はみるみる歪んでいく。そして醜悪な表情で睨んできたのだ。
「決める事だろうってあんた何様ですかあ? 加護無し風情がそもそも冒険者をやろうなんて正直うざいんですよねえ。さっさと辞めてもらいたいんですよおーー」
更には口角を最大限に上げ。侮蔑を交えた表情で。
なので、これにはさすがの俺も正直苛ついてしまったのである。何せ俺だけならまだしも一生懸命頑張ってる他の加護無し冒険者達の事をバカにされたのだから。
加護などなくても頑張っているあいつらを。
だからつい拳に力が入ってしまったのである。更には少々威圧まで。
「……それは本気で言ってるのか?」
「ひっ、な、何⁉︎」
まあ、おかげで受付内で書き物をしていた人物が手を止め立ち上がりこちらに向かってきてしまったのだが。ナルの声が大きかったから、きっと様子を見に来たのだろう。
いや、もしかしたらもっと面倒になるかもしれないな……
だから、この無用な会話をやめてさっさと去ろうとしたのだ。まあ、俺のミスで残念ながらそれはできなくなってしまったのだが。何せ腰まで伸びた金色の髪と青く大きな目に尖った特徴的な耳を持つ若い女性に不覚にも見惚れてしまったから。エルフの中でも飛び抜けた容姿に。
ただすぐに冷静にもなることはできたのだが。疑問が頭に浮かんだからだ。彼女もこの受付と一緒なのだろうかと。
まあ、すぐに知りたくもないとその考えは頭の中から追い払ってしまうのだが。何せこれ以上はがっかりしたくなかったからだ。唯一信用できていた冒険者達に。
「あの、大丈夫ですか?」
残念なことにその願いは虚しく散ってしまい彼女が長い髪と白いワンピースをなびかせながらこちらにやって来てしまったが。
しかもナルが不敵な笑みを浮かべ駆け寄って行く姿、更には周りにわざと聞こえるように泣き声をあげるというおまけ付きで。
「サリエラさーーん! この加護無しが脅してきたんです! 怖いよーー!」
おかげで騒ぎを聞きつけた連中が集まってきてしまい俺を見るなり睨んできたのである。
「おい、嘘吐き野郎! ナルちゃんを脅してんじゃねえ!」
「そうよ! 弱い者いじめして楽しいの?」
周りにいた連中は口々に俺を罵り始める。もちろん最初から決めつけている連中を相手する気はない。だから俺は黙っていることにしたのだ。これだけ騒げばきっと来るだろうから。この状況を解決してくれる人物が。
「騒々しいですね。皆さんどうしたのですか?」
案の定、奥から騒ぎを聞きつけたギルド長がやって来る。なのでここぞとばかりに説明しようとしたのだ。その前にナルが俺を指差して叫ばれてしまったが。
「ギルド長! こいつが私を脅迫してきたんです! こいつを捕まえて下さい!」
思わず溜め息を吐いてしまった。まさか、ギルド長に嘘までつくとは思わなかったからだ。
公正な判断で選出されたギルド長に……いや、待てよ。もしここのギルド長がこいつらと同じ穴のむじなだったら。
しかし、その考えはすぐに杞憂に終わってしまった。ギルド長がナルの話を聞く様子はなく周りをしばらく見つめていたから。要はここのギルド長はまともだと理解したからだ。
まあ、理解もなにも本来はこうでなければいけないんだが。
睨んでくるナルと一部のギルド職員を見てそう思っていると、ギルド長が俺の方を真っ直ぐ見つめてくる。
「本当に彼女を脅したのですか?」
俺は首を横に振る。
「いや、俺に冒険者を辞めろと言ってきたり、愚弄したから睨んだだけだ。なんなら真実の玉を使っても良いぞ」
すると効果的面だったらしくナルはビクッとして後退り始めたのだ。何せ真実の玉は本当か嘘かを見破る魔導具だから使えば間違いなくナルの言った事が嘘だとバレるからだ。
それに今までのことも。
だから、これで全てのかたがつくなとそう判断したのだ。周りの連中が騒ぎ始めるまで。
「ふざけんな! そんなの使わなくてもお前が嘘を吐いているに決まってるだろう!」
「最低な奴だな。加護無しで役立たずの分際が」
「おい、嘘吐き。ナル嬢にさっさと謝れ!」
俺は飛んでくる暴言罵倒に内心呆れてしまう。更にはいつまでも続くためつい口を開いてしまったのだ。
「いい加減にしろよ。これはそもそも俺とこの受付との問題だ。お前達には関係ないだろう。それにお前達の言っているその嘘吐きってのも何が嘘吐きなんだ? ついでにそれも今日はっきりさせるか?」
周りを見ずそう言うと連中は拳を固めながらにじり寄ってきた。どうやら、やりあうかしかないらしい。そう思っていたらサリエラというエルフが俺と皆の間に入ってきたのだ。
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