俺の幼馴染は男子恐怖症だが俺には甘々である。それを知った女子共がやけに近づいてくるんだが。

イシガミ

日常

「ごめん、これ以上は無理」


 俺には同級生の幼馴染が居る、神崎かんざきあおいである。



 そして彼女は極度な男子恐怖症なのである。



 幼少期の頃に見知らぬおじさんに話しかけられた頃から男子、男性恐怖症になった。


 その端正な顔立ちをしているためか、放課後は頻繁に男子に声を掛けられたり、告白されたりしているところを目撃することが多い。


 しかし、誰とも交際をしていないし、挙句の果てに拒絶しているそうだ。


 今だってまた数人の男子に話しかけられている。


 女子から恨まれたりはしないのか?と疑問になるだろうが、愚問だ。


 完璧な彼女に友人が居ないはずがない。彼女の周囲にはいつも数人の女子生徒の影が見受けられる。


 そんな彼女と正反対の俺が幼馴染というレッテルを貼られているのか、「ほんとに幼馴染?」と実際に質問され、心配される程である。


 彼女と幼馴染の俺は大抵、男子から話を取り持つように言われ話に無理矢理介入させられているのだ。


 男子恐怖症のことは学年全体が知っているはず。


 それでも男子が話しかけたり、告白したりするのはやはり彼女の魅力に惹かれているからだろう。


「おーい、和也さんや。一緒に帰ろーぜ」


「わりぃ、先約があるんだ」


「もしかして、女でもできたか?」


「なわけ、いつもの付き添いだよ」


「あーー、そういうことか」


 帰り道はいつも付き添い人として帰っている。


 いや、義務のように感じているのかもしれない。襲われた時に女子では対抗できないし、間違いなく葵は意識が無くなるだろうし。


 もちろん、帰り道の途中までは葵の友達と一緒である。

『嫌か?』と聞かれると『別にそうではない』と答えるのが妥当だ。実際いやではないからな。


 二人になるまでは少し後ろを気だるげに猫背でついていっている。


 ストーカーと間違えられていないか心配だが、そこは葵の可愛さに免じて妥協としておこう。


「和君、行こ」


「おう」


 いや、別に一度もご褒美と思ったことは無い。


 俺は付き添いだ。そんな変な感情は起こらない……と言い切りたいがこんな美人が隣に歩いているのだ。少しくらい劣情は乱れる。


「それでさー、こないだ行った店のパフェもう一回いこーよ。今度ね」


「あそこの珍味、味どうだった一条?」


「美味だった」


「なによー、それ」


 俺の返答に微笑みを零す、葵の一番の親友である中山なかやましずく


 他にもいるのだが紹介がめんどくさいから今度するわ。


「じゃあまた明日ね」


「うん!ばいばい」


 学校から十分くらい歩いたところで葵の友達は全員違う方向に帰る。


「それでさ、和君。こないだの映画なんだけどさ」


 男子恐怖症だと言ったが、何故か俺には適用されてないみたいで女子と話す普段と変わりがない口調で葵は話しかけてくる。


 昔からよく遊んでいたからなのかは分からないが……少しは頼りにされているのだろう。


「ちょっと、聞いてるの?」


「あー、すまん。考えごとしてた」


「もー。」


 両頬をふぐのように膨らませる葵。


 やっぱ可愛すぎだろ。反則だわ。


 その後も他愛のない会話を続けて五分程歩いたら葵の家があり、その隣に俺の家が隣接している。


 近いからもあって俺が適任者に当てられたのだろう。


 いや、申し出てきたのは葵の方だ。きっと葵の中で何かがあったに違いない。


「じゃあ、また後で」


「おう」


 俺の両親は夜の帰りが遅い。それどころか『父さん、やる気MAXです!』などと濁した返事をくれ、普通に多忙で帰ってこない日も多々ある。


 だから、葵が代理で夕飯を作りに来てくれている。


 葵の父親は仕事で海外に行ってて、母親は夜勤だから夜居ないのは葵も同じなのだが。


 俺の家で食事を済ませることが多い、いや特別な用事がない時はいつもそうだ。


「ごめん、今日もう早く来ちゃった」


 家のチャイムが鳴って出てみると、葵が着替えてもう家に来ていた。


「おう」


 普段通り、家に上がらせる。


 俺はまだ制服の着替えなどを面倒くさがって、していなかったので制服から私服に着替え、リビングに向かう。


「なんか食べたいものとかある?」


「んー、エビチリかな」


「欲張りだなぁ」


「食べたいのある?って聞いたの葵だろ」


「……えへへ」


 キッチンで微笑みを零す葵。やはり表情を変えても当たり前だが可愛い。


 料理をしている間、俺は特にすることがないので掃除や洗濯や家事を行う。


 ……くそっ、あの母親め。こんな派手なパンツを俺の棚に入れるなって言うんだよ。


 今どき俺がオムツ履くわけないだろ。いつまで子供扱いしてんだよ。


 俺の両親はどこかおかしい。父親はいつも頭の中がフィーバーだし、母親も大して症状は変わらないポジティブ人である。


 絶対悩み事がないし、人生を俺の知る限り一番謳歌しているだよう……楽しそうでなによりだ。


「はぁ。いつになったら子供扱いやめてくれるんだよ」


「かずくーん、できたよ」


 洗濯物を片付けているとリビングの方から葵の声が聞こえ、足を運ぶ。


 机の上に広がるエビチリが乗った皿に白米、お味噌汁と野菜のソテー。


 色彩豊かな手のこった料理。こんな美人が作って料理が不味いわけが無い。手料理が食べれるなんて一種の人々から見れば金よりも大事なことなんでは無いか。


「またいつにも増して豪華だな」


「張り切っちゃった」


 と言いながら葵はガッツポーズをとる。


「「いただきます」」


 合掌を済ませてエビチリに腕を運ぶ。


 箸の先でぷるぷると震えるエビチリ。鮮度が良かったのは間違いない。

 絶対美味しいのは見ただけで分かる。


 口に入れ、噛む毎にエビ固有の旨みが弾け出てくる。


「はぁ、美味かった」


「良かった」


 微笑む葵はまるで天使のようで癒される。


「ねぇ、和君。」


「おう、なんだ?」


「今日も帰り道ありがとね」


「気にするな、いつものことだろ」


 急にかしこまって礼をしてくる。

 いつもこうだ。ご飯後は何故か行きや帰りに一緒に居てくれることを謝礼してくる。


「女子の中に一人男子って普通いやでしょ」


「まあ、そうなんじゃないか」


「でも、和君はいつも裏切らずに居てくれるじゃん。

 ……だからありがと」


 えへへ、といいながら身を寄せてくる葵。

 肩と肩が触れるか触れないかギリギリのところで止めてソファに座り映画を見る。


 葵の紫の髪の毛が俺の肩に当たって下に垂れている。

 それにシャンプーのいい匂い。


 逆に俺は学校から帰ってきて風呂に入ってないし、汗臭いか心配だ。


「……かずくん、いいにおい」


 更に身を寄せてくる葵。


 くそっ。可愛すぎる反則だ。

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