第10話 離宮での日々

 輿入れからしばらく経つが、ハイトブルクは一度も離宮に顔を見せていないし手紙などもない。

 こちらとしては楽なのでいいが、代わりにあちらは次期王としての評価がゴリゴリ減っていると思っていた。


 だがゴシップ好きによるとそうでもないらしい。


『この国って、魔法使いのヤバさを全くわかってないんだよ』

『魔法で魅了されて、魔法使いが魅了を解いたのに?』


『そっ』

『えっ、じゃあ私のことは?』


『見た目は悪くないのに、魔法使いじゃないから他国に出しても惜しくない王女だと思われているみたい』

『勝手な決めつけに驚きー』


 魔法使いの七割が魔法の国所属という噂は何処へいった。


『大半がルーを自国基準で扱ってもいいと思ってるみたいだ。だから王太子の評価に影響はほぼ無い』


 王族なのに魔法使いではないから、自国で冷遇されていたのではという話まで出ているらしい。

 想像力豊かだよね……。


 お花畑の側妃は夫の寵愛を得ていれば、正妃以上に権力を持てる存在。

 だが旨味が無くなった瞬間に放置しても許される。


 ハイトブルクには察せられるだけの情報は与えられているが、明確に話すことは契約で禁じている。

 今回の結婚に関する契約内容を全て知っているのは、アウグスティンとその側近の一部のみ。


 だがまさかここまでとは。機嫌取りくらいには来ると思っていた。

 普通に考えても子どもが他国に一人で輿入れしているのだから、人として様子を見るくらいはすべき。


 訪問者対策も考えていたが、お披露目する機会はなさそう。

 王宮で自前の馬や馬車は禁止されていて、借りれば記録が残る。こっそり訪れるには徒歩しかないが、遠い。

 接触したいと思う人がいても、訪れにくい状況になっている。


 結果的に離宮に来るのは、週に一度アウグスティンの側近兼私との連絡係ハーラルトさんのみ。

 ハイトブルクが手配した連絡係も一度来た。呼んでいないのにアウグスティンも一度来たが。 


 ハーラルトさんはしがない伯爵家の次男だと言っていた。

 髪と瞳は明るい茶色で、穏やかな顔立ちの優秀そうな気配のある人。


 輿入れの翌日に離宮へ来て、専属使用人を王宮に採用する際に調査した記録を持って来てくれた。

 ハイトブルクが用意した連絡係の役割だと思うが、しそうにないから持って来てくれたのだと思う。


『陛下は見ていますが、権限の無い私は中を見れません。気になる経歴は本人に聞くか、私に調査を依頼してもらえれば』

『わかりました』


 小声でこそっと教えてくれたが鵜呑みにするのは危険なので、ルークが裏取りを始めた。

 特に差異はなく、信頼出来るものだと考えてよさそう。


 カーマインは疲れているだけの二十三歳だった。ごめんよ。他も二十歳そこそこばかり。

 お花畑は数え年で、貴族は十五から十七歳に学園。働く人は十八歳から。使用人たちは最初に感じた通り、若くて教育不足。


 観察していたがこちらの監視役はいないと考えてよさそう。彼らは空いた時間を自己研鑽に使っている。

 カーマインが中心になって使用人をまとめ、帝国語も教えている。


 帝国語の会話がきちんとできるのはカーマインのみ。下働きが侍女よりも話せるのは、逆じゃないのかと思う。

 下働きは二人共男爵令嬢だから、お花畑的には技能より身分優先なのかもしれない。


 料理は見栄え重視で飾りも多く、食べにくいし量も少ない。毎食のように飴細工とかいらんて。

 単にコルセットの締め過ぎだと思うが、料理人は高貴な女性は皆小食だと勘違いしているのかもしれない。


 部屋の窓から見える庭は、常に大輪の花が咲いているように頻繁に植え替えている。

 夜明け前から作業しているのを見かけたが、そんな時間から働かなくてもと思ってしまう。


 週に五日は午前から昼のお茶の時間まで、家庭教師からお花畑の暗黙の了解やマナーを学ぶ。

 休みの日や空いている時間は、不自然ではない程度に部屋にこもっていることにしてルークと会っている。


 ルークは王都の食事網羅に向けて、ちゃくちゃくと励んでいる。

 貴族街の屋敷は広く似た様な感じだが、庶民街は建物がひしめき合っていて面白いとのこと。


 離宮から抜け出すついでに、ルークと庶民街に食事に行くこともある。

 庶民街の方が普通の料理で食べやすくはあるが、鮮度がイマイチでちょっと微妙。

 王都内では食料生産をしておらず、全て周辺から取り寄せなのが影響していると思う。そのうちルークと各領地へ遠征する予定。


 ルークとは散策するか魔法の練習、もしくはローザリンデの家探しをその時の状況に合わせて選んでいる。

 夜は遅くなり過ぎる前にゴシップ好きが来れば情報交換などをし、眠くなった時は先に寝ている。


 ローザリンデの家探しは日中は必ず誰かいるので、夫婦が寝室にいる夜を狙って頑張っているが成果はない。

 保管されていた手紙は全て見させてもらったが、大切にしまっていたのはハイトブルクからの手紙だけ。


 寒気がするような言葉が並んでいるので、真顔で淡々と読めるルークの担当になった。

 私は読んでいられず、ゴシップ好きは膝から崩れ落ちて笑い転げそうになっていた。

 他はおそらく届いた順にしまっているだけで、王宮入りしてからのものだけだった。


 タウンハウスでも手紙が大量に出て来たが、確認に時間がかかっただけで気になるものはなかった。

 サイズが合わなくなった服や本などがそのままだったので、単にあまり片付けが出来ない人なんだろうなとの印象が残った。


 だがひとつ、見たいが見れないものがあった。

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