魔法の国の王女様
相澤
『芸術の国』へ
第1話 椅子で空を飛ぶ世界に転生した
『魔法の国』に生まれたルーデンベルド・ハーシアは、両親に指摘されるまで自身が転生者だと気が付いていなかった。
思い出と呼べるような記憶はなく、前世の自分の家族構成や名前も性別さえも覚えていない。
あるのは知識だけ。それもあってか気付かずに過ごしていた。いや、今思えば違和感は沢山あった。
それでもそれらの違和感と自分にある前世の知識が結びつかない、ぼーっとした子どもだった。
言い訳をしておくと、大半の転生者は幼い頃はぼんやりした子が多いそうだ。
はっきりとはしていないが、生まれた時から大量の知識だけがある影響ではないかと言われている。
そして話せるようになると、教えていないことを話し出したり不可解な行動をするので発覚するらしい。
それで両親も気付いたが、「あれ、この子も転生者じゃね?」くらいの軽いノリだった。
魔法の国では人の多い時間帯に外に出れば、普通に転生者に会えるくらい転生者が多かった。
誰も隠していないが、敢えて言うことのほどでもないという認識で、よく遊んでくれる近所のお兄さんも転生者だった。
そういった背景もあり、すんなり受け入れた両親は、精神年齢が高めな転生者に合わせた接し方に変わった。
望めば年齢に見合わない知識欲を、転生者あるあるだねと笑いながら満たしてくれた。
鼻息荒く「魔法を教えて~!」と迫った時も、「そっちかぁ」と笑いながら家庭教師を用意してくれた。
そしてどんな質問にもはぐらかすことなく、真面目に答えてくれた。
「ねぇ、お母さん。どうして私たちは耳の上側がちょっと長くて、先が尖り気味なの?」
「そりゃ、遺伝だから。遺伝ってわかる?」
「わかる」
「魔法の国では魔力が高い人に多い耳の形だよ」
「エルフ?」
「エルフ? 何それ?」
家族全員が金髪碧眼で耳が長め。しかも少し尖っているからハーフエルフとかかと思いきや、そうではないらしい。
大自然と共存もしていないし、家はとても便利なので関係なかったようだ。ちょっと期待してしまった。
でも母はエルフの設定でイメージしてもおかしくないような、人目を惹くような美人さんなんだよね。
……くせ毛で困っているけれど。
前世との比較なら我が家は皆美形。高い魔力持ちは基本そうなので、特別感は薄い。
父は絵が上手な人が描いたモブって感じで、母は主役って感じ。
兄と姉は母似で、私は父似。父はごめんな~と私にたまに言うけれど、私はこの特徴はないが整った顔を気に入っている。
何より私は髪質も父に似ていて、柔らかく癖が少ない。ただおろしているだけで様に見える、最高に良い感じの癖がある髪質をもらった。
兄はかなりのくるくるで、髪を伸ばすと爆発するので短くしていて、伸ばすという選択肢はないと言っていた。
頻繁に切るのが面倒で伸ばしたこともあったが、髪にゴミが絡まるのでやめたらしい。
姉は母や兄ほどではないがくるくるで、更に細い髪の為に絡まりやすい。大抵三つ編みや編み込みにしている。
顔面偏差値が高い影響でおしゃれさんにしか見えないのがまた凄いが、実際には苦労している。
母は家にいることが多いので、沢山話をした。質問攻めにしたとも言う。
「ねぇ、お母さん。どうして皆箒じゃなくて椅子で空を飛ぶの?」
「何で箒?」
「前世の魔法使いは箒で空を飛んでいたの」
「……それ、お股が痛いんじゃない?」
「魔法で、何とか?」
「魔力の無駄遣いじゃない?」
「そう、だね」
「そもそも、掃除用具で飛ぶ必要なくない?」
「……そうだね」
ちゃんと理由みたいなものはあったはずだが、前世の私も把握していなかったようでわからない。
魔法の国での移動手段は徒歩か空を飛ぶかが基本。空を見上げれば飛び交う椅子に乗った人々が常に見える。
ソファやオフィスチェアが人気な様子。確かに普通に考えれば、箒より椅子に座って飛ぶ方が楽だよね。
ちなみに身一つで飛ぶより、椅子で飛んだ方が楽らしい。飛ぶ練習はこれからなので、楽しみだ。
こちらから沢山質問もしたが、そのお返しとばかりに知らされたのは父が国王なこと。物凄く驚いた。
また言い訳をするなら父が王だと思うような要素がなかったからで、そこまでぼんやり過ごしていた訳ではない。
服装は近所の人たちと同じ、綿や麻などの自然素材を用いたトップスに、ズボンやスカート、最後にマント。
全てオーダーメイドにはなるが、前世と似た感じのカジュアルさ。近所の人たちが実は貴族とか、そういうこともない。
我が家は落ち着いた雰囲気の三階建てで、石造り。広い庭もある。けれど豪邸という訳ではない。
前世感覚では田舎や郊外にある一軒家の広さの感覚と、そう変わらない。
兄、姉、私の全員に個室が与えられ、住み込みの使用人もいるので、かなり裕福な家庭だと認識はしていた。
でもさ、家の中も実用重視で、質の良い家具だけれど華美ではない。絵画とか壺とかの鑑賞目的の品は、全くない訳ではないが沢山もない。
使用人とは雇用関係はあるものの、身分差のようなものを感じたことはない。言いたいことは言ってくる。
更にうちの庭が広いからご近所さんが集まって、子どもの遊び場にもなっている。庶民派過ぎるだろう。
これで自分が王家だと思うだろうか。いや、思わない。治安もすこぶるいいので護衛もいないし。
近所の人も普通に話しかけて来るし、何より普通に家に入って来る。
他国では前世の知識通り、大きくて豪奢な屋敷に住んでいる王族が多数派で、この国の方が珍しいとのこと。
魔法の国には身分制度も無く、私たち家族を王族と呼ぶのは対外的に必要だから。だから実質王族ではないと言われて混乱した。
ファンタジー系の物語で、魔法に特化した変人がいたことはないだろうか。魔法の国にいる魔法使いと呼ばれる人たちは、そんな人ばかりだった。
魔法とその研究にしか興味がないオタク気質とか、美味しい食事目当てで協力するとかそんな感じ。
魔力の高さと変人度合いが、ほとんどの人の場合比例しているらしい。
その多数派ではない比較的常識人が多いのがハーシアの家系で、魔法使いのまとめ役のような立場を押し付けられているそうだ。
この話を教えてくれた時の父の顔は、凄く苦い顔だった。父も本当なら魔法をぶっ放しつつ好きに暮らしたかったらしい。
それはそれでどうなの。父の魔力はかなり高く、思い切りぶっ放せる場所なんてそうそうないと思う。
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