魔法の国の王女様
相澤
『芸術の国』へ
第1話 椅子が飛ぶ世界に転生しました
転生しまして、ルーデンベルド・ハーシアになりました。
前世の経験からくる知識のようなものはありましたが、思い出と呼べるような記憶はありませんでした。
なので幼い頃は特に違和感を感じることも無く、自分が転生者であることに気付きもせずに普通に過ごして来ました。
生家は落ち着いた雰囲気の三階建て。三階には両親の部屋や仕事部屋があり、二階に子ども部屋があります。
一階は家族の共有スペースや、住み込みの使用人が住む部屋などもあり、庭も広くてとても気に入っています。
家族は兄と姉、弟がいて、それぞれに両親とは別に面倒を見てくれる大人たちがいました。
部屋も落ち着いた雰囲気ながら質の良い家具が揃っていて、かなり裕福な家庭だと認識していました。
窓からは幾つもの石造りの尖塔が見えていて、毎日椅子に乗った人が空を飛び交っていました。
椅子? と疑問に思うこともありましたが、何故疑問を感じるのかを、自分でもわかっていませんでした。
私が転生者であることに最初に気が付いたのは両親でした。この大陸には転生者がよく生まれてくるので、特別な事では無いそうです。
対応にも慣れていて、転生者だとわかってからは一部の扱いが大人に対するものと似た感じに変わりました。
子ども扱いなのは変わらないまま、知識欲に関して大人に対するのと同じ様に満たしてくれました。
知識欲が凄まじいのは転生者あるあるなのだとか。周囲を質問攻めにしたのも今では良い思い出です。
そこで知ったのは父が国王で、母がその妻。つまり私は『魔法の国』の第二王女だったという事です。
両親が積極的に外へ連れ出してくれるようにもなり、住んでいる屋敷は歴史ある洋館といった佇まいだと知りました。
前世の知識にある王族の屋敷とは、随分趣きが異なります。それを思うと裕福だと思っていた家が、かなりの庶民派に感じます。
他国では大きくて豪奢な屋敷に住んでいる王族がほとんどとのことでしたが、我が国の王族は他国とはあり方が違うと教わりました。
身分制度も無く、私たちを王族と呼ぶのは、対外的に必要だからだそうです。実質王族ではないと言われて混乱しました。
他国の客を招く際には迎賓館が使用されます。
迎賓館は他国に馬鹿にされない様、華美な作りになっているそうです。
私はこの国の文化がすっかり気に入っていましたが、他国の文化を馬鹿にするとは何様なのでしょうか。
他国の王族などの権力者だと言われました。そうですか。
他国の要人がいない時は、観光地として開放されているので、私も連れて行って貰いました。
華やかで美しい屋敷でしたが、派手過ぎて住むには落ち着かなさそうです。
大昔は箒で空を飛んでいたけれど、バランスが難しいのとお股が痛いとのことで、今は椅子で飛ぶのが主流なことも教えて貰いました。
機能的なオフィスチェアっぽいのや、座り心地の良さそうなソファで飛んでいる人が多いです。
窓から見える尖塔は国立研究所で、国でも特に優秀な研究者が集められています。
日々研究に没頭しているらしいのですが、とにかく変人の集まりだから近寄ってはいけないと言われました。
特に転生者を見かけると、何かアイデアを貰おうと殺到して来るそうです。
前世の記憶にある世界よりも、魔法がある分便利になっているのは、貪欲に研究を続ける彼らの成果だそうです。
色々な疑問に答えて貰えて満足すると、魔法の勉強を早く始めたくなりました。
お願いしてみると、それも魔法の無い世界からの転生者あるあるだと言って笑われました。
夢中になりすぎては成長に良くないからと、良く寝て遊ぶことを条件に、家庭教師をつけてくれました。
張り切って遊んで来いと、町の子どもたちの中へ放り込まれた時は戸惑いましたが、精神も体に引っ張られるらしく、良く寝て遊び、可能な範囲で魔法の勉強を楽しみました。
途中からは両親に言われ、新たな家庭教師から他国の語学を学ぶようになりました。
これは王族と呼ばれている私たちの義務で、習得度合いに応じて給料の支払いが始まるそうです。
語学の勉強をして給料を貰える意味がわからず先生に尋ねると、義務として本人の意思を無視して学ばせるのだから、当然のことだと言われました。
あまりに驚いていると、苦笑いと共に詳しい理由を教えて下さいました。
魔力が高い人ほど自由人の傾向が強く、自ら好きでもないことを学ぶ気がないそうです。
生涯『魔法の国』から出ないのであれば語学は必要ありません。
けれど、誰かは習得していないと外交が出来なくなってしまうし、国にもよりますが、魔力持ちに接待されないと不満を言う国もあるそうです。
私はいずれ外国のマナーや法律、歴史なども学ぶことになる様ですが、それらも外交にでも参加しない限り必要ありません。
余計な能力があると、仕事を任されて好きなことをしている時間が減るから嫌だと言うのが、この国の大半を占める考え方なのだそうです。
斬新過ぎて驚きました。
魔力の高い人は研究者気質の人が大半で、転生者の知識から様々な物を再現したり、新しい魔法の開発などで役には立っているそうですが、生活能力が皆無な人も多く、面倒を見るのが大変なのだそうです。
ハーシアの一族は、そんな中で魔力の高い人間が生まれやすいだけでなく、他に比べると協調性の高い人が多かったそうです。
言うことを聞かない魔法使いが多くいるこの国では、高い魔力でそれらの魔法使いを従える事が必要な時があり、それを自然に行っていたのがハーシアの一族でした。
それがいつからか、他国からは国の代表と思われるようになり、当たり前の様に外交で指名されるようになりました。
面倒だからとご先祖様はかなり抵抗したらしいのですが、多数決で押し切られ、国の代表として外交に参加することになりました。
興味のない語学やマナーを習得して、国の代表になっているハーシアの一族は、国一番のお人好しとして今では国で一番尊敬されているそうです。
うん、まぁ、皆が嫌がることをやっているので、そうなるのかな?
それで他国からは王族と呼ばれ、一応国内でもそう認識されています。
それを一生懸命支えてくれているのが、魔力なしの協調性のある人々。思っていた以上に不思議な国でした。
先生は魔力がありません。それで良いのかと聞くと、何だかんだで魔力持ちの人たちは憎めないし、放っておけないと言われました。彼女も随分なお人好しの様です。
若い頃に一念発起して他国に出てみたこともあるそうですが、身分制度がある国では平民は必死に働いても日々の生活で精一杯だったり、他にも色々残念な国を見ることで、『魔法の国』のことが更に大好きになって戻ってきたそうです。
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