第2話 一人目のルームメイト

「いやー、すまんすまん。こんな若くてスベスベな肌、久々に見たからさ。思わす撫で回したくなっちまったんだ」


 きゃ、お肌を褒められた! スベスベだって!


 いやいや、喜んでる場合じゃないって! これってどう考えても誘拐だよね? あたし、誘拐されちゃってるよね?


 でも、うちに身代金を払える財力があるとは思えないんだけど。でっかい壺も、フカフカのカーペットもないし。もしかして、誰かと間違えられてる?


「あのー」

「ん?」

「うち、お金ないですよ?」

「は?」


 言ってから、しまったと思った。残念ながら、あたしはお肌だけじゃなくてお口もスベスベだったらしい。身代金が期待できないとばれたら、殺されちゃうかもしれないじゃん!


「んー、何言ってるのかよく分かんないけど、とりあえず自己紹介しとこうか。オレはミラ・ジョボビッチだ」

「ぶっ」

 待って待って、頭の回転が追いつかない! この人の意図が全然わかんないんだけど!


「ん? どうした?」

「えっと、同姓同名……ですか?」

「ふーん? 知り合いに同姓同名がいるのか?」

 んん? 偽名ってわけでも、ふざけてるわけでもなさそうだ。映画とか見ない人なのかな。いや、だとしても名前ぐらい知ってそうなもんだけど……。


「えーっと……あ、はい、そんな感じです」

「そっか。まあ、オレのことはミラって呼んでくれ」

「はい、ミラさんですね」

「『さん』はいらない。ミラでいい」

「は、はい」


 えー、初対面のお姉さんをファーストネームで呼び捨てなんて、ハードル高いんですけど……。ザ・外国って感じ? とりあえず、心の中ではビッチさんと呼ぶことにしよう。人を勝手に裸にして撫で回す変態誘拐犯だし。


 そうだ、あたしまだ裸じゃん! 相手が同性だと分かってなんか安心しちゃってたけど、改めて意識すると超恥ずかしい!


 周囲を見回してみたけど、着てたはずのパジャマはどこにも見当たらない。逃亡を防ぐためなのかな。せめてパンツだけでも履きたいんだけど……。


 でも、よく見るとなんか不思議な部屋だね。どこもかしこもツルツルだ。寝てたときは気づかなかったけど、ベッドも枕もツルツル。そのツルツルなグレーのベッドがなぜか四つもあって、その真ん中にはバランスボールみたいな青いツルツルの球体が置かれている。


 向かい側のベッドに座ってるビッチさんも、全身タイツみたいな黒いツルツルの服を着ている。真っ白な床や壁もツルツル。スベスベなあたし以外、何もかもツルツルだ。


 うーん……なんか嫌な予感がしてきたよ。多分ここ、日本じゃないよね。こんな素材、見たことないもん。ビッチさんも明らかに外国人だし。初海外が誘拐って、なんか酷くない? いや、そりゃ初体験で襲われるのよりはましだけどさ。


「あのー、ここってどこですか? 日本じゃないですよね?」

「はあ?」

 思いっきり呆れられた。そりゃそうか。誘拐犯に居場所を聞いて答えてくれるわけがない——と思ったけど、予想に反してちゃんと答えてくれた。


「日本なわけねぇだろ。ムーン・ヘルに決まってるじゃねぇか」

「ムーン……ヘル……?」

 そんな国あったっけ? ヘルシンキ……は国じゃないよね?


「ん? ムーン・ヘルってのは、月にある刑務所だろ? ってか何? あんた、自分が刑務所に入ったこと知らないのか?」


 ……ふぇ? ツキって、空に浮かんでるあの月? ケイムショって、刑務所のこと? 嘘でしょ!?  昨日も普通に学校に通って、家で寝てたはずなのに、なんでそんなことになってるの!?

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