エルヴァラへの道
俺とヘイゼルは
いまある車両だと
うーん、帯に短し襷に長し。
「サイドカー付きのバイクとかは?」
「ノートンとBSA、ロイヤルエンフィールドがありますが……これで長距離移動は、なかなかの苦行です」
だよね。自分で言っといてなんだけど、そんなら車でいいじゃんと思う。
あーでもないこーでもないとDSDを検索していたヘイゼルが、急にパァッと笑顔になる。
「ミーチャさん、ウルフの
「おお、タイミング良いな」
新入荷というのはつまり、元いた世界で
「ロングボディの
「よし、じゃあそれを買おう」
程度はそれなりで、値段も
そろそろ飽和状態なので、アイルヘルンの金貨は
「こちらです」
「おお……」
なんかショートボディって、思った以上に小さいな。車体の横にスペアタイヤ付けるのはイギリス軍の伝統なのか。
「おお、ミーチャ。もう出掛けるのか?」
店の前に出した新しいランドローバーを見て、たまたま通りかかったティカ隊長が声を掛けてきた。彼女は転移魔法陣で向かうので、出発は会食当日になる。
「いや、明日の朝かな。新しい乗り物で、ゆっくり旅を楽しもうかと思ってる」
「そう上手くいくといいがな」
「やめて隊長。そういうこと言われるとトラブルを呼び込みそうだから」
笑うティカ隊長だが、さほど心配している風ではない。そういう俺もそれほど気にしてない。
ゲミュートリッヒからエルヴァラとの間に、さほどの危険があるとは思えん。みながみな友好的とまでは言わないが、敵対地域は含まれていない。魔物の数や脅威度も、要注意なのはアイルヘルン中央近くではなくゲミュートリッヒから西の外縁部だ。
「これは、前に乗せてもらった“らんどろーばー”の仲間だな? このキノコみたいのはなんだ?」
隊長はボンネットから
「ああ、それは
「しゅのーける?」
「河を渡るときなど、エンジンに水が入ると壊れてしまいますから、空気を
「なるほど、面白い発想だ」
ヘイゼルの捕捉説明に、ティカ隊長は感心した顔で頷く。あら、すんなり受け入れてる。
「あの長い方の“らんどろーばー”に付いてなかったのは?」
「あちらは砂漠の……熱くて水の少ない地方で使われていた車輌なんです」
「そうか。
「
少し話してわかったが、隊長もう車や内燃機関の基本構造は理解してる。というか、下手したら俺より詳しいかも。
特に頑張って勉強したとかではなく、ドワーフの鍛冶工房でエンジニア組の作業やら話し合いやらを覗いているうちに頭に入ったというから、さすがドワーフの理系脳というべきか。このひとマルチタスクにも程がある。
◇ ◇
「いってらっしゃいニャー♪」
「何かアれば、イつデも飛んデいくゾ。まあ、ミーチャたちを害スる者が、いルとは思エんが」
「お店のことは、ご心配なく」
「帰ってきたら、その“うるふ”も整備させて欲しい……」
翌朝、店番ガールズに見送られて、俺とヘイゼルはゲミュートリッヒを後にした。
「うっわ、これ運転すごい楽……」
「いままでは、車重のある大型車両ばかりでしたからね」
軽いというのが、これほど極端に加減速や操縦性を変えるとは思ってなかった。
「これは良いな。アイルヘルンの中心近くを通るなら、敵やら魔物が待ち受けてるってこともなさそうだし。これは快適な旅になりそうだ」
「……そう思いたいところですね」
ヘイゼルが苦笑しながら、フロントグラスの先を指す。
見ると、どんよりと黒い暗雲が、南東の地平線近くに広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます