鉄槌
「変なの」
上空から王城を見たナルエルの第一声が、それだった。
俺も同感ではある。そもそも、城っぽくない。なんというか……塔?
「見た目は
ヘイゼルの感想が冷静なのは、事前に敵の記憶から情報を得ていたせいだろう。だからこそ、迷わず王城だと特定できたわけだが。
そんなヘイゼルから保証されてもなお、ホントにこれか? という疑問は払拭されない。
某シンデレラ城みたいな、あんなんを漠然とイメージしていたのだ。そりゃ現役で稼働している防衛施設なんだから色味や構造はもうチョイ地味だろうな、くらいの予想はしていたけど。
無駄にデカいだけの四角い塔だとは思ってなかった。
この世界では驚くべき高層建築ということになるんだろうが……現代日本の高層ビル群を知っている俺からすると、妙にこじんまりして見える。
「あれ、高さどのくらい?」
「
……うん、やっぱりショボい。政令指定都市の県庁ってとこだな。我ながら夢がない表現だ。
「でも城ってくらいだから、防衛用の建物なんだよな?」
「王国は過去に侵攻を受けたことがない。だから、あれは王の威厳を示すためだけのもの」
「ナルエル、王国事情に詳しいのか?」
「マカに伝わる話だけ。でも、あの無益な物体を城と呼ぶ理由は、他に考えられない」
ドワーフとしての目利きなのか、その推測はなんとなくリアリティがあった。
防衛に不向きな王宮という矛盾も、自国向けの示威と考えれば理解はできる。
「上層と下層で、壁の意匠も、素材も違う。中層部の補強を合わせれば最低でも二回、建て増しされてる」
塔の幅は基部で三十メートル、先細りになった最上部は十メートルほどか。よくよく見れば確かに石壁の色が段階的に違っていた。
「迎撃機能は?」
「中層部の張り出しに魔導防壁。攻撃能力は、組み込んでも意味がない」
首都に敵軍が入った場合、その時点で敗北が確定したようなもんなので、城に迎撃機能などあっても王都住民に被害が出るだけだそうな。
迎撃機能を組み込むとしたら、城ではなく王都を囲む城壁の防衛塔だと教えられた。
「俺たちは、攻撃されなかったけど」
「“りんくす”を射落とすには、上級以上の攻撃魔法が必要。そんな宮廷魔導師レベルの魔法が必要な敵は、想定しない」
「へえ」
王国は攻め込んでくるような仮想敵国もなく、魔物の発生もオーク程度が上限。しかもエーデルバーデンなどの辺境だけなので、国の中心部にはほぼ現れない。
ゲミュートリッヒに慣れた俺たちにから見れば、ずいぶんと
「つかまってください!」
思った側からヘイゼルの警告。機体が急上昇して飛来した鏃を躱す。魔法への対処しか考えてなかったけど、そりゃ物理攻撃くらいはしてくるか。
攻撃は防衛塔からではなく、地上の兵士によるものだ。青い旗を掲げた完全武装の兵隊が、百を切るくらい。距離は四十メートル以上あって大きな問題はなさそうだが、敵を残しておく意味はない。
「ヘイゼル、左旋回を頼む!」
「了解です」
反撃のため後部銃架の汎用機関銃から地上の集団を薙ぎ払う。大楯装備の歩兵もいたが、小銃弾を防ぐほどではなかったらしく転がって動かなくなった。
「あれも王国軍の兵ニャ?」
「青い旗は侯爵領軍。宰相派の主力ですね」
「それじゃ、いま宰相が乗り込んでるのか?」
王城に機首を向けたヘイゼルがクスリと笑う。
「
グングン迫ってくる王城は、魔導防壁を起動させたらしく壁面に沿って青白い魔力光を瞬かせる。身構えている巨漢を殴りつけるようなものだ。
相手は、殴り返してこない。
「ミーチャさん、エルミちゃんマチルダちゃん、ミサイル発射します。扉から離れてくださいね」
「了解」
こちらの安全を確認して、操縦席のふたりは攻撃態勢に入る。
「ナルエルちゃん、好きに撃って良いですよ」
「わかった!」
妙に弾んだ声で、ドワーフ娘はヘイゼルに答える。その直後、機体側部のランチャーから最初の
細いワイヤを引いたミサイルが中層階に吸い込まれると、すぐに大きな爆煙が上がった。青白い光の粒子が激しく飛び散り、外壁がバラバラと崩れ落ちてゆく。
「すごい」
ナルエルのうっとりした声がヘッドセットから聞こえてきて苦笑する。あいつ、本気で恍惚としてる。破壊願望じゃないな。復讐とかでもない。単にテクノロジーが到達する破壊の規模と効率に感動しているんだ。
エンジニアの性癖ともいえる。
二発目のミサイルが発射され、城の上層部に刺さる。今度は魔導防壁が機能しなかったようだ。外壁の破壊が、初弾より大きく深い。煙も崩落も止まらず、周辺まで連鎖的に崩れ始めている。
「すごい、本当に、すごい」
王のいる場所をピンポイントで砲撃するのかと思ったけど。ナルエルの狙いは、それどころじゃないな。
八十メートル級の城が震え、最後の足掻きみたいに青白い魔力光を散らす。それで強度的な限界を超えたのだろう。
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