集うガールズ

 とりあえずティカ隊長と話し合った結果、鬼才ドワーフのナルエルはうちで引き取ることになった。

 なんでか女の子がどんどん増えてくな。みんな良い子たちではあるが、良くも悪くもハーレムとかいう雰囲気ではない。そういうのは望んでもいないけど。ホントに、負け惜しみとかじゃないけど。うん。


 無茶な長旅をしてきたようなので、ナルエルは風呂に入れて着替えさせ、食事を出す。地物野菜とヤギミルクのクリームシチューに、銀鱒ギンマスのムニエルを挟んだサンドウィッチ。うちの夕食の残りだけど、店でも出してる人気メニューだ。


「……美味。これは、凄い。……初めての味」

「そっか。好きなだけ食ってくれ。お代わりもある」


 小柄なナルエルは、空腹だったのか旺盛な食欲でモリモリと平らげる。

 食いっぷりは良いが、食べ方はきれいだ。育ちが良いんだろうな。貧富や貴賎の話ではなく、親の食育がしっかりしてる感じ。


「お茶を煎れますね」


 ヘイゼルが食後に紅茶と茶菓子を出してくれた。紫パッケージのチョコを口にして、ナルエルは甘さに驚きつつ頬を緩める。美味いよな、キャドバリー。

 落ち着いてきたところで、エルミたちと出会うまでの経緯を聞く。


「さっき衛兵隊長が見せた金属板、あれの同期端末かたわれを調べるようにオルークファに言われた。魔力を通して接続したら、ここが見えた。すぐに衛兵隊長が遮断したみたいだけど」

「え? ちょ……まあ、いいや。それで?」

「そのときの光景が、あまりにも面白そうで我慢できなくなった。まっすぐ走ってきたら、マチルダとエルミが迎えにきてくれた」


 説明は、一瞬で終わったな。

 エルミたちはおかしな気配を感じて飛び立ったというから、“迎撃に向かった”という方が正しい気もする。なんにせよ、そこで抱っこ要撃機なふたりと意気投合していまに至るわけだ。


「……なあ、ナルエルが接続したのって、今日の夕方近くじゃないか?」

「そう」

「タキステナって、サーエルバンから約二百キロ百二十哩くらいあるって聞いてたんだけど」

「そう。ゲミュートリッヒだと、二百四十キロ百五十哩くらい」

六時間三刻くらいで、ここまで来たのか? どうやって?」


 ナルエルは不思議そうに首を傾げる。俺の方が常識を知らない感じのリアクションが腑に落ちない。まさかとは思うが……


「走って」

「だよな。話の流れで乗り物の存在は聞いてないし」


 平均しても時速四十キロ。元いた世界じゃ短距離走者のトップスピードだ。


「空飛ぶ魔道具を使ったとかじゃなく?」

「まだ実用化に至っていない」


 あるにはあるのね。とりあえず今回は自分の足で、一直線にやって来たようだ。道もろくにないはずのルートをなのに。たぶんこの子の移動速度、平地の原付より速い。

 それにしても、情熱と好奇心に駆られた考えなしの行動が、すごくドワーフっぽいな。


「ひとつ、伝えたいことがある」


 ナルエルは俺たちに向き直ると、テーブルの端に置かれた金属の玉を指す。例の金属板を隊長が丸めたものだ。受け取ってはみたものの、使い道もないのでそのままにしてある。


「あそこに刻まれていた魔法陣は、わたしが書いたものが原型。でも権利放棄して公開情報にしたから、あの金属板を作ったのは別の人間。作らせたのはオルークファ。残念ながら、わたしに責任は取れない」

「いや、こちらの被害は特にないけど」

「違う。あのブサイクな設計と低能じみた運用について」

「……こだわりポイントはそこなのね」


 ナルエル頭を下げたまま、動かなくなってしまった。その顔を覗き込んで、ヘイゼルが笑った。


「寝ちゃってます」


◇ ◇


 さすがにスーパードワーフでも、二百キロ以上を走り切ったら疲れるんだろう。

 さて、ナルエルをどこに寝かせるかだな。いま二階に空いてる部屋はない。部屋自体が、ふたりで使うにはちょっと狭い。


「ミーチャさん、前に調達した物資のなかに組み立て式のベッドがありましたよ。予備の寝具も揃っています」

「おっけ。じゃあ、それを……」


 マチルダとエルミが、ウキウキ顔で身を乗り出してくる。


「そレを置くナら、もちろン、ワタシたちの部屋ダな!」

「間の壁を壊すのも良いと思うのニャ♪」


 ガールズ続き部屋にするのか。他人事ながら楽しそうだけど、町から借りてる家なんで改装するなら許可を取ろう。それ以前に、やりくりする方法はある。


「俺が一階の奥の部屋に移動する方が良くないか? ほら、倉庫代わりにしてる広いとこ」

「店主が倉庫で寝るんですか? でしたら、メイドのわたしが」

「いや、俺以外は女の子ばっかりなんだから、そこはヘイゼルも上階だろ」


 ヘイゼルを説得して、二階の俺の寝室をナルエル用にしてもらう。元々、寝るだけの部屋なので私物はほとんどない。シーツや寝具は新品にして、俺の使っていたものは一階の空き部屋に移す。

 店舗脇の小部屋には酒類を置いているが、一階奥の空き部屋には不要な家具や衣類などが木箱や段ボール箱で積んであったのだが。


「キレイに片付いてるじゃん」

「置いてあった荷物は、DSDの一時保管区画ストレージに戻しました。掃除は済ませています」

「助かる」


 出してもらったベッドは、組み立て式と言っても折り畳みとかではなく木製のしっかりしたものだった。二階に造り付けのベッドと遜色ない。


「そんじゃ、今後の話は明日以降にしようか。おやすみ」

「おやすみなさい」


 部屋の隅に置かれたベッドに腰掛ける。今度の部屋は十畳近く、前の寝室の倍はある。ベッド以外に物もないので、実際以上に広く感じる。ヘイゼルが立ち去り独りになると、ちょっとばかり寂しい感じ。

 いい歳こいたおっさんが何を言っているんだと自嘲しながら、俺は眠りについた。

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