アーティラリーズ
「照準、右二十二、仰角三十五!」
「右二十二ッ、仰角三十五ぉ!」
「応ッ!」
ヘイゼルは手元で光るパネルを確認しながら、砲兵ドワーフたちに指示を伝えてゆく。
触るどころか見るのも初めてだろうに、ドワーフの爺ちゃんたちはすごい手際の良さだ。
とりあえず俺も横に立ってはいるものの、特に仕事はない。うん、役立たず感。
「照準よしッ!」
「装填開始、弾種・榴弾! 装薬2号!」
「弾種・榴弾ッ! 装薬2号ッ!」
「応ッ!」
ドワーフの爺ちゃん砲兵たちが砲尾を開けた砲身にまずは砲弾を押し込み、続いて金属薬莢で2号装薬を込める。三種類ある装薬のうち中間の威力を持ったものだそうな。別体式の分離薬莢砲は装填が面倒な印象だけど、細かい調整が可能な利点はある。
理屈はともかく、利便性を二の次に考えるのが頑固なイギリス人ぽい。
「装填よしッ!」
調達したのは
「マチルダたち、ずいぶん早いな。もう敵地上空か?」
「まだですが、あと数分で到着します」
ヘイゼルが指したパネルを見ると、赤い光点が地図上を高速移動していた。
「マチルダちゃん……巡航速度でも時速
軽飛行機というのは、いわゆるセスナ機だ。マチルダの全力飛行がどのくらい速いのか不明だが、おそらくこの世界で彼女に追いつける移動物体はワイバーンくらいだろう。
「……
「敵を発見した、けど脅威じゃない?」
ヘイゼルの指が示す先。マチルダが旋回しているのはギリギリ表示圏外だが、等高線の端が見えている。
「山岳部の、
「うん」
「機動が不規則に振れてますね。攻撃を受けているか、稜線に誘い出そうとしているか」
見えない彼方の光景を推測し脳裏に浮かべながら、俺たちは砲撃の指示を待つ。
旋回する光点の軌道が、一度大きく外れる。そのまま離脱するかと思われたところで反転、
「照準、右二度修正!」
「右二度修正ッ!」
「応ッ!」
「照準修正よしッ!」
「発射用意!」
「発射用意よし!」
まずは一周。ドワーフたちも町の住民も、固唾を飲んで身構えるなかでヘイゼルがパネルの表示を見守る。
挙げられた手が、北東目掛けて振り下ろされた。
「
◇ ◇
「エルミ! その先に、反応があル!」
「マチルダちゃん、もう少し左ニャ!」
ゲミュートリッヒから真っ直ぐに飛んできたふたりは、早くも敵の一団を発見していた。
マチルダが魔力感知で大まかな位置を把握し、エルミが視力と勘で細かい状態を特定する。急勾配の山肌に張り付いた敵を見て、狩り出すか釣り出すかで迷いがあった。
「岩陰に隠れちゃったのニャ……!」
「どうスる、
ふたりとも、“25ぱうんだー”とかいう新兵器の性能は、ヘイゼルから説明されたところで全てを理解はできなかった。それでも、それがステンやブレン、ボーイス対戦車ライフルと同一線上にあるものだと把握していた。
つまり、いかに威力があろうとゲミュートリッヒから見える位置に置かなければ効果が薄いこともだ。
「まず、右回りニャ!」
「なに⁉︎ ……イや、なるホど。わかっタ!」
いきなり“脅威なし”でヘイゼルに通じるかは賭けだが、ふたりとも、わかってもらえる気はしていた。
旋回しながら、エルミが
「いイぞ! 致命傷にはナらなくテも、集団の足止めにはなル!」
「猟兵は、怪我人のために足は止めないと思うニャ」
敵はすぐ遮蔽の陰に逃げ込み、攻撃か脱出の機会を窺っているのがわかる。
「
「わかっタ!」
マチルダは旋回しながら小刻みに不規則機動を行い、敵の注意と攻撃を引き付ける。
物陰から露出した敵をエルミがステンガンで撃つものの、さほどのダメージは与えられない。倒すのが目的ではないため、気にせず
「次に攻撃を受けタら、少しだけ喰ラうゾ」
「マチルダちゃん、気を付けるニャ?」
「任せてオけ」
負傷した兵に接近してゆくマチルダ。速度を落としたのを油断と見たか、離れた岩陰から続けざまに矢が放たれる。最初は矢は避けて、回避した方向に飛んできた数本を背中で受ける。
「ぎゃあアぁーッ、やーラーれーター!」
マチルダはフラフラとよろめきながら上昇し、目標地点となっていた稜線に向かう。背後に離れてゆく北東側斜面から、歓声と鋭い命令が聞こえてきた。
抱えられた身体を捻って傷の処置をしていたエルミが、顔を上げて赤い顔のマチルダを見る。
「……マチルダちゃん、何やらせてもスゴいのに演技はヘタクソなのニャ」
「そういうナ、誰でも苦手なコとくらいアる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます