掃討
「セバルさん、衛兵隊の生き残りはいますかね?」
「あまり期待できんと思うな。南側の衛兵詰所から非常警報が鳴り出して、北東と北西からも鳴り出したところで、急に静かになった。そこで制圧されたんだろう」
僧兵たちから町の封鎖が通告されてすぐ、サーベイさんは商館での籠城を決めたという。
その判断は的確だと思うけれども、誰にでもできることではない。生活に困っている近隣住人を受け入れているというから、持つ者なりの身の振り方というのもあるのだろう。
「それじゃ、ちょっと行ってきます」
「ミーチャ、ティカ。ヘイゼルもだ」
ランドローバーに戻った俺たちは、セバルさんとダエルさんに呼び止められる。
「ありがとな。来てくれて、嬉しかった」
「たまたま、ですよ。上手くいくかどうかも、まだわからないし」
「それでも、さ」
俺は笑顔で手を振って車を出す。
中央広場まで南北に伸びる通りに住人の姿はいない。みんな避難しているのだろうと、願望込みで思う。
広場の外周を回り込んで北西門に向かう通りを折れる。突き当たり近くに商業ギルド会館が見える。
「ミーチャさん、赤い煉瓦の建物前で停車してください」
「了解」
会館までは百メートルほどか。さらにその奥に町の外壁と、封鎖された北西門が見える。
門の城壁にいた人影が、銃弾を受けて破片を飛び散らせながら倒れた。
「北西門、
その銃声を聞きつけたか、会館の正面出口から飛び出してきた僧兵ふたりがヘイゼルの
「
「わかっ、……え?」
「ヘイゼル、それ同じだ。少なくとも俺たちには同じに聞こえる」
我らがポンコツメイドは銀のツインテを振って首を傾げたところで英国と俗世の
「そこに
「
ドゴドゴンと腹に響く発砲音とともに、12.7x99ミリ弾が建物に吸い込まれてゆく。被弾した二階手前側の石壁が点々と粉砕されて吹き飛び、左右に掃射すると周辺の壁がパラパラと崩れ落ちた。
「ちょびっと過剰火力な気がするけど、あれ建物崩れたりしないか?」
「爆発力がない弾頭ですから、梁や柱にまでダメージは通りませんよ」
「……ホントに?」
まあ、大丈夫……なのかな。町を奪還するためだから、少しくらい石壁を壊すのは許容してもらおう。
二、三十発の重機関銃弾を撃ち込んだところで、ヘイゼルは手を上げてティカ隊長に射撃を停止させる。
「ミーチャさん、赤い看板のある店の辺りまで前進してください」
「了解」
攻撃力は凄いものの、ほぼ剥き身の車輌なので遮蔽を選んで射界を確保する。
「ティカさん、ミーチャさん。二階で生き残りが攻撃魔法の詠唱中です。猶予は十秒前後。ティカさんは大きく崩れた壁の左端に攻撃集中、ミーチャさんは合図で斜め向かいの白い建物前まで移動してください」
「了解」
「わかった」
「攻撃開始です!」
大きく仰角を取った汎用機関銃と重機関銃が射撃を開始する。崩れた壁の左に銃弾がバラ撒かれて、青白い光が弾けた。床が崩れたらしく石材が砕けながらこぼれ落ち、それが次第に増え始める。
「ミーチャさん、いまです!」
通りの斜め前までランドローバーを急発進したところで、崩落しかけた建物から炎弾が真っ直ぐ打ち出された。移動中にも射撃は続いていて、転げ落ちてゆく人影が空中で重機関銃弾を受け血飛沫と肉片を弾けさせるのが見えた。
「……やった、わあァッ⁉︎」
その間に飛来した攻撃魔法が背後に着弾する。店舗が爆散して、想像以上の威力に肝を冷やした。
「かなりの高位魔導師だったようだな。助祭がいると言っていたが、それか?」
「おそらく、凄腕の僧兵でしょう。助祭というのは政治的地位としても魔導師としても、比較的凡庸な人間の就くポジションのようですから」
ティカ隊長とヘイゼルは慌てた様子もなく冷静に分析している。剥き出しの運転席で反撃する武器もない俺は落ち着かないことこの上ない。
「もう大きな脅威はありません。建物の前まで移動……あ」
「“あ”って、どうした?」
「……移動するのは、止めておきましょう」
ヘイゼルの視線を追って見上げると、商業ギルド会館の二階がパラパラと崩れ始め、建物全体がゆっくりと傾いてゆくところだった。
「
二階部分がグチャッと潰れ、傾いた三階から五階部分が周囲に瓦礫を撒き散らしながら崩壊してゆく。
俺とティカ隊長が目を向けると、ヘイゼルはフニャッと笑いを浮かべて両手を広げた。
「
「「いやいやいやいや!」」
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