狼
「戻るって……馬で?」
「危ないから、歩きにゃ。二日もあれば着くにゃ」
馬が危ないから歩くって、頭ではわかるけど違和感がすごいな。彼らネコ獣人の足なら現地で二、三日の情報収集を行ったとしても、一週間くらいで戻ってこれるという。
「……それは、スーリャたちなら当然できるんだろうとは思うけどさ」
「そうです。わたしたちにも送り迎えと支援くらいはさせてください」
「にゃ?」
少し待ってもらって、新規調達する車輌を考える。ラム・カンガルーは頼りになる重装甲だけど足が遅すぎるからな。最低でも四人プラス俺とヘイゼルの六人。必要なのは速度と火力と隠密性。
「モーリスC8でも良いんだけどなあ……」
「もう少し速度が必要ですか?」
俺たちが車輛をあれこれ吟味していると、マドフ爺ちゃんが声を掛けてきた。
「そうじゃミーチャ、“さらせん”は、もう使えんのか?」
「ああ、魔導爆裂球とかいうので足回りが壊れちゃったんでな」
「そっか、いつかあいつに乗るのが夢だったんだけどな……」
ドワーフの若手が残念そうに言う。それは爺ちゃんたちもだけど、最も残念そうなのがヒゲモジャのパーミルさん。ゲミュートリッヒで鍛冶屋を営むマッチョな中年ドワーフだ。
俺たちがゲミュートリッヒに加わってから、ずっと興味はあったものの武器の製作や整備で忙しくて“魔道具”にあまり触れられず、ようやく時間が取れそうとなったところで虎の子の装輪装甲車が動かなくなってしまったのだ。
「わしらに修復できんもんかな。せめて、見せてもらうことはできんか?」
「いいけど、どこか置くところはある?」
「鍛冶工房を広げて、デカい倉庫にしたんじゃ。そこなら雨風を凌げるし、分解整備も問題ないぞ」
すぐ近くだというので行ってみると、町の西端にあるそこは小さめの体育館くらいの建物だった。倉庫の外壁は木造で、床はコンクリート張り。だだっ広いフロアの端の方に、整備され磨かれたJCBの
「そういや、あの重機は任せてたんだっけ」
「はい。内燃機関と車輌の基本的な構造と整備方法はお伝えして、工具と油脂類もお渡ししています」
「それはすごい。遠征に使わない分の車輛も任せて良いんじゃないかな」
「そうですね。問題ないと思います」
ヘイゼルに頼んで、倉庫内に装甲兵員輸送車を並べてもらう。六輪式のサラセンと、牽引トラックのモーリスC8を二台。
バイクは迷ったけど、いざというときにために持っておこう。装軌式のラム・カンガルーもだ。彼らは、まだ見てもいないしな。
「サラセンの足回りは補修部品がDSDに出ていますが、購入しましょうか」
「お願いしようかな。あと、不在時に武器を預けられるようにガンロッカーみたいなものがあれば、それも」
「鍵はどなたに?」
「ティカ隊長と、マドフ爺ちゃんにひとつずつ」
ドワーフの若手に隊長を呼んでもらって、倉庫の壁際にガンロッカーと
引き渡すのはリー・エンフィールド小銃が六挺と、ブレン軽機関銃六挺、サラセンの車載機銃としてブレンガン一挺、ヴィッカース重機関銃が一挺だ。
弾薬は.303ブリティッシュを、とりあえず弾薬箱に入ったものと弾帯に装着したものと合わせて約二千発。
ボーイズ対戦車ライフルと2ポンド砲は、俺とヘイゼルしか扱っていないので除外する。
「どうしたミーチャ、こんなときに荷下ろしか?」
「おうティカ隊長。俺たちが不在の間、武器と車輛はティカ隊長とマドフ爺ちゃんで管理してくれるかな」
「……わかった。出掛ける先は、エーデルバーデンか?」
さっきスーリャが思い詰めた顔をしていたことで察したんだろう。俺は頷くだけで、ロッカーの鍵束を渡す。ふたつあるキーリングのひとつはマドフ爺ちゃんだ。
「スーリャ」
「はいにゃ」
「出発は明日にしよう。邪魔が入らなければ、半日も掛からないはずだ」
「助かるにゃ」
「今夜はよく食べて、よく休んでくれよ。明日朝、夜が明けたら南門に集合だ」
店まで歩いて戻りながら、ヘイゼルに見せてもらった在庫車輛のなかでどれが良いかを考える。
ラム・カンガルー購入後でも残高は二億円近い。予算に問題はないけど、ここで無尽蔵に使うのも違う気がする。
おそらく、だけど。この後にもっと火力や戦力を必要とするときが来る気がしているからだ。
店の前で肩の力を抜いた俺に、ヘイゼルが声を掛けてくる。
「決まりましたか」
そうだな。気合入れて張り込むのは、いざってときでいい。
「エーデルバーデンへの行き来なら、ランドローバーで良いんじゃないかと思ってる」
それを聞いたヘイゼルは例によって例の如く、無垢なようなそうじゃないような輝く笑みを浮かべるのだった。
「
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