悪意の同調者

「……なッ、なんだ、いまのは」


「魔力の反応も、魔力光も……」


 弾倉を交換して、門の奥でボソボソ言ってる奴らに目を向ける。矢でも射ってきたら殺すつもりでいたが、兵士たちは皆それぞれ怯え切った顔でこちらを見ているだけだ。


 門前に残っていたゴブリンは興奮状態で、こちらに気付いていない。セミオートで狙って、頭を撃ち抜いて殺す。

 射角を考えないと、弾丸が木柵を撃ち抜いて内部の兵士たちにも被害が出かねない。でも正直に言えば、あいつらに多少の被害が出ようと知ったこっちゃないと、思い始めていた。


「おい、まだ門を開ける気にならねえか? これでも死体が足りないなら、作ってやってもいいぞ」


「なッ、よせ!」


 入り口を守っていた兵士たちに銃口を向けると、慌てて木の門を開け始めた。奥にいた連中など、どんだけ怯えたのか物陰に隠れてしまっている。

 兵士たちは俺とエルミを招き入れはしたが、俺を見てあからさまに警戒している。表立って敵対してこないのは、銃の威力を見てしまったからだろう。


「おいエルミ! そいつは何者だ⁉︎」


 その言い方にはさすがにカチンときて、俺は兵士たちをめつける。


「……なあ、おい。他人ひとの名を訊くンなら、まずは手前ぇが名乗るもんだろ? あン⁉︎」


 おかしな格好でおかしな武器を使った余所者よそものとなれば、警戒するの自体はわかる。

 でも、こいつらの態度は、そんなんじゃないよな。自分たちが撃たれるかもと思ってる時点で、何がしかの敵意は持ってるわけだし。


 こちとら無関係なのにタマ代まで持たされてんだ。ケンカ売られたら熨斗つけて返す。


「それよりまず、魔物に襲われてるとこ助けてもらった礼が先なんじゃねえのか? なあ⁉︎」


 俺がさらに凄むと、男たちは怒りと憎しみに満ちた目をしつつ視線を泳がせる。


 魔物の大発生まで作為的なものかは不明だけど、この町の人間は、それが獣人や亜人たちを排除する好機と見たんじゃないかと思う。


「みんな、無事ニャ⁉︎」


 こっちの諍いなど気にも留めず門内に駆け込んでいったエルミは、負傷して倒れているひとたちに治癒魔法を掛けて回る。


「痛いところはないのニャ⁉︎」


「あ、ああ」


「……助かった。……ありがとう」


 意識を取り戻した彼らは、それぞれがネコ耳娘の顔を見て驚いた表情になる。

 そこには、なんとなく後ろめたさのようなものがあるように感じられた。


 それで、わかった。やっぱりこいつらは亜人を……少なくともエルミを、見殺しにしたんだ。山のなかで見た男女を思い出す。武器を持っていたのに、連れ去られるエルミを助けようともしなかった。


「あ、あの……」


 見覚えのある男女が、ションボリした顔でエルミの前に立つ。山のなかで見た男女だ。武器もそのまま、でも服は小綺麗なものに変わっている。

 非常時だっていうのに、ずいぶんと余裕のあることだ。


「……ご、ごめん、エルミ」


「ニャ?」


「あ……あのとき、ぼくらを治療してくれたせいで、エルミは……ゴブリンに、連れてかれて」


「うん。わたしたちのせいで、エルミは、殺されるところだったんでしょ?」


「マルクとシーラは悪くないニャ。ウチが治癒に夢中で、周りが見えてなかったからニャ」


 男女の目が一瞬お互いを見て、小馬鹿にしたような笑みを浮かべた……ように感じた。


 たしかに、エルミは周りが見えてない。さらわれたときだけじゃない。いまもだ。


「それより、他の怪我人はどこニャ?」


 マルクとシーラの目が泳ぐ。あんまり、聞きたくない話になる気がした。

 倒れていた連中は兵士でこそないようだが、みな人間だ。見たところ、獣人はひとりもない。


「に、人間の……冒険者たちは、教会で治療を、受けてる」


「獣人は? エルフや、ドワーフは? 教会に、入れてもらってないのニャ?」


「……あいつらは、その……カネが、ないから」


 ビクリと、エルミの肩が震えた。


「カネ⁉︎ 町を守るために怪我したのに、カネ取るのニャ⁉︎」


「……だって教会が、そんなのはギルドの責任だって……」


「亜人の冒険者だけが、治癒を受けられてないのニャ?」


「ギルドで、手当ては受けてる……と、思う」


 マルクというらしい男の方が俯き、モニョモニョと漏らす。たぶん、顔を出してもいないんだろう。

 そら行けないわな。亜人たちからしたら、自分らの命綱を断ち切った主犯だ。


「で、でも……ほら、非常事態だったから、さ」


 その非常事態で、町の防衛がどういう状況だったのかは部外者の俺でもわかる。むしろ、来てみて最初の印象が裏付けられただけだ。

 こいつら……この町の人間たちは、亜人を犠牲にして危機を生き延びた。もしくは、亜人を殺すために魔物の襲撃を利用した。


「よお、マルクとシーラ、だっけ。会うのは二度目だな」


 俺はふたりを見て笑う。彼らは怪訝そうな顔をこちらに向け、ビクリと怯えた表情になった。

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