第二章
2-1
次の日は日曜日で、学校は休みだ。
午前中のヒーロー番組は録画予約してあるので、安心してねぼうができる。ねたいだけねて、リビングに出てみたら、お母さんしかいなかった。
「おはよう」
「おはよう。ご飯、あるわよ」
「みんなは?」
「お父さんの部屋。なんか楽しそうよ」
「ふうん。じゃあ、あとでいってみる」
日曜日のぼくの朝は、いつもこのくらいの時間なので、お母さんもわかっていて冷めてもおいしい朝ごはんを用意してくれている。それをささっと食べてしまって、ぼくはお父さんの部屋に行った。
ノックをしたらへんじがあったので、中に入る。
お父さんの部屋は地下にある。半分は倉庫で、残りの半分がお父さんの仕事部屋だ。倉庫といっても、エアコンはあるし、小さなまどから光もはいるので、意外に快適。お父さんは、休みの日でも、この部屋にこもっていることが多い。
お父さんの机のまわりに、みんなは集まっていた。ぼくの気配に振り向いて、お父さんは小さなブロックを見せた。ロゴスブロックの半分くらいの大きさで、サイコロのような立方体だ。それとブロックみたいなデコボコがない。
「マイティ・キューブ。マイキューだ」
お父さんは言った。
「これの改造をしていたんだ」
「お父さまの発明は、すごいわね。カイキ!」
プリンセスが言った。心のそこから、お父さんのことをほめているようだった。
ぼくはなんだか、不思議なきもちになった。
ぼくのお父さんは、玩具メーカーで玩具を作る仕事をしている。と言っても、工場ではなくて、新しい玩具をかんがえたりする仕事らしい。発明……なのかなあ。たまに特許をとったって話したりしているから、発明をしているのかもしれない。本物の博士なのは本当だし。でも研究所ではないって言ってた。すくなくとも「研究なんかじゃないよ」と、お父さんは言っていた。
お父さんの仕事について話すと、友達はみんなわらう。子供の玩具を作っているって? 大人なのに? 信じられない!
ヒガンはちがった。ヒガンは笑わなかった。お父さん、すごいな! ってほめてくれた。
ロゴスブロックで対決したりしているけれど、そういうことがあったから、ぼくはヒガンと一緒にいる。
お父さんは、こっちに来いと手招きをした。
「マイキューは新作だ。こいつは、ちょっとすごい。マイキューどうしは磁石の力でくっつくんだ。しかもくっつく相手を、自在にコントロールできる。マイキューには全部ちがう番号がついていて、どのマイキューとどのマイキューがどういう風にくっついているのかが、全部わかる。このコンピュータでね」
机のうえのパソコンには、ブロックがつながっている画面がうつっていた。
「どんな形でも自在につくれるのさ。家だって作れるかもしれない」
そう言って、プリンセスと相談を始めた。
「ジャングーは、何しているの?」
「わたしは見ているだけです」
「ふうん」
「ジャングー、あっち行っていていいわよ」
「わかりました、プリンセス」
「ぼくは?」
「カイキ? どちらでも? ところで、お父さま……」
どちらでもって……おいてきぼりだな。
ぼくはジャングーと一緒に、お父さんの部屋を出た。
「ジャングーも大変だね」
「わたしは、プリンセスのおおせのままに行動するだけです」
「ロボットだから?」
「プリンセスを守るのが仕事ですから」
「やっぱり大変だ」
「おそれいります」
リビングに戻ったら、お母さんが仕事をしていた。お父さんもお母さんも、いつも何かしている。ぼーっとしていることがない。
お母さんがリビングのテーブルでパソコンに向かっていたので、何をしているのか聞いたら、俳句を作っているのだという。お母さんは俳句やエッセイの公募に応募するのが趣味だ。たまに賞をもらったりもしているけれど、賞品は図書カードとか商品券だったりする。トロフィーをもらったりはしていない。だけど本人はちょっとした品物ってのがうれしいのだそうだ。
「母上さま、ハイクとはなんですか?」
ジャングーの質問に、お母さんは楽しそうに答えた。
「俳句は世界で一番みじかい詩のことよ。五・七・五のリズムで、季節の言葉をいれれば、あとは何を書いてもいいの」
「世界で一番ですか。それはすばらしい」
「最近は、英語を使う人たちのあいだでも、俳句がはやっているのよ」
「すばらしいです」
ジャングーとお母さんは、なぜか俳句のことで意気投合してしまい、一緒にごにょごにょと考えはじめてしまった。こうなると、ぼくは居場所がない。しょうがないので自分の部屋にもどり、ロゴスブロックの新作のことを考えることにした。
こうしてみると、バラバラだな、ぼくのうち。
そろそろお昼ごはんかなあ、などと思いながら、リビングに出てみたら、お母さんとジャングーが仲良さそうにキッチンでお昼の用意をしていた。
なんか、不思議な光景だなあ。
ぼくのロゴスブロック制作のほうは、さっぱりだった。どうにもイメージがわいてこない。ヒガンに言われた「動かない」というのが、引っかかっているみたいだ。ロゴスブロックには、モーターのオプションみたいなのがなくて、実際に動く作品を作ることはできない。だけど、ヒガンのドラゴンは動いているかのように見えた。くやしい、と思う。
動き……動き、かあ……。
キッチンでは、順調にお昼ごはんが作られていた。ときおり、俳句を口にするお母さんの声が聞こえてくる。
「昼になり〜 腹減りどもが〜 飯よこせ〜」
「母上さま、その俳句の季語は何でしょうか」
「一年中よ。お腹がへった子供たちは、一年中ごはんごはんって騒いでいるのよ」
「なるほど」
ジャングーは、まるでお母さんの家来のようにおとなしく納得した。
自分のお母さんがロボットと一緒にお昼ご飯を作っているというのは、とっても奇妙なことだと思うのだけれど、一方で不思議としっくりくるような気がしていて、もしかしてジャングーはプリンセスの護衛だけでなく、家事や身の回りの世話全般をサポートするようなロボットなんじゃないかと思ったりもする。
プリンセスは自分のお父さんとお母さんとどういう生活をしていたのだろう。昨日の話で心配していることはわかったし、プリンセスを逃がそうとしたくらいだから大切に思っているのだろう。でもジャングーがプリンセスのお世話をするロボットだとしたら、じつはプリンセスと親——つまり王様とお妃様との関係は、ぼくが想像している親子の関係とは違うのかもしれない。
プリンセスがどことなく気楽そうに見えるのも不思議だし。
「カイキ、お父さんたち、呼んできて。お昼ごはんができたって」
「うん」
仕事部屋に言って聞いてみると、こっちで食べるとのこと。それをお母さんにつたえると、「しょうがないわねえ」と言いながら、ふたりぶんのおぼんを用意してくれた。ぼくは仕事部屋を2往復して食事をはこんだ。お父さんが仕事部屋で食事をとるのは、めずらしいことではない。
けっきょくぼくは、夕ごはんも部屋に運ぶことになった。
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