第16話 赤ワインには血を

ーside さや ー


「あ、寝た」


ちょっと吸いすぎちゃった。

でも、周が悪い。

雫さんに抱きつかれて鼻をのばしてたから。


自分の膝を枕にして周の頭を乗せる。

周の頬をつつく。

膝枕する側ってこんな景色なんだ。

悪くない。


でも、膝枕してもらう方が好き

周が頭撫でてくれるから。

いつものお返しに周の頭を撫でる。周の髪も結構サラサラ触ってて気持ちい。


ガチャ


「おや?周君はおやすみかな?いや、血吸いすぎちゃったかな?」


雫さんは部屋の匂いをクンクンと嗅いだ。


「結構おいしそうな香りだね」


舌で唇をペロッと舐めた。


「あげない」


「えーさやちゃん。けちだなー」


雫さんは匂いでおいしいかわかるらしい。

ごはんみたい。


「ちょっとだけでいいから指でもいいからさー」


「だーめ」


念を押しておく。雫さんはほしいものには容赦ない。


「ふーん。じゃあ、花音ちゃんに血もらっちゃおっかなー。処女の血なんて久しぶりだなー」


雫さんに残念なお知らせを告げる。


「花音は処女じゃない」


「えー。あっ。もしかして優くんと?」


「ん。そう」


ちょっと残念そう、かと思ったら悪い顔してる。


「明後日詳しく聞こーっと。さやは、聞いた?」


「はぐらかされた」


「ほうほう、ますます、気になりますなー」


ますます悪い顔だ。

他愛のない話をしてるうちに周が目を覚ました。


「あ、周くん。目覚ました?」


ーside 周 ー


目を覚ますと雫さんが覗き込んできた。


「あ、周くん。目覚ました?」


今これどーゆー状況?

なんでさやに膝枕されてんだ?


「あ、おはようございます」


「周、おはよ」


「おはよ」


なんか、起きたらこんな状況なのは初めての体験です。


前かがみになってるさやに言う。

このまま起きると頭にあたる。


「えっと、さや。体起こすから頭どかして?」


前かがみになってるとさやの神、じゃなくて髪が顔に触れてこそばゆい。


「ん。わかった」


体をおこし立ち上がるも結構強めの立ち眩みに襲われる。

よろめく体をさやと雫さんがそっと抑えてくれる。


血吸われてこんなになるのは最初くらいだな。


さやを怒らせるとやばい。

これからは気をつけよう。


そう心に留めておく。


「夕飯なんかリクエストある?雫さんも食べていきますよね」


ちょうど夕飯の準備を始める時間帯だ。


「うん。今日は泊まっていくから。リクエストは肉物!」


後ろでさやが初耳だと言わんばかりに驚いている。


「あ、ごめん。いってなかった。もしだめなら、周君の家泊まるしー」


それは困ります。


「だめ!うち泊まっていい」


なんか、今日さやのガードがすごい気がする。

たしかに雫さんは超美人だけど、そもそも年齢的に次元が違うからなぁ。



そんなことを、考えながら思いついた夕飯を提案する。


「夕飯は親子丼でいいですか?」


「お、いいね」


「ん。いい」


冷蔵庫を開けるとシャンパンが

野菜室には赤ワイン


雫さんの方を見ると片目で舌を出し頭をコツンと叩く。

うわぁ。


「こんなに飲めるんですか?」


「大丈夫大丈夫。ワインの2.3本すぐ飲み切るわ」


どうやら大の酒好きらしい。

しかも、めっちゃ酒強いらしい。


「さてと作りますか。」


材料は

ごはん 玉ねぎ 鶏もも肉 卵 サラダ油 かいわれ大根 調味料諸々


とりあえず材料を切っていく。

玉ねぎは薄切り、もも肉は一口大。

卵をボウルに入れて溶いていく


今日はさやだけでなく雫さんにも料理する姿をジーッと見られる。

なんなんだ、あのひとら


フライパンにサラダ油をひき中火で熱し。切ったもも肉を炒める。

色が変わってきたら、玉ねぎをしんなりするまで炒め。調味料を適量加えていく。


いいかおりがしてきた。

さっきまで真剣なまなざしで見ていた。雫さんはよだれをたらしそうになっている。


中火で煮込み汁が半分位になったら卵を2/3いれる。これふわふわポイント

すこし固まったら残りの卵を入れて中火で10秒くらい熱して火から下す。


ごはんに盛り付け。カイワレ大根を飾ったれば


はい完成


雫さんのためにシャンパンを冷蔵庫からだす。

グラスを食器棚からだす。


「コルク抜いちゃっていいですか?」


「あ、いーよー」


確認をとりコルクを抜く。

あいにくとシャンパンクーラーみたいなやつはないのでそのまま。

なんでこんなに詳しいかって?親が好きなんです。


赤ワインは食後に飲むようらしいから野菜室からだしておく。

こうすると、飲むときにちょうどいい温度になる。

(物によるけど)


さやと雫さんはすでに席に座り、今か今かと待っている。


…犬みたい 


「「「いただきます」」」


二人ともパクパクパクパクと結構な勢いで食べる。


さて、おれも食べよっと。



んーいいねー肉は程よく柔らかく。卵はふわとろ

玉ねぎには汁がしっかりと染み込んでてほどよくやらかい。


うまい。


我ながら上出来だ。


二人もおいしそうに食べてくれる。


「んー周君のごはんおいしいね!?うちで専属でシェフやらない?月80いや100万だすよ!」


お世辞にもそんな大金出そうとする雫さんの財力に震える。


「むーだめ」


ここでもさやの鉄壁のガード。


「ちぇー」


ご飯を食べ終わり皿の片づけはさやに任せる。


「なんか、もう夫婦みたいだね二人」


「あははー」


なんも言い返せねえ。


「周くん。赤ワイン出してくんない?あと、シャンパンはしまっちゃって」


「あ、はーい」


シャンパンストッパーをつけて冷蔵庫へしまう。


赤ワインのコルクを抜き

新しくグラスを出し注ぐ


「はいどーぞ」


「ありがとー。周くんってお酒くわしいよねー」


「親の影響ですねー」


「そーいえば、そうだったね」


肩肘を付きグラスを揺らす仕草をする。雫さんはすごいかっこよかった。


「周くん。果物ナイフある?あればちょうだい」


「ありますけど、なにに使うんですか?」


そういって、雫さんにナイフを手渡すと


スッ


指先を切られる。


切れた先から赤い血が一滴ワインへと落ちる。


「ッ!な、なにすんですか?」


「雫さん!ダメ!」


雫さんは切れた先をパクっ食わえられる


「むーーーー雫さん!!!!!」


「んーおいひい!!」


さやが俺の手を取る


「もーちょっと。もーちょっとだけ」


「ダメ!」


お、こわ。


ガチギレした時のギラリと光る赤い目。マジこわ!


「ごめんて~」


雫さんが手を合わせて謝る。


「次やったら、絶対ゆるさない。」


「ふぁい」


どっちか上かわかんないな。これは


諦めて赤ワインを飲む。そういえばさっき俺の血を入れたよな。それ


「なんで、さっき赤ワインに血いれたんですか?」


不思議に思い雫さんに聞くと。

ギロリとさやに睨まれている。


「血いれるとおいしんだよー。普通の人にはわからないと思うけど吸血鬼的はこれをいれてこその赤ワインって感じだよ」


なるほど、吸血鬼特有の文化ってとこか。


「おいしい血ならなおよしって感じ。あ、さやも飲む?」


いや、さや思いっきり未成年なんだけど。


「吸血鬼はお酒に強いのよ」


俺の心を読み取ったかのように答える。


コクコク。飲んでるんですけどー


「ん。おいしい。ほんのり周の味」


らしいです。まぁ、吸血鬼って赤ワイン飲んでるイメージあるよね


「周君も飲んでみなよ」


いや、俺ふつうの人だし…吸血鬼ならいいわけじゃないけど


「大丈夫だって、舐めるだけ。ね?」


ああ、こういうのがダメなんだろうな。

そう思いながら赤ワインをほんの少し頂く。


うん、ふつうの赤ワイン。


「ふつうのと違いは分かりませんね」


「まあ、人間くんにはわからないかー。ふつうの赤ワインの味かー」


あ、やっべ地雷ふんだ。


「しゅーうー」


ぼふっ


後ろからさやに抱き疲れる。

その目は完全にトロンとしてお酒に酔ってる。


「雫さん。吸血鬼はお酒に強いんじゃ…」


「てへぺろ」

何回目だろうか、この人のてへぺろみるのは、


「いやでも、ほんとにおいしいよ。周くんの血」


そんなになのか、全然わかんないわ。


「ほんとに、私のペットにならない?」


「いやです。」


「むー周はわたしのもの~雫にはあげなーい」


今は俺の膝の上に座っている。さやが俺の手を取り自分の手で撫でさせる。

酔ってるとさやのしゃべり方が少し変わるらしい。あと、甘えん坊さんになる。


「ほんとに、なついてるわねー」


「まあ、否定は出来ませんね」


さやの頭をなでてやると嬉しそうに今にも喉をゴロゴロならしそうだ。猫かよ!

撫でるのをやめようとすると頭を伸ばして手に押し当ててくる。犬かよ!


結局ずーっと撫でることなった。別にいやじゃないけど。


雫さんはグラスが空になりワインを注ぐ。


「血ダメかな?」


「だーめ」


今回はさやの鉄壁のガードが発動した。


残念そうに自分の指を切り、血を垂らし入れる。


「あ、自分の血でもいいですね」


「んーやっぱ人の血の方がいいんだけどねーないときは自分のかなー」


グラスを揺らして飲む。


「んーやっぱ、周くんの入りの後に飲むと味気ないなー」


よくわからん。


「そういえば、雫さんって結婚とかしないんですか?」


見た目は上の上。なんでだろ?


「えー、んーとね。結婚はしてたよ。もう死んじゃったけど」


あ、ちょっとまずいこと聞いちゃったかな。


「す、すいません。ちょっと無粋でした」


「いいのよ。まあこれは長寿の欠点よね。友達も愛した人も先に死んでく」


何も言えない。

気づけば俺を背もたれにしてさやはスースーと寝息を立てている。


「でも、だからといってさやと結婚しちゃいけないわけじゃないのよ?」


なんでさやなのかは置いておいて。


「どーゆーことですか?」


「結局は先に死ぬ、それを覚悟してこっちも結婚してんだからね。それに私にとって大切な記憶よ」


何かを思い出したように遠い目をしている。


さやは俺が死ぬ時も見た目はほとんど変わらないのか…



「人間が吸血鬼になる方法ってないんですか?」


「ふーん。なりたいの?」


雫さんの目つきが鋭くなる。


「ふと、気になっただけです」


「なんとなくで聞く内容じゃないわよ。まあ無くはないわね」


キツく言われた。


「ほかの吸血鬼に会ってもそんなこと聞いちゃダメよ?」


念を押される。


「わかりました、気をつけます」


「長寿なんてろくなことないんだから、死ねないのも辛いわよ」


ボソッと呟いたその言葉をたまたま自分の耳が拾った。


「んーしゅぅー」


さやが寝ぼけながらも起きた。


「さて、そろそろ私たちも帰ろっかな。さや帰るわよ」


「んーやだ。周といる」


寝ぼけたさやが駄々をこねる。


「じゃあ、周くんさや頼むわね」


そういうと、雫さんはさっさとさやの家へと帰っていった。さやを残して。


「えーなんでー」


「しゅーう」


酔ってるせいか寝ぼけてるせいか、さっきから俺の体に密着してくる。


「とりあえずさや、家帰ろな?」


「むーダメ?」


「く、ダメだよ」


誘惑を振り切り、帰らす。


「ん。わかった」


フラフラ歩く。さやを家に入るまで見送る。


「あれー。さや帰ってきたのー。ちぇー周くんのイケズー」


なんか言われてるが気にしたら負けだろう。


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