第2話


 夢を見た。懐かしく、そして長い夢を。


 子供の頃は僕も他の子供たちと一緒だった。無知でどうしようもない馬鹿で。欲に忠実だった。あの頃が眩しい。

 戻りたいとは思えない。


 中学生になった、少し大人に見られる年頃。でも僕は子供の気持ちが抜け出せないでいた。

 間違いを犯した。どれほど死んでしまえたらって思ったことか。僕は矮小だった。

 誰にも言ったことの無い本音。友達とかの前で言う「死にたい」じゃなくて、本当に消えてしまいたかった。

 誰にも言えなかったんだ。心の奥底から信じられるような人が僕にはいなかった。縮こまって枕を濡らしていた。



 高校生になった。思考はもう大人だった。物事の意味について考えた。何も意味はなかった。でも絶望も出来なかった。涙も出なかった。大人だから。


 勉強する意味も、友達を作る意味も、恋する意味も、生きている意味すら何も無いんだなって。結局ただのエゴなんだって。虚しくなった。



 高校3年になった。みんなみんなが受験に真剣に向き合い始める。そんな空気が大嫌いだった。なんでそんなに頑張れるんだよ、って。そこになんの意味があるんだよ、って。

 受かりたい、進学したい、就職したい、将来楽したい、お金が欲しい。

 僕が聞きたい答えは何も無かった。その先は?その先に何が待ってる?


 医者になって人を助けたい?

 嘘だ。そんな幻想、物語だけの話だ。


 感謝されて、嬉しかったから?

 違う。気持ちよかったんだ。認められたことが。自分が必要とされていることが。


 その先はきっと考えるだけ無駄で。エゴの果ての欲望と渇望で。


 最上級の承認欲求の表れなんだ。


 けれどそれは僕が得られなかったもの。負け犬の遠吠えでしかない、ただの戯言だった。



 すべてを信じれず、この世界に僕の生きる意味が見いだせず、失望し、何もかもがどうでも良くなって、結局僕は自分の殻にずっと閉じこもっていた。




 あの日共に過ごした泡沫の記憶。

こっそり屋上へと登って2人揃って壁を腰かけて、辺りの町を遠目に一望していた。


「僕は大人になりたくないな」

「なんで?」

「勉強するのも、大学に行くのも、将来大人になって就職して、働いて、お金を得るため。

 なんでお金を稼ぐか。それって生きるためでしょ。お金を得るために、働く。お金がなければ生きれない。生きるには、働くしかない。そこに、意味ってなくない?目的が生きることじゃん。生きるために働いてる。それでは生きてる意味がない。社会にいいように使われてるだけじゃん、って思うんだよね。」

「.......???」

「あはは、わかんなくていいよ。こういう気持ちは無い方がいいものだからさ。でも、僕みたいに空っぽだと、そういうことばっか考えちゃうんだ」

「それ、本気で言ってる?」


 ぷくー、と顔を膨らませて不満顔。


「由依がいる。僕はもう空っぽじゃなかった」


 「うん...」と満面の笑みで頷く君。その笑顔だけで僕は癒される。


「意味って何だろうね。」

「本当にね。

 僕もずっとずっと考えてる。でも結局無意味に帰着する。思考することすら無意味だと言われてるみたい」

「やっぱり、感情論なのかな」

「うん、きっとそうなんだろうな」

「エゴだね」

「本当にどうしようもないエゴだ」

「そして僕が由依とこうしてずっと居たいのもエゴ、僕のわがまま」

「...私も」


 2人で共有する思い。それだけで僕の心は軽くなった。誰かがいるって、話を聞いてくれる人がいるっていいな。吐き出すだけでも和らぐ。


 淡いひと夏の逢瀬だ。


 君の吐息が僕をくすぐるほどに近い距離。寄り添い合い、君は頭を僕の肩に預けて、僕達はそっと手を重ねた。


ふとした時に、それも泡沫のように消えてしまいそうな君を手離したくないと、ずっと強く握った。そんなことに歯牙にもかけず、にぎにぎとイタズラをする君はいつまでも君のままだった。

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