終わりの始まり
アークアリス
第1話
一人の男が痩せた木の幹に凭れ掛かっていた。
貧相な服に身を包み、鈍い剣を腰に差している。
辺りは深い霧に包まれた森で、一寸先も見えぬほどだ。
幸か不幸か気配も一切せず、何かに襲われることも無いだろう。
兎にも角にも進むべきだとあなたは考え男は歩き始めた。
特に戻るつもりも無いが通りすがりの木に剣を打ち付けて目印を付けつつ進んでいくと、あんなに濃かった霧も徐々に晴れていき、森の境界までやってきた。
境界には古びた民家が一軒ぽつんと建っており、煙突から出ている煙が中に何かがいると教えてくれる。
民家を素通りする選択肢もあったがあなたはそれを選ばず、男は民家へと足を進めた。
中は一部屋で構成された造りで奥に暖炉がある。
中央に置かれた大きな机には幾つかの物が適当に並べられ、部屋の端にも物が散乱している。
暖炉の傍の安楽椅子に一人の老婆が座っており、こちらに顔を向けることなく男を手招きしている。
「今は何回目だい?」
老婆の質問にもしかすればあなたは答えられたかもしれないが男は黙ったままだった。
暖炉の炎は赤ではなく黒く揺らいでいた。
「まあ好きに持っていきな。」
机の上には九つの物が載っている。
小振りの背嚢、十字架の描かれたブレスレット、赤の小瓶、青の小瓶、ぼろい地図、紫のチーズ、蒼色の砥石、荒縄、透き通るナイフ。
また部屋中に薪も落ちている。
あなたはその幾つかを選び、男はそれを背嚢に入れて背負った。背嚢は小さく、多くても四つしか入らない。
もし男が透き通るナイフを手にしたなら、何かに憑かれたように老婆に襲い掛かり、その喉元を掻き切っただろう。
ナイフを持った手の甲には白い複雑な刺青が浮かび上がる。
老婆は粒子となって霧散し黒い炎に消えていき、後には黒い指輪が残されていた。
それも勿論、男がナイフで叩き割った。
老婆が生きている状態で外に出ようとしたのなら、直前で後頭部に軽い衝撃が走る。
それは黒い指輪だった。
老婆はさっさと家を出るように手で追い払ってくる。
男は指輪を左手の薬指に嵌めて境界の民家を後にした。
:アイテム紹介:
■小振りの背嚢
┗ 見た目よりは入る小振りの背嚢。四つまで収納できる。
■十字架の描かれたブレスレット
┗ さび付いたブレスレット。だがしかしその意匠には目を見張るものがある。
■赤の小瓶
┗ 中に液体の入った小瓶。臭いを嗅ぐと意識が飛びそうになる。
■青の小瓶
┗ 中に液体の入った小瓶。匂いを嗅ぐと安らかな気分になる。
■ぼろい地図
┗ インクがくすみ始めている四つ折りの地図。平原の出かたが記されている。
■紫のチーズ
┗ 時折紫色の風を吐き出す穴が開いている。とても硬い。
■蒼色の砥石
┗ 鈍く光る砥石。水を使わずに刃物を研げる便利品。
■荒縄
┗ ただの縄。
■透き通るナイフ
┗ ガラスの様なナイフ。意思無き物に正義を与える。
■黒い指輪
┗ 最初の老婆が持っていた黒い指輪。
終わりの始まり アークアリス @902292
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