第17話 素直
「ねぇねぇ、ジュエリおねぇちゃーん。今はどこぉ?」
「そうね、その砂場の近くよ」
「分かった!ありがとう!」
初衣はボールを砂場の方に向けて投げた。
ボールは転々と砂場の上を転がっていく。
初衣はボールを拾いに行くと、元の位置に戻っては又、砂場に向けてボールを投げる。
ジュエリはベンチに座り、少し寂し気な笑顔で其れを見つめていた。
「初衣ちゃんでしたっけ?可愛らしい子ですね」
不意にジュエリの後から声が掛かる。
「出たな、ストーカー」
「公務ですよ。公認ストーカーです」
振り向くジュエリに、谷口はニコやかに挨拶した。
「その後はお変わりなく?」
「そうね。お陰様で……」
「今日は元気無いですね?」
「私も一応、悩み多き女子高生よ」
「メタルメンタルじゃ無かったんですか?」
「金属だから、
谷口は「ヨッ!」と言いながら、ベンチの背もたれを飛び越えて、ジュエリの隣に座った。
「良かったら悩みを聞かせて下さい。大したアドバイスは出来ないかも知れませんが、愚痴位なら幾らでも聞きますよ」
「……」
黙っているジュエリに初衣が再び近寄る。
「あっ!おまわりさんだー!コンニチハー!」
「こんにちは。初衣ちゃん」
「ねぇねぇ、ジュエリおねぇちゃーん。今はどこぉ?」
「そうね……」
ジュエリは目を瞑った。
「今は滑り台を二人で滑ってるわぁ」
「分かった!ありがとう!」
そう言うと初衣は滑り台の方に向かって走って行く。
「あの子はさっきから何をしてるんですか?一人なのにまるで誰かと遊んでるような――」
一人で楽しそうに滑り台で遊びだした初衣を見ながら、谷口は不思議そうな顔で聞いた。
「過去のお兄ちゃんと遊んでいるのよ」
「えっ?」
「初衣ちゃんのお兄ちゃんは半年前に交通事故で亡くなったの。それで私が一年前の過去を見て、一年前に初衣ちゃんとお兄ちゃんが何をして遊んでたのかを教えてあげてるの」
「……そうだったんですか。優しいんですね」
「優しい人間?私が?それは有り得ないわぁ!」
そう跳ね返すと、ジュエリは又黙り込んだ。
谷口もそれ以上何も言わず、ニコやかに初衣の様子を眺めだす。
本日の太陽と曇の空取り合戦は、雲がやや優勢であり、その為に暑さが若干穏やかである。
蝉の声が遠くで聞こえる中、二人は黙って過去と遊ぶ少女を眺めていた。
どれぐらいしてからだろう……
ジュエリが重い口を開いた。
「私もさぁ……初衣ちゃんと同じ位の頃は、素直で良い子だったのよ。信じられないかも知れないけどさぁ」
「今も素直で良い子だと思いますよ」
「はあ?!何処が!?自分で分かってるわよ!ひねくれていて、馬鹿で、ワガママな最低な女だわぁ」
「そんな事無いですよ。いったい何を悔やんでるんですか?」
「……友達の事」
「何が有ったんです?」
「私さぁ、昔からSNSで有らぬ悪口書かれたり、迷惑メールがやたら多かったりしたの。私、こんなんだから喧嘩で負けた奴等が嫌がらせでしてるんだろうと、ずっと思ってた……」
「違ったんですか?」
「友達だったのよ!しかも一番仲良しだと思ってた子!パストビューで調べて分かったのよ」
「……」
「問い詰めて吐かせたわぁ。そしたらアイツ、グループ全員が私の事を嫌ってるって、言ったの。私が怖くて言えないだけだってさあ!私、馬鹿だから気づかなかったのよ!ホント、笑うわぁ!!」
「それで御友達とは?」
「勿論縁を切ったわよ、グループ全員!アドレスは削除したし、一緒に撮ってたチィックトックの動画も全部消してやったわぁ!だから夏休みに入ってからは、誰とも連絡を取ってない。アイツら全員、顔も見たくないわぁ!!」
「なぜ御友達ともっと話合わなかったのです?」
「話し合う?馬鹿馬鹿しい。過去を視たら、本当に私の悪口言ってるっぽいのに……」
「たとえ言ってたとしても、本気で言ってるのじゃ無いかも知れません」
「じゃあ何で陰でコソコソ言うのよ!疚しいからでしょ!?それが本音だからでしょ!?私に嫌なとこ有ればハッキリ言えばいいじゃない!友達ってそういうもんでしょ?何で本心を隠すのよ?何で表向きだけ良い顔するの?本当に人間って汚い生き物だわぁ!この力を手に入れてそれがよく分かった」
「生きていく為には自分の本心を隠したり、抑えたりする事も必要です。人間には個人個人に欲が有ります。世界中の人間が言動全てを本心のまま、欲望のままに行動すれば、争いが必ず起きます。大規模に成れば戦争が起こるでしょう。そうならないために、お互い話し合い、妥協点を模索するのではないでしょうか?それが社会なのでは?」
「たから言ってるじゃない!それなら面と向かって本音で喋って欲しかったってッ!ずっと、ずーっと友達ヅラしてたのよ!クッソッ腹立つ!ネットの発言ってさあ、誹謗中傷ばかりって言うけど、ネットの奴等の方が本音を言ってくれる分だけ全然マシだわぁ!」
ジュエリの目には薄っすら涙が浮かんでいた。
「人間なんて皆、クッソッ!信用出来ない!全員死ねばいいんだわぁ!」
「貴女はそれを本気で言ってますか?わたくしは貴女の御友達の事は知りませんが、御友達も全部が全部、本気の発言とは思えませんが――」
「……」
「自分本位で事を進めて行くとこが、貴女の悪いとこです。だが、貴女には良い所が沢山有ります。貴女は魅力的な人だから、嫉妬する人もいるでしょう。けど、貴女の事が好きで、貴女との絆を大事にしたいと思う人は、きっと沢山いるはずです」
ジュエリの目から堪えきれずに涙が溢れる。
「私……私さあ……友達皆を守りたくてさあ、いざって時の為に体を鍛えてたのよ……毎日、毎日……本当、馬鹿みたいでしょ?」
そう言って涙を隠すように俯いた。
その姿を見て初衣が走り寄って来る。
「ジュエリおねぇちゃーん!」
初衣はジュエリの膝に抱きつくと、飼い猫のように首を振りながら頭を擦り付けてきた。
「ジュエリおねぇちゃーん、
「初衣ちゃん……どうしたの?」
突然の初衣の行動に、ジュエリは目を丸くした。
「おねぇちゃーんが泣いてたから」
「?」
「ウイね、『お兄ちゃんが居なくなって寂しいよー』って、お
「……そう。凄いお
「おお!ここにも超能力者が居ましたね。これは素晴らしい!世界平和に役立つ、貴重な能力です」
「そうよ!超超能力だわぁ。早く初衣ちゃんにも認定証を出しなさい」
3人は声を出して笑った。
ジュエリはまるで母猫が仔猫にグルーミングするかのように、優しく初衣の頭を撫でる。
そして
「ねぇ、谷口……」
「はい」
「谷口の本当の家族は生きてるの?生きてるなら探してあげようか?」
「……わたくしの過去を視られましたか?」
「少しだけ……何か弱みを見つけてやろうと思って、学生時代を見たんだけど、勉強ばかりしてて詰まんなかったわぁ」
「すいません。馬鹿なものですから、人一倍勉強しなければいけなかったんです」
「アハハハ――私に対する嫌味に聞こえるわぁ」
「わたくしの家族の事なら、お気にせずに。既に亡くなっております」
「そうなんだ。家族の記憶は有るの?」
「施設に入ったのは八歳の時ですから、記憶は有ります」
「そう。初衣ちゃんと同じ位の時なのね……」
ジュエリはあまり触れてはいけない事かも知れないと思い、それ以上は
「わたくしも一つ聞いて良いですか?」
「どうぞ」
「どうしても赤城山の埋蔵金は必要ですか?」
「そうね。人は信じられないけど、お金は信じられる。私にはロボット型のプール要塞が絶対必要なの。作ったら他人と接触しないで、要塞に引き籠もるわぁ」
「要塞で守るべき人も居るんですよね?」
「家族はね。勿論世の中にはアナタや初衣ちゃんみたいなイイ奴が居るのは分かってる。けど、そんな人間はごく僅か。殆んどが信じられない敵よ、敵。アナタが言ったテロリストなんかは、話を聞く耳も持たないんでしょ?戦争しようとする人には加担はしたくないし、なら、お金で自衛するしかないわぁ」
「そうですか、分かりました。ありがとうございます。では、今日はこれで」
そう言うと谷口は立ち上がり、敬礼をした。
「あら?もう帰るの?」
ジュエリはてっきり宝探しを
「近いうちに会うことに成ります。必ず……又、その時お話しましょう」
「必ず?アナタの超能力って、やっぱり未来予知なの?だったら私が埋蔵金に辿り着けるか教えてよ」
谷口は返答せず、何時もの爽やかな笑顔を贈った。
「おまわりさーん!バイバーイ!」
「さようなら、初衣ちゃん。失礼しますジュエリさん」
谷口は公園を足早に去って行った。
残されたジュエリはそれを見送り、大きな溜息を付いたあとにつぶやいた。
「また、何か合ったら助けてくれるわよね――いや、あまり貸しを作らない方がいいわぁ。イイ奴だけど、谷口の目的はあくまでも私を公務員にすることだもん」
ジュエリは首を振り、今度は谷口に助けて貰わずに、自力で霧の結界に立ち向かうつもりだった。
「それにしても、谷口の超能力って何なのかしら?過去を視ても、いまいち分からないわぁ。この間の赤城山の時もジュリヤ達が近づくまで、山の中で突っ立てただけだし……」
「おねぇちゃーん。一緒に遊ぼぉー!」
膝に抱きついてた初衣が、構ってもらえないので寂しいからか、思案するジュエリに体重を乗せ、ブランコを押すように揺すってきた。
「ごめんごめん。そうね、遊びましょう。何する?」
それからジュエリと初衣は、夕方近くまで
そう……
その日は何故かジュエリが居る間、その公園には誰も近寄らなかった。
まるで其処だけが異空間のように……
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